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Side4 私の預かり知らぬ所で3

「『アンダカの帷』!」


 薄れそうな意識の中、声が響いた。

 全てが暗闇へと包まれ、自分が昏倒したのかと思ったが手足は動く。

 視界は未だ闇に包まれているが、敵の追撃もなく戦闘音も完全に止み、静寂が支配する。


「スズナ……」


 最後に聞こえた声は間違えなく彼女だった筈だ。彼女が何かをしたのだと思った次の瞬間、両の腕をガッシリと捕まれる。

 その途端、左右にロデオとエンライが見えた。触れた瞬間から、仲間を認識・視認出来た。隣にはライドウを同様にして抱えるレオとマイルの姿も見える。


「ついて来て。この暗闇は…パーティだけを認識し合い、あらゆる暴力や魔力、他者の五感をも打ち消す。一日に一度しか使えないから、絶対にはぐれないで!残念だけど…今回は敵の方が格上だった……まずは七人だけで離脱しましょう。敵もこちらが忽然と闇に消えたと思ってるし、味方にも今だけは文句を言われない状況よ。まずは生きる事!体勢を立て直し、安全を確保する。傭兵団には後で謝ればいいのだから、まずは仲間で身を守る事を優先しましょう…」


 十数メートル先を走るスズナの声と姿を認識した。悔しいが今は彼女に従うのが妥当だ。これは彼女のアーティファクトの力なのだろう。彼女の能力と機転がなければ、あのまま殺されていた筈だ。


 皆、最低限のフレンド通信を行う以外の会話もなく、スズナを中心として継続する特殊効果が展開される中、物音一つ立てずに必死になって進んだ。

 少し先輩とはいえ、新人と呼ばれるパーティに完敗したのだ。

 経験値さえ積めば一流だと考えていたが、それだけでは済まない技能の組合せと能力の使い方の工夫の様なもので圧倒された様に思える。

 僅かしかない参加枠を手にして、選ばれた者という幻想を抱いてしまっていたのだろうか。

 悔恨の念に駆られながら、一行は数時間掛けて見知らぬ森の中を蛇行し、島の東側とおぼしき入り江に出た。

 小さな船着き場と数件の倉庫があり、僅かな数だがNPCらしき人々が作業を行っている。


 人の姿に安心したのかスズナの歩みが止まり、それに伴って身を包んでいた不思議な感覚も消え去る。

 一行は軽く話し合った上で、入り江の作業者に挨拶しつつ近付いて行った。

 相手は始め警戒した様だが、一行の丁寧な物腰に幾らか緊張を解いてくれたらしい。


「島に来たばかりの冒険者ですが…森で道に迷い、難儀しております。お仕事の邪魔はしませんから、何処か建物の影ででも休ませて頂けませんか?」


 代表してライドウが言う。


「そりゃ災難だったな。俺達はここで人足として雇われてるものだ。ここには宿も医者も無いが、一番奥のオンボロ倉庫なら使われてないから仕事も無いし、その裏手で良ければ昼寝も出来るだろうぜ」


「有難うございます。他の皆様にも、一声挨拶すべきでしょうか?」


 こういう時にスズナの入れるフォローは、他のメンバーにとって有り難いものだ。相手は更に緊張を解いてくれた様に笑顔で応対してくれる。


「気にしなくていいさ。オレがここの職長だからな。ここは南の漁村からの荷を北の港街へと送る中継地さ。その作業の邪魔さえしなければ、オレが皆に話を付けてやるからよ」


 倉庫の裏手は、ボート用の小さな桟橋がある以外は特に何もなく、一行が休息を取るのに充分なスペースであった。森の方への視界も倉庫が遮ってくれるので敵軍の目を気にする事もなく、一先ずは安心出来そうだった。


 一行は体を休めつつ、今後の事について議論する。

 ライドウとハレーは陣地へと戻り、この戦の末席で学ぶべきは学ぼうとの主張。

 三人組はバツも悪いし、取り敢えずさっさとホームであるエルデフトに戻って仕切り直そうと言う。

 スズナもホーム帰還は賛成だが、敗北と逃亡について傭兵団に謝罪を入れるのがスジであり今後の為だと説く。


 そんな中で、ロデオは一つの懸念を募らせていた。

 ベテラン揃いのAランクの率いる傭兵団の斥候や情報網がある程度把握しているにも拘わらず、助っ人組の面々が敵とのパワーバランスで差違がある様に思える。

 負けたからこそそう思えるのだと言う可能性も当然あるが、だったら敵少数に多勢を当てる等の判断だって出来た筈だ。はたして、何の前知識も与えずにバラけて各パーティに個別戦闘をさせる意義があったのだろうか…。

 最初から捨て駒、敵増援を足留めする為だけの時間稼ぎ要員として利用されたのではないのか?

 アーティファクトに登録して遠隔視とフレンド通信によるサポート等と安心材料を投げ掛けてはいたが、いざ戦闘に入ると殆ど機能していたとは言い難い。

 敵のパーティ情報があったきり、アドバイスも無かった様に思う。

 報酬にしたって、死に兵として考えているなら、口約束は簡単だろう。

 あれだけ丁寧に出迎えられ、安心しきっていたがよくよく考えれば格上の多勢相手にごねても勝ち目がない訳だし、踏み倒された時にこちらは対処のしようがないのではと思えた。


 その言い分に、一同がわいわいと騒ぎ出す。打ちのめされ、敗走し、隠れている上に味方と思っていた者の裏切り論が出たのだから、浮き足立つというものであろう。

 しかし、ロデオとしてはその最悪の状況も考慮しておかなければどうなるか判らないと判断したのだ。


 そんな混乱する彼等の言葉を遮ったのは、一人の聞き覚えのない声であった。


「……話は大方聞かせてもらったぜ。誰だか知らんが、最後に持論を展開してたやつの言い分は正しい。そしてそんな話をしてるって事はアンタ等は傭兵団の正規隊員で無いプレイヤーだろ?まさかこんな場末のボロ倉庫に来てくれるとは思って無かったが、正に渡りに船だぜ!頼む、オレを助けてくれよ!!」


「……」


 一斉に静まる一同。全員で目を合わせつつ、耳をすませる。


「もう駄目かと思ってたんだがな…いや、ログインしてみるもんだな!」

「だ…誰だお前!?何処にいる?」

「おいおい、頼むから怪しまないでくれよ。オレは今、アンタ等のすぐ横のボロ倉庫の中に監禁されてんのよ!命狙われて嫌々こん中でログアウトして逃げたんだけど、外から鍵掛けられちまってな、普段は傭兵団の警備があるから逃げる事も出来ないしって感じで困ってんのよ。ずっと見張られてたからログイン出来なかったんだが、本日INしないと期限切れで退会だからさ、恐る恐るINしてみたらアンタ等の声がするじゃない!それで理解したのよ。ああ、今日は連中の余興の日なんだと。みんなお祭りだからここは手薄で、しかも偶々アンタ等が居てくれた!これは最後のチャンスってヤツだ。頼む、倉庫を開けてオレを解放してくれ!!」


 代表してライドウが話すと、相手は焦っているのか、人恋しいのかベラベラと饒舌に語る。

 どうやら、倉庫の隙間からずっとこちらの会話を聞いていたらしい。


「いったい何だって言うんだ?お前何モンだ!俺達はさっき、敵プレイヤーに殺されかけた所だ。得体の知れない奴に関わる様な状況じゃない!」


「頼むよ、アンタ等に有益な情報も与えるし、協力して島から脱出しよう!この島の現状もちゃんと説明するから!」


(どうする…)


 突然の珍人物の登場に困惑しつつも、一同はパーティチャットで話し合う。

 相手の素性が分からない以上、今後の方針を聞かれない方がいいだろう。


 まず、敵かなのか味方なのか。

 傭兵団と敵対している様だが自分達の味方とも限らない、監禁されている等という物騒な話だが本当か、何かの罠なのか。

 議論は繰り返されたが、一行は倉庫を開けた。どちらにせよ確認をしなければならないと感じたのだ。


 古びた倉庫を、七人で開ける。

 倉庫には鍵が掛けられてはいたが、元々重要な物の無い倉庫なのか錆びて朽ちかけたソレは簡単に壊す事が出来た。

 倉庫内には、錆び付いた大きな鉄格子の檻があり、緑のバンダナを着けた男が胡座をかいていた。

 身体のあちらこちらに暴行を加えられた後があり、血が固まって付着していたが、破れた服以外に所持品もなく丸腰で、冒険者というよりは浮浪者に近かった。


「……よう、来てくれて有難うな!俺はトランス。アンタ等を信じてたぜ」


 提示された冒険者カードを見る限り、トランスはコソドロであった。

 その時点で、一行としては信頼度をガクンと下げたが、彼はシーフギルドに所属しつつも未だ賞金等は掛けられて居なかった。 もっともこれは本人の談であるが、賞金首の情報は各都市の冒険者ギルドや政府機関等で簡単に確認出来る事で、いくらでも調べてくれと言うのが彼の言い分だ。


 まあ、今回の件で傭兵団が通報する可能性も無きにしも非ずではあったが、トランスとしては犯罪集団である連中がコソドロにしてやられたと公言する事は無いと踏んでいた。

 ギルド所属とはいえ、下っ端低ランクの彼は大した実績もなく、ちまちまと雑魚モンスター相手に日銭を稼ぐ日々であったが、情報交換を行っていた知人の幾人かが、ウマイ話があると嘯いていた後に失踪した。

 気になってその足跡を追って見れば二つの傭兵団、そしてその実態であるドレッドノートへと辿り着く。

 彼等のやり口に反感を覚えた彼は、一泡吹かせてやろうと手薄な物資集積所(此処)に盗みに入るが、運悪く上位メンバーと鉢合わせし、ボコられた挙げ句、所持品の所有権を放棄させられて獣運搬用の檻に放り込まれ、『監禁か、引退か』の二択という生殺し状態を強いられていた次第であった。


 彼の話を聞いて、どう扱ったものかと思案する一同だが、傭兵団の恐るべき実態は彼が語っただけでこの場で信憑性がないものだ。

 しかし、妙な点というのも確かにあるのだ。

 一端の傭兵団でベテランチームとの話なら、協力してくれる有力プレイヤーも増えて当然なのに、陣中にそういう人々がまるでいなかった。

 メンバー重視というのならば話は分かるが、結局は初心者チーム等に声を掛けまくっている。

 これは、上級・中級プレイヤーを敬遠しているか、もしくは逆に敬遠されているか、と考えられないだろうか。


 どっち付かずの意見がさくこうする中、ロデオが壁に掛かっていた鍵をおもむろに取り、鉄格子の扉に差し込む。


「ロデオ!」


「この檻、鍵穴周辺は格子でなく鉄板になってる。個人で自演や騙りをするにも魔法か何かに頼らなきゃならず、かなり面倒くさい。俺等に詐欺を働く為とすれば割りに合わないだろう。丸腰でポーチの一つも無く、負傷もしている。実質7対1な訳だし、監禁された怪我人を見捨てる気分の悪さもある。逃げるにしてもコイツは解放しよう」


 そう言われると、他の者もそれが無難という事になった。


「すまねぇ、恩にきるぜ」


 解放されたトランスは、背中をパキパキとならして久々の外で身体をほぐした。


「ここは連中の寄合所だから、余り長居出来ねぇぜ。倉庫の裏手にあるボートで、すぐ沖に出よう。少しでも早い方がいい!」


 着の身着のままというより、彼は鎧下に着るアンダーの上下以外、支給品の財布一つない状態だったが、それでも移動を最優先にしたいらしく、ボートに飛び乗ってオールを手に取る。

 その流れに呼応して、三兄弟が間髪を入れずに乗り込む。こういう時はちゃっかりしている連中である。


(ボートでの船旅なんて、大丈夫なのか?)


 ライドウ、スズナ、ハレーはそう考えて一歩出遅れたのだが、それが行動を遅らせてしまう。


「おい、見付けたぞ!脱走兵が!」


 不意に、倉庫の影から二人の軽装兵が現れ、三人に掴み掛かる。三対二とはいえ、格上レベルを引き離せずにもつれる三人。


「は、放して下さい!」

「ざけんなっ!」

「脱走だと?協力してやっただけだろ!言い掛かり付けるな!」


 誤射を恐れて、三兄弟も射撃出来ない状態であり、トランスは船を出すぞと騒ぎたてる中、二人の追っ手に蛇の様な動きで飛んできたロープが絡み付き、縛り上げていった。


「『悪意の縛縄』!」


 そこへ、倉庫内の物資を物色していたロデオが現れた。その両手には、魔法の縄の先端が握られている。彼の固有アーティファクトだ。


「お前等、早く乗れ!」


 ロデオの声に、ハッとした三人が船に乗り込む。追っ手二人はぎりぎりと絞められながら、ロデオに手繰り寄せられていく。


「て…てめぇ」

「新参の分際でぇ…」


 後はロデオが乗り込めば、と思ったのも束の間、倉庫の向こうから更に二人が現れ、ロデオの背中にナイフを突き立てた。


「ロデオーーーッ!!」


 仲間達の驚愕と悲痛の混じった叫びがハモる様に木霊する。


「さっさと行けぇーーーーーーッ!!」


 ロデオの声と同時にトランスは船を出す。スズナは泣き叫び、ライドウとハレーは船縁から飛び出そうとして三兄弟に押さえ付けられる。押さえる三人もまた、蒼白は顔で桟橋を睨む様に見据える。


「あ…『悪意の、縛縄』!」


 後ろの二人にも縄が絡み付く。ロデオは背に二本のナイフを刺したまま、四人を縛り上げた。


「追っ手は……俺等だけじゃ…ねぇぞ!分かってんのか!!」

「ああ、分かってるぜ。だからこそ、仲間は逃がす!」

「お前は、ここでゲームオーバーだ。復活もさせねえ!」

「だろうな。だが、お前等は必ず、俺の仲間が滅ばす!必ずだっ!」

「この野郎~!」

「ライドウっ、スズナっ、マイルっ、レオっ、エンライっ、ハレーっ!後は頼んだぞーーーッ!」


 そんな叫びを耳に刻み込み、腸が煮えくり返り、戻りたくとも戻れぬ屈辱の中、大切な仲間を犠牲にしてひたすら沖へと漕いだ船は、いつしか桟橋から見えなくなった……


… … …


 セブン・ファンタズマゴリア号は、数日間を掛けての迂回航行によって、人知れず秘密のアジトを目指していた。

 この辺りは、他船が知るよしもない秘密の航路で、元来は予想もつかない様な海流によって地図にない島へと向かって行く。

 そこを知り尽くしているのは、その島出身の彼等だけであり、代々、大陸や南方諸島の者達には秘匿されてきたのだ。


 だからこそ、そのちょっとした異変に気付いたチャマメは、目を疑った。何はともあれ、船の異変は直ぐに船長に報告する義務がある。


「姉御ーーーっ!」

「うるせーぞ、何だ!」

「こんな沖ですが、漂流者です!」

「何ィ!?」

「ボロいボートで、七人乗ってやす。自殺志願者っすかね?」

「生きてんのか?」

「今、確認に行かせてます」


「そうか。航路を知られたら、生かして置けない……と言いたい所だがね。まぁ、条件次第だな。もし生きてたら、引き上げてやんな!」


 こうして、数日間の漂流の末、気を失ったハレー達は秘密の海域を進む謎の商船によって引き上げられた……



… … …


NAME:ハレー・スターズ 種族:チト族 LV24 キャラクタークラス:夢見る田舎者 RANK:E

STR67 VIT63 ★DEX77 MEN59 SPD65


《所持金》

21238P


《師事》

『弧を描く餓狼』ガラム・マサラ


《習得技能》

剣術(LV12) ※刀剣による戦闘時、ダメージと命中にプラス補正。

頑健(LV9) ※物理攻撃受けた時の被ダメージをレベル分軽減。魔法攻撃を受けた時の被ダメージをレベルの三分の一軽減。バッドステータスに対する抵抗力をレベルの十分の一の確立で回避する。

運動能力向上(LV6) ※運動系技能の使用時にレベル分のプラス補正を得る。

社交(LV5) ※NPCとの交渉時、成功確立にレベル分のプラス補正。

魔法の素質(LV3) ※魔法習得率にレベル×1.25%のプラス補正。


《フィート》

【病への耐性】

【健脚】

【幸運】


《装備品》

ライトヘルム、中古の騎士盾、厚皮のグローブ、麻のマント(赤)、獣皮のブーツ、ダガー


《固有装具》

隕石の鎧 ※ダメージを受けた折に1.5倍のダメージ力の隕石でカウンター攻撃をオートで行う。 


《アーティファクト》

惑乱の円月刀(B) ※魔力を帯びた刀剣。剣に認められると遠隔操作出来る。


《所持品》

リュックサック(17)、水袋(中)×2、ナッツの瓶詰め、トーチ×3、初期財布(100)


《フレンドリスト》

●ライドウ

●スズナ

○ロデオ

●マイル

●レオ・パルド

●エンライ


 ラストのステータスでロデオ部分の○表示は、誤植ではなく現在ログインしているか否かを示しております。死んだかどうか、ではなくログイン状態かどうかという感じですので、死んでいるかログアウト状態の場合に○表示、ログイン状態で●表示としています。


 また、アスナムとテトロのフレンドが消えているのは出航後、悲しむ面々に対してトランスが連中との繋がりを絶つ様にアドバイスした為です。

 トランスは、アスナムの様な現地での勧誘係についても調べてあり、傭兵団と交流があって無償で親切にしてくれる人物は間違いなく手先であると説明してフレンドから除外させる一幕が有りますが、これ以上話を冗長させない為にカットしました。


 フレンド登録は、お互いの合意でステータス欄に登録されます。今回、ハレーのパーティ側がブロックを行った為にフレンドが解除されたとお考え下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただいています。 [気になる点] ステータスのフレンド欄について、13話では『白丸がログイン中、黒丸がログアウト状態』と説明されていますが、各話の最後にあるステータス欄では…
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