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159話

 外は風が吹いていた。乾いた、冷たい風だった。それは小さな火種を焚き付け、炎を巻き上げた。それは大火となり、宮中はおろか、都にまで牙を剥いた。木造の家々を呑み込み、その被害は、正に厄災と呼べる程に広がっていた。それは何れ、都の外れまでも広がるだろう。花街までも、届くだろうか。

 イオは、そんな赤く染まる都を見ながら、全てが灰になることを願っていた。花の存在、花の意味、花の歴史、全てが闇に葬られることを、ただ願った。そのために必要な火であった。燃やすには、火種が必要であった。その白羽の矢が立ったのがあの双子であった。あの二人が火種となれば、それは良く良く燃えよう。

 そして、イオの想像通り、良く燃えた。

「美しいな…。世界は…」

 かつて、一輪の花を愛した。その花は、花であることを望んでいなかった。花など、無くなればいい。最期の言葉だ。それが、ずっとイオを突き動かしてきた。だからこそ、人の記憶から、記録から、花を消さねばならない。だから、燃やした。

 着物の懐から、小さな巾着を取り出した。中に入っているのは、枯れた花の花弁であった。今にもぱらりと割れそうで、扱うのが難しい。それを、そっと手の平へと乗せた。そして、静かに息を吹きかける。その花弁は、はらはらと吐息に乗り、街へと流れていった。その方角は、古くから続く家々ばかりが立ち並ぶ地域であった。其処には、あの花が嫌った花の記憶が最も残されている場所だ。舞い飛ぶ火の粉と仲良く戯れ、枯れた花弁も火種へと変わった。その火種が、更に大きな炎を呼び込む。火が消える様子はない。それは後に、都一の大火として歴史に名を残すこととなる。火は三日三晩燃え続け、都を焼き尽くした。しかし、風向きの影響か、花街と都の外れは、大きな被害を免れたという。

 死者の数は数千に登り、万に迫った。都の中心部は壊滅し、その復興には、長い年月を要することになる。一人の中宮の死は、そんな歴史のなかに埋もれてしまった。

 

 やがて、外れの街には人が集まり、そこが中心として動きはじめた。花街とも手を取り合い、少しずつ、確実に都は姿を取り戻した。だが、それでも昔のままとはいかず、様々な場所が長い時の中で姿を変えた。花街には芝居小屋や寄席、料理屋に活動写真館等、様々な娯楽が集まり、芸能、接待、文化の場としての顔を強めていった。花達も芸妓と呼ばれるようになり、花も花街も、姿を変えた。芸妓街をまとめているのはシライトであった。そんな彼をアヤトキらが補佐し、かつての花街よりも活気溢れる姿を見せていた。

 外れの街はかつての汚れきった姿は無く、新しい建物が建ち並ぶ洗練されたかつての姿を取り戻していた。今でもそこは人々が集まる生活の中心地となっている。

 そんな外れの街の更に外れには、一軒のバーがある。名を紅薔薇といい、筋骨隆々の異彩を放つ二人のオカマが経営しているという。其処には嘘か真か定かではないが、とある噂がある。

 客足少ない夜更けの頃に、三人の客がやって来ることがあるのだという。それは本当に気紛れで、出会えることは先ずない程に稀なのだそうだ。そんな来るのか来ないのか分からぬ客が、何故それほど噂になるのか。それは二人の男の容姿にあった。

 この世のものとは思えぬほどに、それはそれは大層美しいのだと言う。女であれば頬を染め、男は己の姿に恥じらいを覚えるという。そんな御大層な色男がいるなら、それこそ都で知らぬ者はいないだろうと、知らない者は皆笑った。しかしそれでも、そんな中からぶらりと、一人、また一人同じ噂を話す者が現れるのだ。その噂話は、七十五日を過ぎて尚、人々の中から消えることはなかった。

 その真相を探るべく、今日も紅薔薇にはそんな好奇心旺盛な二人の男が酒を酌み交わし屯していた。

「にしてもおかしな噂だなぁ。三人の客だというのに、出てくる話は二人の男だけで、もう一人は何してるんだ?」

「あまりに二人が華美だから、記憶に残らねぇんだとさ。でも、必ず三人一緒に来るから、噂は三人なんだとよ」

「なんでそんな地味なのが、そんな連中とつるんでるんだ?」

「さぁな、付き人かなんかじゃないのか?」

 そう言いながら二人は、目の前に置かれているグラスを手に取る。そして、泡立つ黄色い液体を喉に流し込んだ。

「そういや、こんな話もあったな」

「ん?どんな話だ」

「そいつらが来ると、辺りに甘い、良い匂いが広がるんだそうだ」

「オーデコロンか?いや、甘い匂いなら香水か…?」

 贅沢なものだなぁと、男は溜息も出なかった。だが、話をする彼は、男の言葉を否定した。

「いや、そんな濃厚なもんじゃないらしい…」

 なんでも、芍薬の花のような、甘く優しい匂いなんだそうだ。

 



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