その叫びは彼方へとッ!!
「ふぅ。。。」
「……」
「この一冊のために、俺は生きている」
(なんて野郎ッ、【賢者】になりやがったッ。いかれてやがる!)
■店の壁際に置いてあるソファーで、購入した雑誌を熟読している勇者■
■他者など知らぬ、我が覇道はここにありといった立ち振る舞いである!■
「……む、どうした君? 読みたいのか」
「え、いや、別に(読みたいが)」
「そうか……」
呆然として見ているカメ朗に疑問を持つが、すぐに雑誌へと視線を戻すイケメン男。
まるで淀みのない、素晴らしい指の動き(ページめくり)だ。
(いったい、何者だ)
そう思いはするが、カメ朗は視線を男から逸らす。
己の買った雑誌(甲羅に入っている)をしっかりと持ち、店長の方へと顔を向けた。
「じゃあ店長、またな」
「はいよ、当分は顔を見たくない旦那」
「ふっ、次はもっと話を練って来るぜ」
「いや、勘弁して」
■店の壁などに飾ってある、怪しげな品物をちらりと見るカメ朗■
■伝説の魔導具とかあったりして、とか思ったり■
「あるわけないよな、はは」
カメ朗は入口のドアノブを掴み、少し笑いながら扉を開いた。
この後、別の店にでも寄るかなーと、適当に考えながら。
「――金をよこしな。カメ野郎ッ」
「わおっ」
店先で、見るからに怪しい覆面集団が、物騒な弓矢をカメ朗に向けていた。
強盗的な感じ。
カメ朗君は回れ右したくなった。
「おい、聞こえないのかよ!」
「のろまなカメ野郎めッ」
「矢は痛いぜ~、へっへへ」
「注射よりもな~。泣いちゃうぜ~?」
(弓矢ね。やっぱり武器関係は古臭いよなー)
■近代的な島ではあるが■
■武器関係は中世LEVEL■
(そもそも、島の外は……)
「くそ、なにを無視してやがるッ」
「やっちまうかッ」
「痛いんだぜッ、本当にッ」
(島の外か……)
「おい、お前撃てよッ」
「いやいや、死んだらどうすんだッ」
「人としてそれはどうよッ」
(こいつら、何しに来たんだ?)
目の前でコントを繰り広げる強盗に、呆れた風のカメ朗。
そろそろ先に進みたいのが、いかんせん店の前の通りは狭いため、通れないのである。
こうなったらスーパージャンプを使うしかないかと思うのだ。
(配管工に匹敵するジャンプを見せてやるぜ!)
■ぐぐぐと、足に力を入れるカメ朗■
「このヘタレ!」
「なんだとこの野郎!?」
■すごい跳躍力で、強盗たちの頭上に跳んだ!■
「あっ」
「わああああああ!?」
悲痛な叫びがカメ朗の耳に届いた。
彼は強盗たちを跳び越し、着地したあと、背後に振り向く。
そこには、矢が突き刺さった雑誌を見て、泣き叫ぶイケメンがいた。
「俺の、触手■×ロリ〇■●ヌルヌル調教●■▲△写真集がぁああああああッ」
「あいつ、さっきの……」
さっきカメ朗が会った赤い髪の男は、強盗がタイミング悪く撃った矢によって、宝を壊されてしまったのだ。
その狼狽えようは並ではなく、強盗もカメ朗もリアクションに困っていた。
「お、おいっ」
「ああっ」
(ふーむ、どうするべきかっ)
あまりの悲痛な叫びに、カメ朗は何だか放っておけないような気がしないでもなかった。
気持ちは分からないでもないような気分があったり、なかったり。
「触手■×ロリ〇■●ヌルヌル調教●■▲△写真集がぁあ、触手■×ロリ〇■●ヌルヌル調教●■▲△写真集ゥッ!!!!!」
(やっぱり関わらない方が良いな。うん!)
周囲の民家からの視線を感じたカメ朗は、即座に切り替え、さっさと退散することにした。
自分まで同類と思われるのはごめんである。
「――許さん。卑劣な悪党どもッ!!!!!! 神がゆるしても俺ゆるさん!!!!」
「おっ」
いきなり調子を戻したイケメンは、めっちゃ怒っている顔を見せ、遠くに見える強盗たちを睨む。
雑誌を地面に置き、彼はものすごい勢いで走り出した。
「正義は我にありッ!!」
■その速度、明らかに就職者としてのものだった■
■一応、島の法律で過剰な力を出すことは禁じられているのだが■
■そのギリギリスレスレのスピードだ!■
「へー、【職業】は戦士かな?」
■通り過ぎた彼を見て、戦闘においてはめっちゃ強い、【戦士】の就職者ではないかと思ったカメ朗■
■就職者の中にも種類がある!■
「ま、俺は早く……ん?」
退散しようとしたカメ朗がポケットに手を突っ込むと、おしゃれな財布がなくなっていることに気付いた。
そういえば、強盗の一人が少しおかしな動きを……。
「……待て、こらあああああああああッッ!!」
■イケメン以上の速度で走る、素早いタイプのカメ!■




