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第5話 真っ暗は怖いので嫌いです

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!!こいつはヤバすぎる…!


 「んっんっんー♪どースる?ドースル?」


 老人が左手を掲げた。それと同時に騎士達の鎧の隙間から黒い煙が溢れ出す。鎧はキシキシと音を立てて膨張している。


 「おい!ジーク起きろ!ヤバい…このままじゃオレ達…!」


 バキン!硬いものが割れるような音と共に騎士の一人の鎧が弾け飛ぶ。黒い皮膚。血走った目。鎧の下に潜んでいたのは人ならざる者であった。


 「ジーク!!あっ、あ…。なんだこいつら…。」


 3()の騎士が迫ってくる。シルヴィアは別の3体に囲まれている。その向こうには騎士達を操っていると思われる謎の老人。オレはどうしたらいい?


 「ハルくん!今助けます!ハイダ──」


 ドスッ


 鈍い音。老人が数メートルを一瞬で移動し、シルヴィアの下腹部に掌底を食らわせた。


 「ぐっ…ううっ…げえぇぇぇッ」


 「シルヴィア!」


 堪らず倒れこみ嘔吐するシルヴィア。助けに行こうにも、震えが止まらない。足に力が入らない。そんな。せっかく角を手に入れたってのに。こんなはずじゃ。


 「キュオオオオオッ!!」


 片方の角を無くした歪な竜は一声吠えると、魔物と化した騎士達を蹴散らし老人の方へ突進していく。生ける者としての本能か。この地に住まう者としての尊厳か。それはわからないが、


 スパンッ


 竜は夜よりも暗き闇の前に土に還っていった。胴体が倒れ込んだ後、少し間を空けて頭部が地に落ちた。なあ誰か教えてくれよ。オレは一体何のために頑張ってきたんだ?こんな残酷な風景を拝むためか?


 「いいなァいイナぁ!ミンナ元気でワタシは嬉しいいいいいいいいッ!」


 老人は両手で顔を覆い、涙を流し始める。


 なんなんだよ。


 こんなとこで。


 訳も分からないまま死ぬのか?


 「死んでたまるかァッ!!!」


 走り出していた。無我夢中で土を蹴った。馬鹿かオレは!なんでここまでしてジークはオレに尽くしてくれる?シルヴィアはなんで倒れてる?ローズはオレになんのために魔法を教えてくれたんだ?


 『俺とお前なら楽勝だよな?ハル。』


 『やっと元気になりましたね!それでこそハルくんです!』


 『一目惚れってやつ?なんて言うか…貴方が好きよ。ハル。』


 ハル。お前はもう一人じゃない。あの日伸ばせなかった手を。星を。掴むのは今だ。


 「ぬぬぬぬぬぬぬ?一人ぼっチにナったっタネ?どーちマちゅカ?死ニまちゅか?」


 はは。全く舐めた野郎だな。気づけば震えは止まっていた。


 「おいそこのお前!誰だか知らねえが、オレはこの後ローズとデートなんだよ!でも、お前しつこそうだから、仕方ねえからちょっとだけ構ってやるぜ!!」


 右手を突き出し全神経を集中させる。「これ」はローズに見せるためのとっておきだったが、先行お披露目会といこうか!


 「おらァッ!!」


 オレの右手から炎に包まれた一羽の鳥が飛び出す。真紅の翼が老人の顔に一直線に飛んでいく。


 「あーソれ知っテル知ッテる。その程度ノォ低能低威力単細胞魔法でェ!ワタシに傷をつけられるとでもももも」


 操作性を極限まで落としたブレイズバード。ただ一直線に飛ぶだけ。でもその代わり…


 「我ガ闇ノ前ニ──」


 爆発。


 狂気の表情を浮かべた老人の顔が鳥と共に吹き飛ぶ。その爆発はまるで…一輪の『薔薇』のようであった。


 「薔薇色の鳥(ローズバード)。こんな意表の突き方もあるんだぜ?爺さん」


 渾身のドヤ顔。いやこんな日くらい、こんな顔してもいいだろう。本当はローズに見せたかったんだけどな。まあいいか。こんなドヤ顔系勇者も悪くない。


 老人は顔を右手で覆いながら立ち上がった。


 「キヒヒヒ…おもっおもっ面白イイイイイイ…。なるほどね。だがコッちはドッどウかな?」


 老人の合図と共に、倒れていた騎士の姿をした魔物達が再び立ち上がる。この数はキツイか。敵はあのイカレジジイを入れて7人。ジジイ以外のやつらをなんとか倒して、ジークとシルヴィア(こいつら)連れて逃げる。それしか生き残る道は無い。


 「薔薇色の鳥(ローズバード)!!」


 手前の騎士の顔面に爆炎が直撃し、後方に倒れこむ。いける。この日のために練習してきたんだ。こんな得体の知れない変質者のせいで不合格になってたまるかよ!


 「もーいっちょ!薔薇色の鳥(ローズバード)!!」


 二発目も直撃。吹き飛ばされた騎士は別の騎士にぶつかってドミノ倒しになる。


 「射程。威力。申シ分無いナぁ。少し()()()を上げルか」


 老人が左手で十字を切る。


 「よし!このままもう一体!ローズ──」


 言いかけた途端、騎士の一人が瞬時にオレの背後に回り込む。


 「なっ…!」


 強烈な裏拳が脇腹にクリーンヒットし吹っ飛ばされる。なんて速さだ。前言撤回。さっきまでとは様子が違う。明らかに強くなってる!こいつら全員倒すなんて現実的に考えて無理だ。どうすれば…。


 続いて走ってきた騎士が倒れているオレの腹を蹴り上げる。すぐさま別の騎士が宙に浮いたオレを両手で地面に叩き落とす。ガードする隙が無い。意識が薄れていく。


 なんだよ。こんなん反則だろ。さっきのオレのドヤ顔返しやがれ。こんなとき真の勇者がいたならば颯爽と駆けつけて、ピンチをチャンスに変えてくれるんだろうな。オレはそんな勇者になりたかったのに。ローズ…やっぱ合格は無理そうだ。


 コツンッ


 うん?オレをリンチにしていた騎士達の動きが止まる。


 コツンッコツンッ


 どっかから石が飛んできている。ジークの土魔法?意識が戻ったのか?オレは投石の方向を見た。そこにはオレが夢見ていた真の勇者の姿があった。


 「おい!…こっちだ!ボ、ボクだってチームの一員だ!だ、だから、その…。あんまり良い気になるなよお前ら!ボクの名は──」


 あ。ああ。そうか。勇者はすぐ近くにいたんだ。


 「ピロー=フルブライト!!()()()お前達の死刑を執行してやる!!!」




   ―試験開始から30時間経過―




 「うーん!この『シロガネオオカブト』と『月光石』…どっち持っていきます?リクさん」


 黄緑色の髪をしたツーブロックの少年がリクに問いかける。手には水色の球体と、光り輝く鉱石を持っている。球体の中には銀色の体色をした、三本角の昆虫が捕らえられているようだ。


 「くだらんことで話しかけるな」


 リクは冷たく言い放つと左目のスコープのダイヤルを回した。


 「いやー、やっぱ俺この虫欲しいんだよねー。男心をくすぐるって言うかさ?でもこっちの石もいいよなぁ。夜トイレ行く時とか明かりになるし。実用的だよなー。やっぱこっちかなー。『レフ(にい)』に聞いてからにしよ!どこ行ったかなあ?」


 少年は座っていたコンクリートの塀から飛び降りると、辺りを見渡し始めた。


 「ハル(あいつ)もそろそろお題を達成した頃か…あ?誰だコイツ。チッ誰だか知らねえが余計なことしやがって。まあいい。俺たちもそろそろ行くぞ!」


 リクはそう言うと、一人歩き始めた。それを見て一緒にいた少年も急いで後を追いかける。


 「ええー!もー待って下さいよー!レフ(にい)どーこ行っちゃったのかなぁー」






 現在午後2:00。すっかり日が昇り、試験は2日目に突入していた。予想外の勇者に命を救われたオレ。生死の瀬戸際を彷徨っていたオレはなんとか消えかけている命を繋いでいた。ピローが必死に時間を稼いでいる。だがそれも長くは続かなかった。なぜなら、


 「パ、パパ…?」


 たった今、時間を稼ぐ必要がなくなったからだ。


 「貴方の調べはついています。魔道士『ヴィゼフ』。貴方には彼らに危害を加えたことに加え、2年前の空城(スカイキングダム)襲撃の容疑がかけられています。かつて『グラン=ベルガモット』に闇の魔法を授けたのは貴方ですね?」


 極光と共に現れたその人物は、誰もが知る光の賢者(アルヴィス)の聖人であった。


 「カカカカカッ。今サラ無能ドモがこノ世界に何ノ用ダ?」


 『ヴィゼフ』は全く物怖じせず、依然、狂気の笑みを絶やさない。


 「答えて頂けないようですね。まあ、闇の魔法を使っている時点で弁解の余地は無いのだがな。お前達は下がっていなさい」


 ピローはオレを引きずって二人から距離を取った。この人が光の賢者(アルヴィス)のファーゴット=フルブライト。そして、ピローの親父……。なんて威厳だよ。


 輝く太陽が両者を照らす。


 「では、御機嫌よう。光棺(レクイエム)


 ファーゴットがそう唱えると、辺りを眩む程の強烈な光が包む。何も見えない。ただ、狂気に満ちた笑い声が辺りに鳴り響くばかりだった。


 やがて光が消えるとそこに老人の姿はなかった。やったのか?盛大なフラグを立てても老人が現れる気配はない。


 「怪我人多数。医者を呼んだ方がいいかな?」


 いつのまにか意識を取り戻したジークとシルヴィアがあんぐりと口を開けている。無事で良かった。


 「あーオレは大丈夫です。それよりあいつらを……」


 オレがそう言うと2人は笑いながら首を振った。


 「そんなボロボロのお前を差し置いて、俺たちだけ病院に行けるわけないだろ?全く、お前と言う奴は…」


 「ほんとーにっ、その通りですよ。ふふっ、まあハルくんらしいですけど」


 確かにそうだ。気を使うべきだったか。ってこんなボロボロのオレが何で気を使わなきゃいけないんだ!


 「それに。私たちはまだ試験の途中ですよ?早くそこのアンデッドドラゴンの角を持って…あ、え!」


 シルヴィアが驚いた声を上げる。今度は何だ?オレは痛む首を動かし、シルヴィアの視線の先を見ると…な!オレは愕然とした。無い。ドラゴンの角が無い!!!


 「な!角は一体どこに!」


 もしや、さっきのオレとヴィゼフの戦いで粉々になっちまったのか?嘘だろ?アンデッドドラゴンは夜行性。もう新しい角を調達している時間はない。終わった。


 「うーむ困っているようだが。仕方ない。ここは我が光の賢者(アルヴィス)の絶対的な権限を惜しみなく行使してだな。裏口合格なんて形に…ん?あれはなんだ?」


 絶望しているところにおっさんが遠くを見て、目を細めている。次から次へとなんだ…あ!オレ達4人の顔が満面の笑みに変わる。


 それは日の光を浴びてキラキラと光る、「地面から湧き出す」温かな希望であった。

女の子のセリフ難しい。

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