メイドたちの反撃ッ!!!
【では……わたくしは映画を観にいってきます。メイド長】
【……はい。いってらっしゃいませ。念のためのアレはわすれず持ちましたね?】
【だいじょうぶ。心配しすぎですわ】
■ジゼルがでかける際のさびしそうな表情■
■それが妙にメイド長の記憶に焼きついていた■
●■▲
「はぁ……次から次へと悩みのタネが」
「メイド長、憂鬱そうですね。当然です」
「ええまあ、あのくそカメが害悪で頭痛のタネなのは、いつものことなんですけどねっ。……初めて会った時に、いやな予感はあったというのに……!!」
廊下を歩く二人の影。
彼女たちは、とても面倒なことになったと顔をしかめている。
「仲間を見捨てて……なにが残るのでしょうか」
「生きるのよ。たとえ仲間を犠牲にしても」
■脱出に成功したメイド長&コレット■
■なんか勝手に、リリたちを死んだことにしている■
「とりあえず……追いかけてはこないようね。安心したわ」
「あの」
「だけど、油断しては駄目よコレットちゃん。あのゲスカメはどんな非道な手でも使ってくるはず……」
「いやその」
「なに? コレットたん。お腹が痛いの? 大丈夫? さすろうか?」
「離れてください。なんで抱き締めているんです?」
「ふふふふ」
「おしり触らないでくれますかっ。セクハラですよっ」
■廊下の真ん中でコレットを抱き締めているメイド長■
■目は怪しい輝きを放ち、息は危険な音を出す■
「でゅふふ。そんなことないわよぉ……ふひ、すーはーすーはー!! 辛抱たまらんぞこれ……ッッ!!」
「ひいっ」
「せっかく二人きりで……、運命共同体なのだし……! これぐらいはねぇ……ふふふ!!」
「た、助けッ」
助けを求めるも廊下は静かで、希望はない。
コレットは大事なことを忘れていた。
カメ朗とは別の方向で、このメイド長も危険人物であるということを!
このままでは純潔とか何とか色々と奪われそうな雰囲気に戦慄し、コレットは叫んだ。
「今はッ、あの変態カメをどうにかするのが先決ではッ!? ですよねッ!」
「む……その通りね。ごめんなさい。時を間違えたわ」
「全部間違いですよっ」
しぶしぶ離れていくメイド長から出来る限り距離を取って、話を真面目方面に切り替えるコレット。
今現在の最大脅威は、カメ朗であることは事実なのだ。
今頃、リリとシエルがどんな辱めを受けているのか、想像するだけで胆が冷えるというもの。
「あのカメを倒さなければ……、私たちの平穏はないっ」
「ワタシたちが力を合わせれば、きっと勝機はある。ラブラブパワーを見せつけてやりましょう! 愛は勝つ!!」
「……」
目前にいるメイド長も、平穏の為に排除しておくべきか?
コレットはかなりそう思った。
この館の頂点に座らせてはいけない危険人物ではないのかと、カメ朗と共にメイド長がブラックリスト入りする。
「で、具体的な作戦は?」
「むむ……あのゲス、何気にかなりのハイスペックというか……普通に最強レベルなのよね……!!」
「女の敵で最強クラス。悪夢ですか」
「冷静に考えるとモロに悪役よね……。絶対主人公になれないわ……あいつ」
改めて考えるカメ朗の恐怖。
魔導が通じず、物理攻撃もそこまで効果がなく、飛行能力と超広範囲破壊兵器を備え、他者を操作する術もあるなどという、過多な戦力。チートロボット。
まるでスキがない。
ようにも思えるが。
「あるのよね、どんな怪物にだって弱点は!」
「速攻でやってやりますか、見たい日常アニメもありますし」
■二人のクール系メイドが力を合わせ、巨悪を討つべく動き出した!■
●■▲
「リンゴ食いたいな~。リリー」
「ぐうう、分かりましたわよ! ご主人様!!」
「ぐふふふ……! なかなかの気持ちよさ……!! これが君臨者の愉悦……!!」
優雅に座るカメ朗は、近くに侍らせたリリにリンゴが載った皿を持たせ、それを食べさせてもらっていた。
しゃくしゃくと咀嚼しながら、部屋のドアを見て何かを考える彼。
ちなみに、床に空いた穴は金髪メイドのシエルが補修している。
「あいつら……おれに反旗を翻すとは生意気な……!! あとでお仕置きだな!」
己の下から逃走したメイド二人を思い浮かべ、憤怒の表情を浮かべるカメ朗。
憤怒とはいっても、心の底から怒っているわけではなく、単に悪役っぽいムーブを楽しんでいるだけだ。
そもそも悪役を演じるというのは楽しいもの。
カメ朗は今日一日このノリで行こうと思った。
「くははは……小物共が、せいぜい足掻くが良い!!」
「おまえがそれ言う?」
「小物界の覇者だよね~、あははー。小物小物~」
従えるメイドたちからすら小馬鹿にされる有様で、ますます小物オーラ全開なカメ朗。
果たしてこの小物を倒すことは可能なのか、不可能なのか。
リリにはどうせ倒されるという確信があるのだった。
(あの二人なら……こんなスペックだけは無駄に高いカメに後れは取らない!!)
「クク、リリよ。おれが簡単に倒されると思っているな……?」
「!」
「ばぁかめ!! かめだけに!!」
いきなり大声を出すのでリリは少し驚いた。なんか必死に大物ぶろうとしていて、シエルはひそかにあざ笑う。
調子に乗ったカメ朗は笑い、リリに接近する。
「え、ちょ、なにを――」
■数秒後に、リリの悲鳴が響いた■
■そして■
「くくく、来やがったな……!!」
「……!」
「リリ……お前を助けに来たというわけだ」
「ていうか……」
「これ解いてよ!!」
「それは出来ん相談だ」
何故かリリは鎖で縛られ、部屋の中央に立たされていた。鎖は天井まで伸びている。
意味の分からない状況にシエルは問いを投げた。
「なになにー? そういうプレイー?」
「え、そうなの!? やめて気持ち悪い!! なにする気よ!!」
「違うっ、何言ってんだ!?」
変な勘違いをされているので、カメ朗は慌てて弁明を行う。
彼が言うには、悪役としてヒロインを縛っておくのは基本だということで。決していかがわしい意味ではない……それを信じるわけはないメイド二人。
「いい迷惑ね……足が疲れてきたんですけどっ。椅子を用意して!」
「だめだな……絵面的に考えて!」
「なによそれ!? あとで覚えていなさい!!」
「まあまあ、後で魔導教材セットを買ってやるから」
カメ朗の出した条件にリリはしぶしぶ納得した。
なんだかんだで付き合いはそれなりに長く、彼女の性格を理解し始めている彼。
その事実にシエルは逆に危機感を抱く。この変態に理解されるのは気持ちわるい、と。
「ははは、準備はできているぞ……さあ、早く入ってこい!!」
「……」
扉に向けて声を発するカメ朗だが、全然入ってくる気配がない。
ただ気まずい静寂がその場を支配する。
リリは白い目をカメ朗に向けている。
「全然入ってこないじゃない」
「おっかしいなー。タイミングを誤ったか?」
「格好悪いわね……! わたし笑っていいのかしら?」
「なっ、お前の欠陥魔導に比べればましだろ!」
「な!?」
カメ朗の発言にリリは固まってしまう。目を白黒させ、唇を震わせて、顔を俯かせてしまった。
シエルは口に手をやって、やってしまいましたなぁ的な表情である。
それにカメ朗は困惑した。
「ううううぅ……!!」
「な、泣いてるのかっ。ちょ……おれはそんなつもりじゃっ」
「うわあああん!! どうせわたしは欠陥魔導師よぉお!!」
「うお!?」
「しょうがないじゃない!! どれだけ頑張っても、少しも魔導が上手く扱えないんだからァ!! ああああ!!」
泣き叫ぶリリの様子に引き気味のカメ朗。
地雷を踏んでしまったようで、彼はシエルに助けを求める。
「ど、どうすればッ。おいぃ、シエルヘルプゥッ!!」
「あーあー、やっちゃったねぇー。これはこの部屋全壊は覚悟しないと~」
「うそォ!?」
■見渡す部屋にはカメ朗の私物の数々■
■その中の一つに目が留まる■
(天然純朴系アイドル――【ミネルバ】ちゃんの限定ポスター!!)
■きらりと輝くアイドルの瞳と目が合った■
「だめだああああっ!! とまれぇえええ!!」
「天才ぃいいいいい!! わたしは天才なのぉぉおおお!!」
■その時、ドアが開いた!■
「カメ朗覚悟! この館の平穏と安寧と美少女と少しの私情のため、排除するわ!!」
「!!」
突入してきたのはコレットとメイド長コンビ。
彼女たちが見た光景は、カメ朗がリリを両手で押さえこんでいる姿。
ちなみにリリは鎖で拘束され、スク水はところどころ破れ、涙を流している。
「有罪ー!! アウトー!! 倫理クラッシュー!!」
「ラジャー」
「ぐおおお!?」
カメ朗の頭に強い衝撃が走った。
コレットの放った銃弾が彼の側頭部に当たったのだ。
衝撃で吹き飛び、部屋の反対側の窓を突き破り、外に弾き出された。
「リリちゃん!! あの変態に何をッ!? ゆるせないわ!! あの変態!!」
「しっかりしてください、先輩っ」
「あううう、あああああ、もうだめェ……」
完全に意気消沈したリリを見て、怒りを灯すメイド長。
愛する(いずれ結婚予定)部下の一人をこんな風にされては、黙ってはいられないと刀を抜く。
「本当にゆるせない……まさかここまでするなんて……!! さらに見損なったわゲス!!」
「まったくです……。やはりあのカメに館の支配権は渡せない」
■ここに団結する正義っぽい心■
「――ククク、そうこなくてはな」
■ニヒルな笑いを浮かべて、窓から入って来る悪役■
「よくここまで……辿り着いた……が」
「くたばれッ!!」
「うおわぁッ」
いきなり首を刎ね飛ばそうとするメイド長の殺意に、びびってしまうカメ朗。
いくらなんでも演技派すぎると思った。
メイド長はここでカメ朗を仕留めるつもりだが、いまだに彼は悪役に浮かれている。
(ワタシの嫁を……許すまじ、絶対に許すまじ!!)
■刀を構え、スキルを使う■
(隠し職業――【侍】、スキル発動!・睡魔の一太刀!)
「でやあぁあ!!」
「ぬうう!?」
■すさまじい速度の斬撃が、カメ朗に命中した!■




