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キャラ・メイキング

「俊樹さん、お久しぶりです!そして、本っ当に有り難うございますっ!!」


 通話回線が繋がり次第、晴人が雄叫ぶ。俊樹さんは適度に相槌で応対しつつ、この後の段取を伝えた。

 それによれば、まず最初に私と晴人はPCのメアド、パスワード、そして紹介者確認用のパスコード(事前に俊樹さんから教えてもらった十四桁の英数字)を入力した上でゲームデータをダウンロードし、それをインストールする。

 このダウンロードはデータ購入をしてから行うのだが、金額は他のVRじゃないネトゲの半額程度とヤケに安かった。

 ラーメンに餃子付けた程度で買えるから、俊樹さんも薦め易かったのだろう。

 インストールの方は随分とデータが軽いようだ。聞く所によると、作成したキャラの基本データの保存フォルダと、運営の保持する大型サーバーへのアクセス用データのみらしい。

 ゲーム内設定によれば、異世界ナロゥへと続く『亜空間ゲート具現用データ』という事らしい。


「これからゲームをスタートする二人は、『始まりの地』というぼんやりと光る謎の空間に出る。そこには、案内人が居て説明とキャラメイクをしてくれるのだが、僕も一緒にそこへ行く。僕の継承パスを入力した者がいると、継承の儀式が行われるという名目で僕のキャラもそこへ飛ばされるから、そこでまずは合流しよう。そっちで色々説明するから、じっくりとキャラを作ればいいよ。制限時間ないし、他者の邪魔も入らないからね」


 端末であるヘッドセットを着け、言われた通りにしてスタートキーを押すと一気に意識が飛ばされる様な感覚を受ける。これにはちょっと驚いた。

 他のVRゲームは、正直言ってもっとちゃちいのだ。これは、意識と感覚がゲーム内に持って行かれた様な感じで、今、自分の身体に繋がってない様な、手足を動かせない様な、幽体離脱っぽいというか、そんな不思議な感覚だった。

 勿論、幽体離脱なんてしたことないのだが…


「ようこそ…」


 突如、光の奔流に飲まれたかと思ったその先には、蒼く明滅する部屋が現れ、一人の女性が目の前に立っていた。


「これは…」


 私自身の身体を見ると、輪郭は自身のものだが、全身がミント色に覆われており、触った感触からすると、目・鼻・口すらない、全身のっぺらぼうな姿になっていた。


「お前…琴美か?」

「晴人?」


 隣にもマネキン細工の様な灰色人間が立っており、晴人の声を発した。

 色が違うのは後で聞いた所、複数でキャラメイクする場合の個体識別用にランダムでカラーリングされるらしい。


「お、二人共来たな!」


 声に振り返ると、そこには幾何学模様のバンダナを着けたロン毛の男性が立っていた。民族衣装風の装束に半月刀の様な武器を腰に二振り下げている。

 顔立ちが微妙に俊樹さんの面影を残してはいるが、目は切れ長で、頬に刀傷があり、ワイルドな剣士を装っている。

 そして、何よりも目を引くのが背中から見え隠れする犬…否、狼の尾。

 前知識が正しければ、ウェアウルフというナロゥ世界に先住する亜人の一種だ。


「俊樹さん…」


「ガラムだ。ここでは基本的に本名はNG。ここからは俺が要所、要所で助言するから、君達は彼女の話を聞いて、この世界での自分を形作るんだ」


「ようこそ、『弧を描く餓狼』ガラム・マサラの意思を継ぐ者たち。わたくしは魔女。『はじまりの魔女』と呼ばれるものです。これから、貴方たちは私の創造したナロゥの地へと赴くこととなります。ですが、彼の地へと顕現するには、わたくしの魔力を宿した肉体へと身体を再変換する必要があります」


 なるほど…そう来ましたか。ゲーム前にキャラメイクを、的な説明で雰囲気をぶち壊さない様に配慮してる訳ね。で、世界創造主である魔女さんが所謂、チュートリアルさんっていう事なんでしょう。

 ガラムさんの意思を継ぐって出だしも私的にはいい感じ。フリーシナリオである以上、プレイスタイルは自由な訳だし、『よくぞ来た、伝説の勇者〇〇!』みたいなノリだったら、自分はかなり引いてたと思う。

 逆に隣にいる灰色はテンション上げるだろうけど…きっとね。


「二人とも、これから彼女の元で様々な質問を受け、ナロゥにおいての自分を象る事になるんだ。僕は継承させる者としてこの始まりの地に同伴出来ているから、判らない時は質問してくれ。この空間内では好きなだけ時間が費やせるからね」


 いよいよのキャラメイクを前にして、私と晴人は互いを見合わせる。もちろん、目も鼻もないのだけれどね。

 そして、ガラムさんへと向き直った。


「あの…僕達、一緒にキャラメイクしないとマズいんでしょうか?」

「いや、そういう事はないが、申し合わせた方が戦略的に色々と便利だし、互いに融通が利くかと思って同じ期を設けた訳だけど…」

「とし…ガラムさん!あの…多分私達って、根本的にプレイスタイルが違うと思うんです。だから、晴人とは前もって別のスタートから向上して、互いを見せ付けようって」


 遠慮がちに言う二人に、俊樹さんは「あっ」と気付いた様に声を上げる。


「確かに。君等はそういう感じだね!昔からゲームしてても、仲良いのに似た者同士って部分が殆どなかったし…そうか、パーティ組むって勝手に解釈しちゃってたよ」


 こうして、別々にキャラメイク出来る事になった。

 実は昨日話した折に、晴人は武勲を上げて大国家に仕官を。私はファンタジーな街を堪能しつつ生産とか販売などを中心に色々とシティアドベンチャーを楽しむと決めていたのだ。


「始めに少し説明させてくれ。まず、性別。これは男女入れ替えも可能だ。ベータ版の頃はそういう連中も多かった。でも、体型による差から動作時における重心移動の違いなどペナルティも大きく、通常行動・動作スキル・戦闘行動などに負担や下方修正が掛かる。常人の能力の3分の1は減じると考えてくれ」


「当然、同性で」

「意義なし」


「次に種族だ。ここが最初のキモになる。ナロゥにおいては、人は基本的に二種に大別される。まずは、チト族。異世界からの召喚者だ。こちらの世界とナロゥ世界の法則の違いの影響を受け、特殊な能力に目覚めた地球人と考えた方が分かりやすい。状態はレベル20からのスタートが可能な所謂チート希望者御用達の種族だ。キャラメイク時、魔法ユニーク武具1つを召喚者特権として作成可能としている。初期ステータスポイント100、初期スキル5つ、特殊能力としてフィートと呼ばれる力を3つ取得、天稟という形でSTR(力)・VIT(耐久)・DEX(器用さ)・MEN(精神力)・SPD(速さ)の5種の内の1つをブースト出来る。これは、レベルアップ時の数値増加率とその能力を使用した行動における成功補正を上昇する。ただし、補正値は隠しパラメータになってる。また、INT(知力)が能力に無いが、これはプレイヤーの考えがプレイヤーキャラ(PC)にダイレクトに反映する故だ。ただし、読書におけるスキル習得や古文書や暗号の解読、それらで得られる経験値など元来INTに該当しそうな部分は、MENが担ってくれているらしい。ま、公式には明言はされていない」


 ネット情報によれば、八割強のプレイヤーがこちらを選ぶらしい。死に易いゲームだから、少しでも生存確率を上げたいゆえだろうね。


「次に、ナロゥ特有の亜人種…タト族だ。こちらは玄人向けのエキスパート仕様とも言われているが、レベル1スタートでステータスポイントは80、初期スキル3が与えられる。チト族とは大分違うが、初期に種族をカスタマイズする事が可能だ。耳や牙、爪、尾などを獣人仕様に出来る。どの部位を取得するかによって能力補正が変わる。耳や触角なら知覚力アップ、牙・角なら攻撃手段増加、爪は攻撃力上昇、尾はバランス力向上などかな」


 こちらは前述と違い、ストイックなマゾ仕様。

 但し、ランカーにも獣人は多数いるらしく、大化けする可能性も秘めているらしい。

 まあ、きっとその影に何倍もの犠牲者が横たわっているという事なのかな。


「これらを魔女の石碑に記載し、初期装備を選択、所属国家を決定すれば完了だ」


 私と晴人はもう一度頷き合い、魔女の前に一歩出る。


「それでは、双方をエリア毎に遮断しますね」


 魔女っぽい演出とでもいうのか、彼女の手の一振りで二人の周りに光のヴェールが現れ、3m四方くらいの空間に閉じ込められた。

 何か、試着室の様な閉鎖空間だなぁと思ったが、黙っておこう。


「この中での事は外からは見えず、話を聞かれる事もないので安心を。師であるガラムは外で待機中ですが、名を呼んで話しかければ、彼とは通信可能です。ここまで、問題はありませんか?」

「はい、宜しくお願いします」


 ヴェールの中に魔女が入って来てそう告げたので、私は納得した。


「よろしい。それではまず、貴方がこの地で名乗る名と性別を教えて下さい。名前は、姓名、名のみ、ミドルネーム有りと、自由にして構いませんよ」


 キャラクターの内容は昨夜までに色々と吟味して来たので、確定した部分はテキパキと進めてしまおう。


「名前は『コト』。姓は『イワク』で。ミドルネームは無し。性別は女」

「よろしい、それでは、貴女の種族を教えて下さい」

「種族はタト族で」


 これは最初から決めていた。私は余りチートで無双するのは好きでない。

 確かに楽に気分よくなれるのは分かるが、飽きも早いのだ。じっくりコツコツとする方が私らしい気がするし、何よりフェアじゃない。

 それに、街の路地の一つ一つ、家並の一棟一棟を堪能するには、ゆったりプレイが適している様に思えた。

 勿論、他者のチートを批判するつもりもない。あくまでスタンスの違いだし、晴人も既にチト族希望と決まってる様だしね。


「ならば、貴女のステータスは初期の80ポイントのみとなります。1レベルスタートなので、レベルアップによる成長値ダイスを振る事は出来ません。よろしいですか?」

「はい」

「では、STR・VIT・DEX・MEN・SPDの五つに割り振りを。80ポイント以下で作る事も可能ですが、余りは捨てられてしまうのでお薦めはいたしません」


 彼女が私に向けて手をかざすと、空中に表の様なモノが具現した。数値割り振り用のステータス表だ。

ちょっと考えながらも、80ポイントを振り分ける。


「次はこちらの表より、スキルを三つ取得して下さい」

「顔の造りを…」

「肉体を…」

「タト族の印を…」

「服装を…」

「所持品を五つ…」


 次々と聞かれる内容に多少戸惑いつつも、どうにか形になって行く私…コト・イワク。

 ほぼ完成というところまで来たと思ったその時、魔女は呼びかける様に話し出した。


「『弧を描く餓狼』ガラム・マサラ、そして二人の弟子たち、タト族のコト・イワクとチト族のハレー・スターズよ…これより、師ガラムの足跡の証であるアーティファクトの継承を行う事となる。ついては、只今をもって音声のみ三人の空間を繋げます」


 ヴェールの向こうから二人の了承が聞こえ、私も頷く。すると、眼前にアイテムを示すウインドウが表示された。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


1:『声色七変化の差し歯』レア度C

  ※『伝説の役者ラフィオ』の魔法の差し歯。装備者の意思によって、声色を自在に変えられる。


2:『水天のマフラー』レア度A

  ※天秤と水を司る『天使フルーティティ』のマフラー。水系術のダメージを無効化する。


3:『惑乱の湾曲刀』レア度B

  ※意思を持つファルシオン。使いこなせれば意のままに動かせ、嫌われると使用者を斬る魔刀。


4:『呪術師の部族盾』レア度B

  ※幻の密林部族『ズドボ族』のシャーマンの盾。約三分の一の確率で魔法を反射する。


5:『ダイヤのドクロ』レア度A

  ※ダイヤで造られたドクロのオーパーツ。単なるコレクション品だが、売り方次第で大金が得られる。


6:『トラブル予報器』レア度C

  ※先触れの『悪魔ディクパル』の腕輪。地図とマーカーが脳裏に浮かび、事件の起きる所を予測してくれる。


7:『鑑定魔のモノクル』レア度C

  ※伝説の錬金マニア、『ヨタン』の片眼鏡。レア度C以下の品の鑑定が可能になる。


8:『乗り合い馬車フリーパス』レア度B

  ※VIP待遇の存在のみに発行される世界共通馬車券。各都市の乗り合い馬車が半永久的に無料。


9:『追い縋るカード』レア度C

  ※呪が込もった札。目標に投げると、ゆっくりと追跡する。対象に当たると小爆発する。50枚入り。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「以上の九種が、ガラムの現在所有するアーティファクトです。一人一品、これらを継承して下さい」


 じっくりと観察した上で、私は言った。


「はる……ハレーで、いいんだっけ?」

「ああ。そっちはコト…か?」

「うん。ねえ、先にアンタが選んでよ。どうせ、私より先に戦いに身を投じるんだろうし」

「悪い、サンキューな。えっと……ガラムさんも、それで宜しいですか?」

「ああ、二人に任せるよ」


 私は元々、バトルメインなプレイを考えていない。これまでも、そういうのは晴人の領分だ。


「では…魔女さん、俺は『惑乱の湾曲刀』を希望します」

「判りました。『惑乱の湾曲刀』は、以後ハレー・スターズに所有権が移ります」


 アイテム表から『3』の項目が消え、魔女が私を促す。この表が出た数秒後には、私の中で答えはすでに決まったも同然であった。


「『鑑定魔のモノクル』…お願いします!」

「えー、何か地味じゃない?いいの?」


 分かってないなぁ、晴人…いや、ハレーは。熱血・脳筋・英雄騎士マニアには分からないだろうけど、これこそが、私のタト族人生に必要なグッズなのに。

 まあ、ダイヤドクロを転がしてどれ程得られるか…というのも面白そうではあるが、低レベルな私が捌いても海千山千の人等に買い叩かれてしまうだろうからね。

 とりあえずこれで、一通りのメイキングが終わった様だ。


「最後に、もう一つだけ言わせてくれ。この後、初期の所属国家を選ぶ事になる。覇を唱える四大国を中心とする戦乱に終止符を打つための各陣営、または第三勢力として四大国の支配に異を唱える反乱軍、南方の海域に乱立する諸侯連合、そしてフリーが存在する。まずは四大国と呼ばれる大国だ。武を尊ぶ国、『戦帝ブレイブ』の治める大帝国は『第五都市アトラ』に。『聖女ティア』の宗教国家、聖法国は『森緑の都市ファルハータ』に。『魔王ダスク』の覇道国は『荒涼都市デミトス』に。『妖妃ヴィーネ』の幻妖国は『断崖都市シャーデ』に。『剣匠アーガス』率いる反乱軍は『辺境都市マルゴール』に。中立は二箇所、武で成り上がる者の集うのは豪族が群雄割拠する諸王列島群の主都市、『エルデフト本島』。フリーランス業を中心に考える場合は四大国に挟まれた『永世中立都市リオレ』にそれぞれスポーンする。この選択でまだ進路が確定する訳じゃないが、ある程度強くならないと他国に渡りたいと思っても死ぬ事になり、序盤は最初の都市での修行が必要となるだろう。漠然とでいいが、行きたい場所を良く考えて決めるように!」


 私はフリーの中立都市リオレの特徴を聞きながら、そこにしようと決めた。

 市営の自警団等は存在するが、他国に比べて軍事色が強くなく、商人や職人にも住みやすい街というのが最大の決め手だ。

 下町にエネルギーがありそうな所が自分の希望に合いそうだった。

 ハレーは四大国仕官を目指すつもりだが、まずは諸王列島群で名を上げるつもりらしい。


「それでは、良き旅を…」


 魔女の言葉を受けて、私の身体は明滅し、光の粒子に取り巻かれ始める。


「二人共、俺も近日中に一度は会いに行くつもりだ。それまで無事で居てくれ!」


 ガラムさんの声が最後にそう聞こえた直後、私は異界に転移した……

 次回より、ゲーム内生活スタートとなります。

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