冒険者協会
11月21日、第4話投稿。
説明調な文が続くのが自分でも気になりますが序盤は舞台となるゲーム及び主人公のプレイスタイルの性質上、書いておかねばならないものを色々と記述しております。
少しでも早くストーリー中心に話を進められる様、鋭意努力致します。
翌日、宿を出た私は少々憮然とした面持ちで冒険者協会を目指していた。
昨日の私は、今朝まで持続する様な高揚感に包まれており、自分でも自重せねばと内省するくらいの浮かれ様だった。
今朝、一番で晴人とケンカした。今思えば、大人げのない事だ。
「でさ、エルデフトにはアスロって街があってさ、その北にあるソハール高原ってとこが新人達にとってのいい狩場なんだよ。そこで修業するにあたって、協会で知り合った新規参入間もない人らと協力しあう事になってさ、八人位でメンバーをローテして狩りをしつつ、死亡率を減らそうって。そんな中、素材目的で来てる中堅プレイヤーのアスナムさんて人と知り合えてさ、色々と…」
遅くまでプレイしていたであろうが、朝一でこの具合だ。まあ、私もかなり熱が入ってたし。それだけなら別に良かったんだけどね…
「は?協会登録もしないで市街散策って、どういう事?」
ふと、私の方の話を聞いて、彼が呆れた様な声を出す。
「登録は最優先事項だろ?チュートリアルの一環だぜ」
「それは分かってるよ」
「分かってないだろ。街中にも死亡判定はあるんだぞ」
「当然ね。通り魔のいる可能性は考慮しつつも、街中の状況把握を始めた過程で昨日は情報収集と検証に費やそうって私が判断しただけだしさ」
「そんなの後だってできるじゃないか。そうしなきゃクリア出来ない訳でもなし、意義のある事とは思えないな」
「む、なにそれ!クリアして終わらせる気なんてないし。そういうゲームじゃないじゃん!あの世界には時間毎に変化もあるし、店舗には優劣も有れば、タイムセールとかだってある。モブキャラだって思考ルーチンが組まれて、活動してる。過ごしてく一瞬、一瞬が無駄とかいう考え自体がナンセンスなんだよ」
「それにしたって、プレイヤー恩恵抜きでの行動は愚策だろ!」
「ずっと登録しないなんて言ってないし、フリーシナリオゲームでテンプレとか強要しないでよ。そっちこそ、アスロの街が~とか言ってたけど、殆ど狩場の話しかしてないよね!その街の風習は?地区分けはどうなってるの?人口は?定期イベントは?住んでる街の情報すら疎いまま狩場に突っ走って、それで上手に生きていけんの?」
「もういい、分かった。勝手にすればいいよ。後で泣き付いて来たって俺は知らないよ」
「そっちこそ、無駄死にしない様にせいぜい気を付けるのね。戦場はきっと街の比じゃないくらい死と隣り合わせでしょうから」
「三ヶ月だ。俺は三月で何らかの結果出して見せる。その時に見せ付けてやるからな!」
「面白いじゃない!いいわよ、私は戦場には出ないけどアンタに劣らない結果見せてあげる!」
とまあ、こんな感じである。まあ、元々別個にゲームしてる訳だし、三ヶ月後にコンペするノリだと考えれば良い刺激になるかもしれない。次に会う頃までには、クールダウンした形で会えるだろうし。
宿を出た私は、東街区を西に向かって歩く。このリオレの街は、田んぼの『田』の様な形を考えるとわかりやすい。
正確には、人口増加などに伴って区画も変化して複雑化しているらしくて少しいびつなのだが、十字に通る道の交差する点の周辺が、市庁舎をはじめとした重要施設の並ぶ中央区。
その中央区から東西南北に走る十字の大通りがそれぞれ東大通り、西大通り、南大通り、北大通りである。
北大通りの東側、右上の四角内が役人や有力者達の住む豪邸があるブルジョアの多い北街区。
東大通りの南側は右下の四角が一般市民居住区及び地域密着型個人店の立ち並ぶ下町、東街区。現在いる所。
南大通りの西側、左下の四角が生産者の集う職工の街、南街区。
西大通りの北、左上の四角が大手や老舗が建ち並ぶ商人たちと外からの旅人の多く集う西街区。
昨日泊まったのは、東街区内でも一番隅の方、東南部の外壁付近にある宿だったので、私はチェックアウト時におじさんに協会の位置を聞いて移動中だった。
この街に冒険者協会は四ヵ所あり、今はその中で東街区の中にあるという冒険者協会東支部に向かっている所である。
「この辺だったハズだよね?」
魚、肉、果物の絵が描かれた保存食の卸問屋の傍と聞いていたが、協会っぽい大きさの建物はない様に見えた。
仕方がないので歩いていた犬顔の男性に訊ねると、彼の指差す先には看板もなく、地味で古びた二階建ての屋舎が。
パッと見、テナント募集物件だと思ったよ。
「こ、これが!?」
でかい市役所の様な所を勝手にイメージしていたのだが、その外観は古びた田舎の郵便局みたいな感じだ。まあ、登録するのにデカさは関係無いけどね。
とはいえ、慣れてしまえば逆にこれは味があっていいんじゃないかとも思えてきたぞ、隠れ家っぽくて。大きな市庁舎だと、面接に行く様な圧迫感を受けてしまいそうだし。
「こ、こんにちは~…」
ゆっくりと、恐る恐る顔を覗かせる様に入ってみる。やっぱりというか、中には数人程度しか居ないみたいだ。
扉くぐって、左手が二階への階段。中央が狭いホールになっていて、正面にカウンターがあり、窓口は二つ。今は向かって右側だけが開放されているらしく女性が座っている。その奥の事務スペースでは一人、オジサンが書類を書いている様だ。
ホール挟んで、階段の対極位置には机と椅子が二対、六人ずつ十二人が座れる様になっており、その他に四人掛けの黒い皮張りの長椅子が二つ置かれている。
私は丁度カウンターの女性と目が合ったので、軽く会釈をしつつそちらへと向かった。
「……ッ!」
思わず変な声が出そうになったのを必死で耐える。利用者もなく、お役所っぽい静けさに少々固くなっていたのだが、右脇の椅子にいる人が目に入って来た。
それは忘れる筈もない、昨日の眼帯した色黒スキンヘッドだ。ここにも居るのか!
一瞬、双子か?と思ったのだが日を跨いでいるので多分同一人物だろう。これが量産型だったら恐すぎるでしょ。
昨日見たときから、ブラックマーケットの元締めか、◯クザだと思ってたが、市民の味方にもなっている冒険者ギルドにいるという事は、フダツキじゃない。つまりは、冒険者でPC?プレイヤーキャラなのか…
そんな浅黒い坊主頭が、優雅に花柄のティーカップで焼き菓子と一緒にお茶してるなんて(しかもハーブティ。匂いで分かった)、なんか調子狂わされるが、取り敢えずは気を取り直してカウンターに立つ。
「あの、登録をお願いしたいのですが」
見るからに人柄の良さが滲み出る、二十代半ば位の受付員に声を掛けると、彼女はパッと花咲く様に微笑んだ。
「まあ、それはようこそいらっしゃいました!登録希望の方なんて久しぶり。歓迎致しますわ!」
「はぁ、久しぶりですか」
「あ、失礼致しました。ここ数年、冒険者候補の方は減少の一途を辿っておりまして、我が東支部でもご新規様が居なかったものですから、つい。改めまして、リオレ冒険者協会東支部事務局窓口係次席登録認証官、ナルハが受けたまわります。登録官ランクはA+です。よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
ナルハさんは、私にカウンター越しの椅子へ座る様促すと、引き出しから一枚の用紙を取り出した。
紙にはテスト用紙の如く記名欄があり、その下には大きな手形のシルエットらしきものが描かれている。更にその下には、金属ともプラスチックとも思えるカードが貼り付けられていた。
カードには何も記載されて居ないが、緑のラインで縁取られており、右下の角にはワンポイントとして四葉のクローバーが描かれていた。
「手形の上に手を重ねておいて下さいね、ステータス情報を私がカードに彫金致しますから」
そう言ってナルハさんは耳掻き位の大きさのノミの様な器具を用いてカードに文字を刻み始めた。どうやら手形に手をかざしていると、その者のステータスがカードに鈍く映る仕組みになっている様で、彼女は素早く、そして器用にそれを刻んでいくのだった。
「完了です。仕上げに、ここへサインをお願いしますね」
恐るべき速さで文字を刻み終えたナルハさんの指示で、記名欄に『コト・イワク』と備え付けのペンで書くと、カードは一際輝いた後、消えてしまった。
茫然とする私にナルハさんは微笑む。
「これですべて終了となります。驚かれたかも知れませんが、このカード登録法は、契約魔術を改良して造られた、協会の秘匿魔法の一つです。『データ』と唱えれば、カードが手元に具現し、『クローズ』で消す事が可能です。私が彫ったのは、現在の貴女のステータスに他なりませんが、カードの魔法により、今後は成長と共に内容が自動更新されますのでご安心を」
「これで、協会にも登録されたのですか?」
「ええ、今ので協会本部の情報保存水晶に貴女の事は登録済みですよ」
この後、協会員としての決まり事や特典、利用可能施設等の説明を受けたが、特に大きな問題もなく終わった。
「ありがとうございました。大体は把握したので、また何か気になった事とか伺ったりしてもいいですか?」
「もちろんです!いつでもお待ちしてますね」
「最後に、利用可能施設の件なんですが、協会内に修練所って所があると聞いたんですけど…」
「修練所をご利用ですか?素晴らしい心掛けですね!」
「まだ駆け出しですからね。でも、素晴らしいんですか?」
「めっきり登録者の居なくなった当支部で、修練所を利用する方は殆どおりません。そもそも各国の支部においても、新参・古参含めて、地味な鍛練を嫌って狩り場へと飛び出す方々ばかりなのがこれまでの現状なのです」
「あれ?でも、普通に筋トレや基礎体力など様々なトレーニングが出来るんですよね?」
「ええ、闇雲な実戦よりも、バランス良く鍛える事が可能です」
「……つかぬことを質問しますが、バランス良いレベルアップと無茶なレベルアップ、違いはあるんですか?」
「フフ…ベテラン達でもあまりしない、良い質問ですね。お答え致します。修練所での訓練かつ、基礎中心の修業を必要とするレベル30までの駆け出し期間に限って、レベルアップ時のステータス上昇値が高めとなるという統計が出ております。ゆえに、協会内での見解としては初級ランクの冒険に出る前に修練所で基礎能力を上げるのがバランス的に良いという見方をしております」
いやっっつっっったぁぁぁーーーーーーーッ!!と思わず叫びたくなるのを抑えて、冷静を装う。
嬉しい誤算というべきか、やはりと言うべきなのか、私としてはシティアドベンチャー中心なので元より修練所で修業する気ではあったのだが、大抵の者はパーティーの連携やドロップアイテム、純粋に戦いたいとかの理由から狩り場通いが主流だとは予測していた。
ウィキを見ていた時、それにも拘わらず協会支部会館に修練所があるという事実に違和感を覚え、まあ利用出来るならば行ってみるかと思ったのが最初の切っ掛けだった。
もしかしたら、経験値の溜まり方に差があったりするのかも…という希望的観測から質問した訳だけど、まさかステータス上昇そのものにプラス補整値とはびっくりする程のサービスだ。
この時点で、私のレベル30までの修業は修練所のみに決定したのである。
「修練所は予約して使う感じですか?」
「いいえ。私か、事務課にいるものに声さえ掛けて頂ければいつでも。百人単位で使用しない限りは、予約制にはならないと思います」
結局この後、私は午前中一杯を利用してナルハさんとお喋りに興じた。
やはり、このゲームは他プレイヤーが素通りしそうな所にこそ、大事な情報が隠されている様だ。
彼女曰く、案外気付かない人が多いらしいが、冒険者カードをもらったら基本そのままサヨナラする人ばかりらしく、根掘り葉掘りと質問する者は少ない。
しかし実は、カードにはステータス表示以外にも備わった便利機能があり、協会職員に聞けば教えてもらえるそうだ。あくまで、『聞けば』である。
この冒険者カードというもの、上級者たちの間では名刺や身分証代わりの使い方がされているみたい。
カードに書かれた名前とステータス、これらは指で長押しすると文字色が黒から赤にかわる。黒が通常表示文字、赤が隠蔽効果文字となっており、他者には隠したい所を隠して提示出来るらしい。
その機能のオンオフもクローバーマークの長押しで切り換えが出来、オン状態は長押しすると赤文字表示になって自分以外には見えず、もう一度長押しするとオフ状態になってすべて黒字表示で全開示と瞬時に切り替えが可能だ。
そしてこのクローバー、実は表示箇所で発行支部が分かる仕組みなのだ。右上は本部、右下が東支部、左下が南支部で左上が西支部だ(北はない。北街区は上流階級の住む一等地なので、北部住まいのカード利用者は中央の本部を使う。但し、これはあくまで登録地の割り出し法なだけなので、私が明日から本部通いしたとしても何ら問題なし)。
大事なのはこれを踏まえた次からの項目。
まずは枠色。これは登録地…つまり何処出身かを示す。リオレ…緑、大帝国…黄、覇道国…紫、聖法国…青、幻妖国…桃、反乱軍…赤、諸侯領…橙。
続いて所属。フリーランスの人は、無所属を意味するクローバー。そして士官するとそのエンブレムが変動する。
大帝国…王冠、覇道国…酒杯、聖法国…雫石、幻妖国…ハート、反乱軍…刀剣、諸侯領…渦巻。
つまり例えるなら、大帝国に仕える者たちの身元検査で、黄色枠の酒杯が見付かった場合、スタート地としては地元民だが、実は覇道国に所属している敵という結果となり、投獄もしくは処刑なんて事態もありうるという事だ。
これは、知ってると知らないとで大きなイニシアチブの差が出来る内容だと思う。私自身はフリーでいるつもりだが、接する相手と名刺交換感覚で挨拶を行えば身元や主義思想、上位のネームドキャラか否かを確認出来るだろう。
ただ一つ、注意点としてナルハさんの見立てではこの判別法の信憑性は九割位と思った方が良いらしい。
実際、有るらしいのだ。見分け不可能な偽造手段が。但し残念ながら、協会上層部でも偽造手段を有する勢力の特定がなされていないのが実状なのだ。
私の予想では各国の秘匿技術か、盗賊ギルドとかブラックマーケット的な類だと思うんだけどな…
とまあ、こんな感じで午前は過ぎ、私は昼休憩のナルハさんとランチまでご一緒してしまった。
東大通りに面した、『アントワーゼ』というオープンカフェ。
ホットサンドとパンケーキがオススメで、更に絶品なのが数十種類の果実を用いた【エターナルサンデー】。バケツレベルのドカ食いスイーツであり、要チェック。初めて食らった氷結魔法の洗礼は、まろやかなミルクアイスの味がしました。
さあ、午後は一休みしたら修練所だ。がんばろう……
… … …
NAME:コト・イワク 種族:タト族 LV1 キャラクタークラス:転売屋 RANK:F
STR15 VIT14 DEX18 MEN17 SPD16
《所持金》
36488P
《師事》
『弧を描く餓狼』ガラム・マサラ
《習得技能》
工芸(LV1) ※工芸品知識及び製造におけるプラス補正。補正値はレベルに準ずる。
目利き(LV1) ※一定の商業系スキルにプラス補正。NPC商店訪問時にレアアイテム出現率が微細にアップ。
体術(LV1) ※格闘系スキル。強力な武術ではないが、あらゆる格闘技の基本となっているスキル。
《装備品》
木綿のセーラー、指ぬき軍手、紺のベレー、皮のくつ
《所持品》
肩掛けカバン(12)×2、水筒(小)、ペン付き手帳、遠眼鏡、小型ナイフ、初期財布(100)
《アーティファクト》
鑑定魔のモノクル(C) ※レア度C以下のアイテムの鑑定。
… … …
~リオレ探訪メモ~
◆黒ボウズ (ユニークLV4)
リオレのあちらこちらの食事処で目撃されるオジサン。スキンヘッド、色黒、羊角、眼帯が特徴の大男。大食漢で凄まじい量の食事を取るが、案外とテーブルマナーは良く、デカい手で小さいナイフやフォークを器用に使い、じっくりと味わう様に大食いする。
一見、スジモノにも見えるが、冒険者ギルド東支部に頻繁に出入りしているので、まだ手配等はされていないと推察される。
実の所、出入りの理由は食後の一服に受付のナルハさんが煎れてくれるハーブティを目当てにして現れているらしい。セコいなぁ…
◆ナルハさん (ユニークLV1)
リオレ冒険者協会、東街区支部の受付担当員。利用者が殆ど居なくなってしまった東支部において、受付業務の九割を受け持っているので、場所限定で遭遇率高め。登録認証官という資格を持っており、これがあると会員カードの作成が出来るらしい。その作成技術は東支部でも次席の腕前を持ち、東支部長に次ぐ実力者であったりする。
誰にカードを造ってもらうかによりフォントが異なるので、フォント+枠色、マーク等でカードに個性が出るとの話で、確かに彼女の字は綺麗かつ柔らかさや温かみを感じる丁寧なものなので、私も気に入っている。
無類のハーブティ好きで近所のカフェ、アントワーゼの常連。茶葉を買い集めるのが趣味。彼女のブレンドするハーブティは周囲の者達から絶品と称賛されている。
◆『カフェ アントワーゼ』
リオレ東大通りに面したオープンカフェ。ハーブティとパンケーキ、ホットサンドが中心のお店。
変り種のおすすめメニューとして、『エターナルサンデー』という巨大フルーツパフェが人気。使用されるソフトクリームはシェフの扱う氷結魔法によって絶妙な具合に保たれている。値段はお高めの18パカシ。
「確かに、食べても食べても無くならない美味しさはエターナル級ですね!」と言った所、「それって、【始まりの魔女】様の弟子である『七魔女』の一人、時司りし【悠久】のアントワーゼ様が今なお眠り続けている『永久凍土』を意味してるメニューなハズよ」とナルハさんに突っ込まれてしまった。気持ちドヤ顔で言ったから、超恥ずかしかったんですけど…
ハレーは、コトとは相反するスタンスを目指しており、ゲーム世界の人生において対極を行くキャラです。
この後しばらく出てくる予定はありませんが、コトの目指す道の結果に対して、ハレーの目指す道の結果を時折描写し、対比する形にしていきたいと考えております。