第6話 武人は傍若無人です
謎の狂人ヴィゼフの襲撃から何とか生き延びたオレ達は、何故か湧き出していた「温泉」を入手し、体育館への帰り道を歩いていた。
「目的の温泉もゲットしましたし、冷めないうちにさっさと帰りましょ!」
シルヴィアが若干白濁した温水が入った小ビンを掲げながら言う。ファーゴットのおっちゃんにこっそり回復してもらったおかげで、自力で歩けるくらいまでには痛みが和らいでいた。とりあえず第一関門突破だな。こんな試験がが後何回か続くと思うと頭が痛い。
「なあハル。ずっと気になっていたんだが…」
ジークが怪訝そうな顔で呟く。
「なんで温泉が湧いていたんだ?勝手に湧くもんじゃあるまいし。心優しい誰かが俺達のために掘り当てたと考えるのが妥当だ。でも一体誰が…。」
それについてはオレも気になっていた。明らかに人為的に掘られた大穴。しかも、ファーゴットさんがヴィゼフを倒したのを見計らったかのように祝砲の如く噴き出した。タイミングが良すぎる。
「まあ、あれこれ考えてても仕方ない。今はようやく勝ち取った一次試験合格を素直に喜ぼうぜ。」
「だな。…そういえばピローは先に着いているだろうか。」
温泉を入手した後、ファーゴットさんはピローと2人で話があると、先に体育館に向かってしまった。親子水入らずというやつだろうか。オレ達は別にそれに異論は無く、今は3人で山道を下っている。
「きっと次の二次試験について話してるんじゃないか?ズルになっちゃうけど、あとであいつに聞いとこう…あれ、誰かいる。」
10メートル程先。森の中の少し開けた原っぱに誰かが座っている。見たところ1人のようだ。昨夜の老人のような嫌な感じはしないが、こんなとこで何をしているのだろう。もし生徒ならもうすぐ制限時間の48時間が経つことを教えてやらねば。既にお題を達成しているオレは少し良い気になって、先輩面してやりたくなった。
「お、おいハル!知らない人に話しかけちゃダメだって教わらなかったのか?おい!」
「はぁはぁ…。全く…リクさんは人使い荒いっすよぉ。」
息を切らした少年は、胸を上下させて体育館の床に大の字になって倒れていた。派手な色のツーブロックが目立つ。
「レフ兄はいないし、いきなり温泉掘らせるし…。そんなに大事かね。あいつらが。」
「俺はただ、ハルにこんなところで落ちてもらっては困るだけだ。」
体育館の入り口の門に寄りかかっていたリクは、空を見上げながら言った。
「げげ!いたんすかリクさん…レフ兄見つかりました?」
リクへの愚痴を本人に聞かれてしまった少年は慌てて立ち上がる。リクとは同い年のはずだが、なぜか常に敬語で話している。
「少し準備運動をするそうだ。じきに来る。」
「あのー、大丈夫ですか?もしかしてうちの生徒さんですか?」
座っていたのは見たところオレ達と同年代の少年。変わった形の兜、見たことのない変な服を着ていて、胡座をかいて目を瞑っている。寝てんのか?
「如何にも。」
少年は目を瞑ったまま野太い声で答えた。寝てなかったのか。でもよかった。ヴィゼフみたいな奴だったらどうしようかと思ったが、どうやら比較的まともな人のようだ。
「拙者は『レフト=ライダース』。突然だがお主、拙者と決闘せんか?」
前言撤回。やっぱダメな人だ。関わるのはやめておこう。オレは回れ右して立ち去ろうとした時、あることに気づいた。ここだけ妙に開けていると思っていたが、よく見ると所々に切り株がある。
「ここにある切り株って…」
「うむ。空け者の木々は拙者が全て成敗した。」
さらに前言撤回。間違いなくヤバい人だ。逃げよう!オレはこちらを見守っているジークとシルヴィアの方へ全力疾走した。が…
「あれ…何で。」
おかしい。どれだけ走ってもジーク達との距離が縮まらない。どれだけ走っても、この開けた草原から出られない。半径10メートル程の円なのに。どういうことだ…。
「逃げる事は叶わぬ。拙者の決闘世界からはな。」
これも魔法なのか?こんなの五属性のどれにも当てはまらない。いや、そんなことより、こいつに付き合っていたら時間に間に合わない!
「悪い!完全にオレのミスだ。お前らは先に体育館に向かえ!後から追いかける。…おい!聞いてんのか?」
大声で叫んでいるのにあっちには全く聞こえていないようだ。それどころか目の前にいるジークは辺りをキョロキョロと見回している。まるでオレの姿が見えていないかのように。
「…次なる試練は生徒同士の殺し合いだと聞く。お主に次に進む覚悟があるか…拙者が確かめてやるでござる。」
次なる試練。二次試験のことだろう。なんで試験の内容を知ってんだよ。しかも殺し合い?高校生に殺し合いをさせるなんて光の賢者は何考えてやがる!
「覚悟か…。そんな大層なもんは持ってねえな。チヤホヤされたいから勇者になる!それだけだ!」
オレは右手を突き出し構える。歴戦の戦士を前にひれ伏しやがれ!
「戯けが…!貴様はここで拙者が切り捨ててくれる!」
変な喋り方の変な奴は腰から刀を抜くと猛スピードで突進してきた。一瞬で間合いが詰まる。
「チャンバラごっこは苦手でね。卑怯な手を使わせてもらうでござるぅ!薔薇色の鳥!!」
スカッ
魔法が…使えない!そんな!
「無駄。」
振り下ろされた太刀がオレの身体を斜めに切り裂く。マジか…こんな簡単に死んじまうのかよ。切り裂かれた傷口からは真っ赤な鮮血が…出てない。え?血は?血も涙もない性格だとは思っていたけど、オレって本当に血ぃ流れてなかったの?
「拙者の勝ちでござるな。性に少しばかり難があるが、逃げずに立ち向かったその勇敢さ。賞賛に値する。次なる試練におけるお主の活躍、楽しみにしているでござる。」
そう言うとそいつは霧のように消えてしまった。気づけばオレは切り株を枕にして横になっていた。
「ハル!今までどこにいたんだ!」
ジークが駆け寄ってくる。シルヴィアは辺りを警戒している。
「変な奴に絡まれたよ。いや、絡んだのはオレの方か。」
「変な奴?誰のことか知らないが急ごう。時間がない。」
誰のことか知らない?さっきまで目の前にいただろ。オレの身体を引き裂いた…そうだ、オレの傷は…無い。オレ確かにあの時刀でぶった切られて。夢だったのか?
「ああそうだな。急ごう。」
想定外のロスタイムを取り戻すため、オレ達は魔物に注意を払いつつ、急いで山を降り、無事体育館に到着した。
「お!お前ら遅かったなー!なんとかセーフだな」
体育館の入り口ではピローが腕を組んで待っていた。中で待ってればいいのに、以外と仲間思いな所もあるんだな。いや、それは今に始まったことじゃないか。
「チーム・ピローは4番目ですね。こちら二次試験の受験票になります。無くさないように気をつけて下さいね。」
おーっぱい。が大きなお姉さんが受験票を渡してくれた。先生じゃないな。光の賢者の職員だろうか。どうせおっぱいで採用されたんだろうな。おっぱい。
「あのーハルくん?」
オレがお姉さんのおっぱいに見惚れていると貧乳…じゃなかった、シルヴィアが話しかけてきた。
「本能に正直なのはいいですけど、受験票をさっさと渡してください。それと…胸は大きければ良いって問題じゃないですから。」
シルヴィアが頬を膨らませてこちらを見る。胸は控えめだが、顔は100点なシルヴィアだ。そう言われると納得せざるを得ない。
「…まあ、ハルくんは巨乳の女の子が好きなんですもんね。ローズさんみたいな。」
ローズ。必死に考えまいとしていた。ローズは未だ昏睡状態。でもいいんだ。目を覚ましたら遠征隊合格証みたいのを見せつけてやるんだ。でも、本当は…。
「一次試験通過者に連絡致します。これより二次試験の説明を行いますので、校庭に集まって下さい。」
校庭か。あのレフトってやつが言ってた「殺し合い」って話。もしかしてオレはジーク達とも戦わなきゃいけないのか?そんなのあんまりだ…。
「遠征隊選抜試験、第二次試験『戦闘試験』。これより貴方達には一対一の実戦をしてもらいます。合格条件はこちらの『捕縛ベルト』で相手を無力化すること。制限時間は無制限です。ではこれより組み合わせを発表致します。」
相手を無力化。流石に殺害を勝利条件に設定してこないか。だが、敗北条件にも殺害は含まれていない。それはつまり、間接的な勝利条件として「殺害」という手段が用意されているということ。友達を殺す。そんなこと…。
「対戦カードはこちらになります。」
巨乳のお姉さんが指をパチンと鳴らすと、透き通った水のモニターが現れた。
①ジーク=シュトロハイム VS ライト=ライダース
②アーミッド=マーベラス VS ルナ=フルール
③レフト=ライダース VS ホー=パディ
④リク=バレット VS シルヴィア=レイズ
⑤ピロー=フルブライト VS カリーナ=エイリアス
⑥ガレオン=フェイル VS パイル=マイスター
⑦アーヴィン=ホークス VS ラディッツ=ダダン
⑧ハル=ウォーリア(シード)
ついに始まる二次試験。生徒同士の「殺し合い」。不安を抱き、迎えた決戦はシードスタートだった。なんでやねん。
閲覧ありがとうございますm(_ _)m
これからもほのぼの頑張るハルくんの応援よろしくお願いします。




