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百合の気配ッ!?

「しかし任務は果たさなければ……!」 


「結局、戦うのね」


 ロボットと人の激しい戦闘音が響き渡る会場。

 メイド長は敵の刺客の一人、ベルンと向かい合っていた。

 ベルンはまさかの自分のファンで、少し戦闘意欲を削がれている様子。


「任務と言いましたが……まさか、連盟の刺客」


「え、ええっと。それは……」


「ばればれですよ」


「あわわ」


 憧れの人物の前のせいか、ベルンの態度はどうにも頼りなく見える。

 大魔導連盟の刺客であることがバレバレ過ぎるが、彼女は必死に誤魔化そうとする。

 

「原初機械団体……ですっ」


「……」


 本当にその組織ならわざわざ名乗ることなどあり得ないので、まるで説得力はない。

 しかし、周囲にいるロボットは一般では流通していない代物であることを、メイド長は知っていた。

 それを所持しているということは、少なくともかなりのコネを持った組織であろう。


(連盟だとするなら、ロボットを用いたのは疑いを憎き相手に向けるためかしらね)


 メイド長はいくつかの推測を行うが、結局のところ単なる推測だ。

 今ここで目前の賊を捕縛して吐かせた方が早いだろう。

 なので彼女がやることはシンプルだ。


「少し眠っていてもらいましょう!」


■構えた刀が空の光を反射する■


「くっ、まさかネル様を相手にすることになるとは……あんまりよっ」


「様って……」


 いくらなんでも様付けまでされると恐縮してしまう。

 メイド長は構えた刀を少し乱してしまった。

 もしかするとこれはベルンの作戦なのではと思うほどの動揺。


「サインを戦う前にくれませんかっ。迷惑でしたら遠慮します!」


「ええ……?」


「こ、これにお願いします!」


 どこからか取り出したサインをきらきらした瞳で自分に差しだしてくる少女の姿に、さすがに疑いの余地はないと考える。

 受け取った色紙とペンを使って、速攻でサインを済ませる。昔は結構サインを書いていたので、さらさらと済んだ。

 サインを受け取ったベルンは、それを懐に仕舞いこんだ。


「では、お覚悟を!!」


「……」


 完全に戦闘のテンションを崩されたメイド長に、勢いよく斬りかかるベルン。

 その動きには遠慮というものがなく、あまりに切り替えが良過ぎないかと思うはメイド長。

 刀の動きがぎこちなくなってしまう。


「!」


「まあ、だからといって負けないですよ」


■ベルンの曲刀の動きを■

■完全に制する刀の防御■


「やあああッ!!」


「……」


 気迫マックスで斬りかかるベルンの太刀筋は、どれもがメイド長の涼しい顔を崩せない。

 目を瞑っていても防げそうなほどに、メイド長には余裕があった。

 というか時々、何かを思案する為に目を瞑っている余裕マックス状態。


「す、すごい! さすが!」


 感嘆の声を上げるベルンの顔には、期待通りの強さに尊敬の念を強める色があった。

 曲刀の素早さは上がっていき、比例して防御する刀も速度を増す。

 まるで隙の無い刀の結界は、銃弾の雨ですら容易く迎撃するだろう。


「防衛、守護は、私の本領。お嬢様を守り抜く——そのための力」


 歓喜しながら攻撃を続けるベルン。

 メイド長は対照的に淡々と自分の仕事を為す。

 

「【睡魔の一太刀】」


■一閃――!■


「……おみ、ごとっ」


 曲刀がベルンの手から落ち、彼女自身も地に伏せる。

 決着は意外とあっさりと着いた。

 メイド長の一太刀は敵を消滅させずに、ただ静かに防衛を成功させた。

 

「私は敵を倒すのではなく。防衛する者ですので……こういった技も用意してあるんです」


 クールなメイド長は刀を消し、倒れたベルンの寝顔を凝視する。

 体の隅から隅まで舐め回すようにねっとりとしつこく見る。露出が多いので色気ばっちり。

 だんだんメイド長の鼻息が荒くなってきた。


「はぁ! はぁ、たまりませんねっ。可愛い……! お持ち帰りしましょうか……ッ 話を聞かないといけませんし……!」


 違う目的で彼女を連れ去ることを決意するメイド長。

 兄とは別の方向に危険な人物。


●■▲


「ぐふう!?」


 まだ戦闘音が響き続ける会場内。

 見えない敵との戦闘を行っているのは、カイルという名の少女。

 彼女が持つ短銃は赤と黄の銃身を持ち、銃口を囲むように龍の模様が刻まれている。

 

「【ドラゴンショット】。良い魔導具を持っていますね、後輩」


■壁上でうつ伏せになって銃を構えるコレット■

■彼女のライフルのような魔導具は、確実にカイルをロックオンしていた■


「ですが、私には勝てません」


■先輩面のコレットは冷徹に引金を引く■


「がはっ!?」

 

 どこからか飛んでくるコレットの銃弾を受けるカイル。

 射線がコロコロと変わる為に対応は難しく、ただ攻撃を受けるしかない。

 この独特な攻撃方法は覚えがあるので、彼女はすぐに正体に気づいた。

 連盟の先輩、美しきお姉さまのコレットで間違いはない。

 そのことに気づいた時、なぜか頬を赤らめるカイルを不思議に思うコレット。


「変な子ですね。私が叱責すると嬉しそうにしてましたし」


 その反応をおかしいと思いながらも、コレットはとにかく淡々と引金を引く。

 完璧に任務を遂行するという目的を達するため。

 

「そう油断なく」


 銃弾は確実に敵を削り、勝利へと完璧に近づいていく。

 まるで詰将棋のような完璧さだ。

 そうコレットは思った。


「確実に倒す」


 鮮やかな手際は一種の芸術のようでもあり、もしかしたら歴史に残るレベルかもしれない、いや間違いなく絶対にそうだ。

 そうコレットは思った。


「……」


 あまりに楽勝。

 確実に必勝。

 トリガーを引く度に彼女は勝利する幻覚を見た。


「もぐ」


 なので。


「もぐもぐもぐもぐ」


■昼食を食べ始めるコレット■

■右手にサンドイッチ、左手にペットボトルを持ったスタイル■


「ふふ、余裕ですね。これは」


 完璧に調子に乗り始めた。

 さらにはどこからか取り出した雑誌を開き、パラパラと捲り始めた。

 ちなみに読んでいるのは漫画で、お気に入りはギャグマンガである。


「おや、最近掲載順が良い感じ……」


 お気に入りが打ち切られそうにないことを知ったことで、機嫌が良さそうなコレット。

 漫画の内容によってほくそ笑む彼女は、左手のペットボトルを口に含んだ。

 ちなみにりんごジュースである。


「ふふふ」


■いきなり爆風に飲まれるコレット!■


「!??」


■爆風の原因は■


「なめないでください。コレットお姉さまっ」


 さっきまで防戦一方だったカイルである。

 彼女はコレットを目視で発見し、その手にした短銃で撃ちぬいた。

 短銃に込められた力によって。


(ドラゴンショットのアイテムスキル、【龍の咆哮】!)


■その効果は■

■自身のステータスを削り、強力な弾丸に変えるというもの■


(なぜか攻撃が止まったのが幸いでしたが、なにがあったのでしょうか)


 コレットの連射が止まったことで、反撃の隙が出来た。

 先の一撃は必殺の一撃だ。


(まあ、お姉さまなら余裕でしょうけれど)


■一方、その頃■


「はぁはぁ!? な、なんですッ!?」


■コレットは滅茶苦茶焦っていた■


(い、今のはあぶなかった。下手するとやられてましたよっ)


 破壊された壁上を見渡し、冷や冷やしている彼女。

 そこには後輩が思い浮かべる格好いいお姉さまの姿なし。

 戦場でくつろいでいたら狙撃されたアホの子である。


(おそるべきカイル。まさか私の油断を誘い、こんな切り札を撃ってくるとはッ)


 勝手に油断しまくっていただけなのである。

 戦闘中にマイホームムーブを披露するのが油断なんてLEVELに収まるかどうか、それは怪しいところであるが。

 

「今月のお小遣いで買った漫画雑誌が……!」


 若干涙目のコレット。

 焼け果てた雑誌だった残骸を眺めて、嗚咽を漏らした。


「貴方の仇はとります。必ずっ」


 自業自得な結果を他人に責任転嫁した彼女は、今日一番のやる気を見せる。

 あとでカメ朗に雑誌を借りようと決意しながら。


「……はぁ」


■少し破けたメイド服を見ながら■

■コレットは今の状態を嘆く■


「この首輪がある限り、逆らえませんしね」


【自動操作モードで縛っているから、下手なことは出来んぞ】


【なんと】


【もうつまみ食いは許さない。次はおしおきだ】


【そ、そんな】


「許すまじ……これはパワハラではッ」


 なんでもパワハラ認定しそうな勢いの、ポンコツドジっ子メイド・コレット。

 カメ朗にいつか復讐する機会を待つ彼女は、自らが持つ大きな銃を消して・仕舞った。

 それはある事実を示す。

 

「――任務完了」


■連盟の刺客は■

■いくつものナイフに全身を貫かれて、地面に縫い付けられていた■


「く……動けない……!」


■カイルは体が完全に麻痺状態■

■ナイフから出ている、紫色の霧が原因と思われた■


「【インフィニティ・ルーレット】:ナンバー10056、【封印のマジックナイフ】」


■彼女が持つ銃、インフィニティ・ルーレットは■

■多種多様の弾丸を、ランダムに撃つことが出来る魔導具■


「運頼りの銃ですが、運を操作できる私との相性はばっちりです」


■連盟の第五席、【破滅の賭博師】は■

■圧倒的な格の違いを見せつけ、勝負を決した■


(あの一撃はまずかった。いや本当)


 余裕ぶっこきまくって昼食タイムに突入したせいで負けかけたことを除けば。

 の話である。


●■▲


「よし! やれるぞぉ!!」


「ロボ公の動きは鈍くなっている!」


「このまま一気に攻め崩せ!!」


 連盟の刺客たちは倒れ、ロボットたちの動きもぎこちなくなってきている。

 就職者の軍勢は敵の首魁らしき二人が倒れたことで士気が上昇、さらに勢いを増していた。

 ロボットたちの敗北は明らかであった。

 

「さて、私も加勢しましょうか」


 ベルンを撃破したメイド長も、彼等の加勢に向かおうかと思い、走り出そうとする。

 しかし両手が塞がっているのが問題だ。


「う、ううーん……」


「ぺろぺろぺろぺろぺろ――」


■メイド長に人形のように抱き締められているのは■

■眠っているベルン■


「はぁはぁはぁああああ! たまらないわね、この子!!」


「うううぅ」


「このままベッドインしたい気分……!」


 若干うなされている様子のベルン。メイド長にソフトなタッチをされまくっている。

 このままでは彼女の色々が危うい。

 

「フヒヒ……それでは、お楽しみをぉおお!?」


■メイド長の頬をかすめる弾丸■


「おほお!?」


■一気に冷たくなる背筋■


「それはアウトです。メイド長さん」


 壁上にいるコレットの制止だ。

 さすがに後輩の危機を見逃すことは出来ず、しぶしぶ狙撃を行ったのだ。

 まさか、上司の隠れたアレコレを見ることになるとは思わなかったが。


「やれやれ。まともなのは私だけですか」


 カメ朗がいたら失笑されそうな発言。

 その彼は、ロボット討伐軍の中で無駄に熱く戦っていた。


「ほああ!!」


 エセ空手スタイルでロボットを破壊していくカメ朗。

 素のスペックが高いために、素人武術でもなんとか対抗できるようだ。

 やたらと得意げになっている。


(すごい! これが通信教育の力!!)


 謎の感動を覚え、無駄に飛び上がったりする。

 そんなことをしたら狙い撃ちにされそうではあるが、フェイクⅡの攻撃方法は基本的に殴るかビームソードしかないため、届かないのであった。


(オリジナルの技を見せてやるか!!)


 調子に乗ったカメ朗は空中からの急降下正拳突きを思いつき、さっそく披露しようとする。

 狙うは孤立しているロボット。

 

「うおおお!!」


 急降下を行い、勢いを保ったままの正拳突き。

 すさまじい勢いなので、上手く決まらなくてもロボットを粉砕するだろう。

 拳は目標のヘッド部分目掛けて放たれた!


「おおッぐほあッ!??」


■カウンターを受け、弾き飛ばされるカメ朗■

■そのまま氷の城に叩きつけられた■


「う、うわあああ!?」


「こ、これは!?」


「殲滅、殲滅、殲滅スル!!」


■ロボット群のボディが真っ赤に染まり■

■さっきとは別物の動きで攻撃を開始!!■


「なにごとっ」 


 遠くで起きている異常事態に顔をしかめるコレット。

 ロボットたちの外見が変化し、客たちを圧倒し始めた。

 魔導具のスコープ越しにロボットの変化を観察する。


「あれは……」


 そしてある重大な変化を発見した。

 フェイクⅡの左胸に輝く、赤い金平糖のような形の物体。

 本当に金平糖を連想してしまい、コレットは少し食欲を刺激される。


「まさか金平糖では」


 さすがにそれはないだろう。

 ばかな考えを捨て、真剣に考えを巡らせる。

 あの異常な輝きを放つ物体のせいでロボは強化されているということ、そして、自分には見覚えのあるものだ。


「魔導テクノロジーっ」


■魔導とオーバーテクノロジーの融合■

■それが魔導テクノロジー!■


「源流魔導……魔導の元となるそれを、オーバーテクノロジーに組み込み、すさまじい力を発揮させる技術っ」


 魔導とは源流魔導と呼ばれるものを人体に組み込み、発動する技術。

 ならばそれを機械の体に組み込むことは可能なのか?

 そういった発想から生まれたのが、この魔導テクノロジーである。


「想像以上ですっ。この力っ」


 さっきまでイケイケだった就職者軍団が押され始めている。ビームソードによって破壊されていく魔導具。強化された鉄拳は容赦なく彼等を消滅させていく。

 ロボの数は十にも満たないが、今度は味方側が敗北寸前である。


「援護しなくてはっ」


 銃を構え、ロボの集団に向けて放つコレット。

 ルーレットは【3】を示し、凄い勢いの鉄の銃弾がロボの頭に直撃した。

 だが破壊は出来ない。

 あまりの装甲の堅さに弾かれてしまった。

 もしかしたら物理耐性がアップしているのかもしれない。


「どうしたら……っ」


■その時、スコープに映った人影■


「……」


■コレットは一計を案じた■


「も、もうだめだあああ!?」


「強すぎる! なんてこったっ」


 ロボ軍団のやばい猛攻の前に撤退する者達もいる。

 さっきまでの勢いは消え、一気にヘタレ化してしまう軍勢。

 それでも勇敢に戦う者もいるのだが。


「ぐああッ!?」


 いきなり吹っ飛ばされて散り散りになってしまう勇敢な者達。

 ロボットの新しい機能なのか分からないが、動揺しまくる他の者達も逃走を開始した。

 完全に総崩れである。


「お、おしまいだあああああ!!」


■敗北者の絶叫が響き渡る■


「ふ、ふふ! どうやらわたしたちの勝ちのようねっ」


 地面に固定されて動けないカイルは、かなり情けない格好のまま勝利宣言を行った。

 メイド長ですらまともにダメージを与えられないロボットを前に、そこらの就職者が何を出来るというのか。

 メイド長はロボット一体と交戦しながら、歯噛みした。


「く、こんな時に。ブレイン君はっ」


■まだ残っている伏兵・ブレインは■


【その男なら、ビームをまともに食らって真っ先に消滅しましたよ?】


【ええー】


■なんと既に退場していた■


「肝心な時に役に立たないんだからッ。もうっ」


■劣勢は覆せず■

■敗北は時間の問題と思われた■


「――感謝するわ。コレット」


■しかし、彼女は勝利を確信する■


「くそ生意気な後輩のお前でも、ね」


 ミニスカサンタ姿の美少女。

 連盟の落ちこぼれ。

 欠陥魔導師のリリ!


「なんだァ!?」


 いきなりせり上がるのは雪の大きな壁。

 それがリリとロボット四体を隔離した。


「これなら、存分に私の魔導を使えるッ」


 リリから発せられるすさまじいエネルギー。

 それは急速に膨れ上がり、彼女に襲い掛かったロボット四体を飲み込んだ。

 

「食らいなさいッ!!」


■殲滅の大魔導がロボット四体を吹き飛ばした!!■


「な、なんなのこの轟音っ。なにがッ」


 混乱したカイルの目の前で崩れていく雪の壁。

 その先に立っていたのは、ボロボロの服のリリ。

 ロボットたちは焼け焦げて、行動を停止しているようだ。


「ば、ばかな。あんな落ちこぼれにッ!?」


 フェイクⅡたちを破壊された事実。

 しかも見下していたリリがそれをやったということが、カイルは信じられない。

 

「なかなかやりますよね。先輩のくせに」


 雪の壁を作ったりしてフォローを行ったコレットは、ぽつりとつぶやく。



「や、やったわよ……!」


 満身創痍のリリは笑みをうかべた。

 己の魔導を使って、あの強力な兵達を倒せたというのだから。

 なんだか満たされている気分だった。


「私の魔導も……捨てたものじゃ……」


 安堵したその時。

 背後から彼女に襲い掛かる影があり。

 ビームソードを持ったフェイクⅡだ。


「きゃああああ!?」


■悲鳴を上げるリリ!■


「だめだめ~」


 リリの頭に振り下ろされようとしたビームソードが、その動きを止めた。

 見ると、ロボットの体を光り輝く鎖が拘束している。


「ボクの劣等生なトモダチに危害を加えるのは、許さないよ~。たかだか鉄くずごときがさぁー」


 現れたのはミニスカサンタ。

 金髪ロングの髪を揺らしながら、彼女はゆっくりと歩いてくる。

 両手に持っているのは、ムチ型の魔導具・【ベイン・シュトローム】。


「悪い子にはお仕置きだよ――! あはは! 無価値なスクラップになっちゃえー!」


 黒い蛇がうなりを上げて、ロボットの体をぶっ壊した。

 メイド長にすら破壊できなかった鋼のボディは、見るも無残な残骸に。


「ふふふ、貸しだね。リリ。今日からボクの奴隷決定~」


「シエルさん……いたんですかっ」


「本当はサプライズで登場する予定だったけど~、まあ、仕方ないね」


「地区長に勧誘されたみたいですね。今回は助かりましたけど」


「そうそう、あの人すごい積極的だからー。押し負けてねー」


「カメ朗と同種よね……あんなのが地区長っ」


「カメ朗君の方がちょこっと紳士だよ~。まあクズの背比べだけど~」


 フォローになっていないフォロー。

 シエルもまた、カメ朗のセクハラ被害に遭っているため簡単に擁護は出来ないのだ。

 彼女がちらりと視線を向けた先には、ラジコンを操作しているカメ朗。

 どうやらシエルを操作中のようだ。


「ふー、油断したが、俺の操作技術にかかればこんなもんよ」


「なにをいってるのかしら、シエルさんが凄かっただけでしょうに」


「なにをっ。おれだってけっこうトレーニングしてるんだぞ」


 操作したシエルに肩たたきをやらせるカメ朗。美少女メイドがやるだけで、男子にとって羨ましさ全開の行為となるのだ!

 シエルは不満げながらも、このチャンスを逃すまいと誘惑を放った。


「ねぇ~ご主人様ぁ~。ボクほしいバッグがあるんだけど~」


「ええー、そんなこと言われても。……まあ買ってやるか!」


 肩たたきを受けながら、シエルに耳元でささやかれるカメ朗はにやける。しかも胸が当たっているのだ。

 なんだかんだでメイドたちに甘いところがあり、彼女には完全になめられていた。


「やったー。くそチョロお間抜けご主人さま大好きー、あはは」


「え?」


「なんでもないよぉ。くそぼけご主人様~」


「え?」


 毒を吐かれながらもカメ朗は、ただの幻聴としてスルーするーことにした。

 シエルの毒舌はいつものことである。


「……ていうか、トレーニングってテレビゲームに熱中してるだけじゃない。わたしに一回も勝てないし」


「うぐぐ」


「お前の操作がもっとましならね……努力がたりないんじゃないの?」


 大きな損傷はなさそうなカメ朗は、リリのもっともなダメだしに涙目。

 しかしシエルが破壊したロボで最後のようで、他に動いているフェイクⅡはいない様子。

 安心した客たちがカメ朗達の方に走って来る。


「すごい強いサンタさんだな! しかもえらい美人!」


「カメ朗の旦那! ありがとよ!!」


「うう、怖かったぜ。いったい何だったんだ」


 感謝の言葉などをカメ朗達に告げる人たち。

 ミニスカサンタ姿のリリたちを警備員と間違えている人もいるようだ。

 なんにしても、魔導テクノロジーの怪物を葬ったのは事実。


「へへ、これは正義のカメさんとして記事になるかもな……」


「変態ガメにも良心が!? て、見出しね」


「美人サンタさん大活躍とかどうかなー。」


 すっかりマイホームムードのカメ朗達の下に、メイド長とジゼルが駆け寄って来る。

 小刀は太もものホルダーに戻し、彼女も緊張をある程度解いているようだ。


「そんなことより問題は事後処理よ。間違いなく連盟の仕業だけど、証拠がないとまたはぐらかされるわ」


「ソルジャーは知らんぷりだからな。あいつら……真っ黒だぜ!」


「連盟の二人を突き出せば解決ではないかしら~」


「ええ!?」


 シエルの言葉に驚くメイド長。

 彼女の両腕にはベルンが抱き締められている。

 このままお持ち帰りしたかったメイド長は、少し残念。


「……シエルちゃん。ずいぶんと協力的ね?」


「まあねー。トモダチに危害をくわえようとしたのは、許せないし~」


 その友人の中には、メイド長やジゼルもはいっているのだろう。カメ朗もぎりぎり。

 もうすでに、シエルはカメ朗側の味方になっているようだ。


「……」


 リリは複雑な顔。

 シエルの言動に思うところありの様子だが、何も言わない。

 

「まあとにかく、これだけ目撃者がいればソルジャーも……」


■メイド長の近くの積雪がはじけ飛んだ!!■


「!?」


■いきなり現れた存在に、攻撃を受けてしまう彼女■


「ぐッ!?」


 しまったと思った時には遅い。

 抱きかかえていたベルンを襲撃者に奪われてしまう。


「なんだこいつは!?」


「わ、分かりませんッ」


■フェイクⅡが巨大化したような外見の、金色ロボット■

■ジゼルですら知らない、未知の脅威!■

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