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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第25話 時代劇役者とメイド服

 数日後、カオルの元に新しいメイド服が届けられた。

 肌の露出のまったくないロングスカートのメイド服、いわゆるクラシカルと呼ばれるメイド服である。頭は本来ならばシニヨンキャップといきたいところだが、うさ耳しかないので仕方なくホワイトブリムである。

 この服装は、魔女の家で着ていたものと同じなので、カオルは思わず感動の声を上げてしまっていた。


「そんなに喜んでもらえるとはな」


「ああ、この服装でずっと過ごしてきたから、なんというか思入れがあるんでな。でも、修繕したようではないみたいだな」


 ゴードンの感想に、カオルは正直に答えている。

 それと同時に、メイド服から違和感を受け取っている。


「ああ。お前が着ていたやつはボロボロだったんでな。直すとしてもつぎはぎだらけになってしまうから、さすがにギルドで働いてもらうには似つかわしくなとなってな。それで、できるだけ同じ材質のものを使って、同じデザインに仕上げたんだ」


「そっか……。ありがたいな、師匠との思い出を忘れずに済みそうだ。できれば、着ていたやつにももう一度袖を通してみたかったがな」


「ああ、そっちも返してもらえるようには頼んである。今は保存のために処置をしているらしくて、もう少し時間がかかるそうだ」


「へえ、そんなこともしてくれるんだな」


 魔女の家を出る時に着ていたメイド服も、後で戻ってくると聞いて、カオルは安心した表情を浮かべている。それだけ、あのメイド服には思い出が詰まっているというわけだ。

 なにせ交通事故で死んで以降は、ずっとあのメイド服で過ごしてきたのだから。魔女との思い出のこともあって、なおさら思い入れがあるのだ。

 新しいメイド服に身を包んだカオルは、腰に刀を下げるとゴードンに声をかける。


「悪い。もう一度訓練場に行ってもいいかな」


「ああ、それは構わないが、どうするつもりだ」


 カオルが許可を求めてきたので、ゴードンは理由を尋ねてみる。


「なあに、この新しい服との相性を確認しておきたいんでな。師匠の用意してくれたメイド服と同じものだが、はたして性能まで同じかどうかわからないからな」


 カオルの言い分を聞いて、ゴードンは眉をひそめながらも納得している。

 そんなわけで、ゴードンはカオルを連れて再び訓練場へと向かった。

 訓練場にメイド服の人物が現れて、そこで訓練をしていた冒険者たちが一様にぎょっとしている。しかし、顔を見てすぐに落ち着きを取り戻していた。そこにいたのは、先日の垂れ耳のウサギ獣人だったのだから。

 ところが、落ち着くと同時に、全員が訓練場の端へと避けていく。ここに来た理由を察したようである。

 その読み通り、カオルが訓練場のど真ん中に歩み出てくる。その時のカオルの表情に、見学する冒険者たちは引き込まれてしまいそうになる。

 顔はウサギだというのに、浮かべている表情は真剣そのもの。その凛々しさというものは、その場にいた全員をひきつけてやまないのである。

 中央に立ったカオルは、左の腰に下げた刀へと手を添え、右足を前に出して大きく足を開いて構える。

 先日のギルド職員の服装とは違い、大きく広がるロングスカートのメイド服だ。以前と比べて、実に完璧な構えを披露している。


「抜兎術・閃!」


 カオルは、先日使ったものと同じ技を披露する。

 すると、今回も訓練場の壁に大きなへこみができる。


「ああ、またやりやがった。せっかく直したっていうのに……」


 結果を見て、ゴードンは頭を抱えて嘆いている。


「大丈夫ですよ。これでも前回よりも抑えましたからね。このメイド服のおかげで、調節がしやすかったですよ」


 カオルはとてもにこやかな表情を浮かべている。つまり、それだけメイド服に満足しているということである。

 まったく、転生前は悪役を中心にこなしてきた時代劇役者の男性だったというのに、すっかりメイド服を気に入ってしまっているようだ。ところ変われば人変わるというやつかもしれない。

 あと、メイド服の感じが、時代劇で着ていた着物と近いのかもしれない。なんにしても、カオルはメイド服が気に入っているようだ。

 ちなみにだが、今回狙われた的は、確認しに近づいてきた冒険者たちの動きだけでずるりとずれ落ちていた。しっかりとした丸太なはずなのに、相変わらずきれいな断面をしていたので、カオルの腕のよさというものがよく分かる。

 ウサギ獣人ではあるものの、冒険者たちのカオルへの評価は真っ二つといったところである。惚れるか、恐怖するかである。


「そういや、なんで抜兎術(ばっとじゅつ)なんだ?」


「本当は抜刀術(ばっとうじゅつ)なんですけどね。俺がウサギなんでちょっとそこに引っかけてみたんですよ。ウサギっていう文字は、別の読み方で『ト』と読みますからね」


「そ、そういうものなのか。うーむ……」


 カオルが『抜兎術』と称する理由が説明するも、同じ文字を複数の読み方で使うことのないゴードンにはまったく理解できないようだった。この時の顔を見ていたカオルは、やれやれと少し呆れた表情を浮かべてしまった。

 なんにしても、メイド服を再び着ることになったカオルは、すっかりその調子を取り戻したようである。


 余談ではあるが、翌日、カオルが着ていたボロボロのメイド服が返却された。それを受け取ったカオルは、早速部屋の中に飾り付けたのだとか。

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