これから
クセは強いが愛らしい家族が増え、戻ってきたみんなに報告すれば全員が悶絶した。
あのジルコットさんや団長でさえ触りたがったのには驚いたが、そこは妖精。絶対に嫌だと逃げ回り、最終的には飛べるようになっていた。
成長がはやいのは、妖精だから…ということにしておく。考えだすとキリがない。
「あぁ、そうだ。チェリオの処遇が決まったぞ」
「えっ……!ど、どうなるんですか?」
「ユナイシアムルに預けることになった」
首を傾げた。
「なんでユナイシアムル…?」
「……アイーダが、な」
苦笑する団長から話を聞き、私は頬が引きつった。
まずアイーダさんは、ユナイシアムルの王子に対してとてつもなく怒ったそうだ。他国にまで迷惑をかけ、王子としての自覚が足りないと。
その根性を叩き直すというアイーダさんに、団長はうっかり口を滑らせてしまった、らしい。
「チェリオも鍛えたらいいのに…なんてな」
「なんてな、じゃないですよ…!」
大変なことになってしまったと慌てるも、ミアさんは別にいいじゃない、と笑っている。
「あの国で鍛えられるなんて、人間じゃ初めてだし。名誉なことよ」
「罪人という扱いはかわらないが、国総出で見張るというし…相当筋肉をつけて帰ってくるだろう。楽しみだな!」
嬉しそうな団長だが、私は複雑な気持ちだった。筋肉はどうでもいい。確かに彼は罪人だが…そんな、竜人族のしごきに耐えられるのだろうか。
「あいつなら大丈夫さ。強くなるよ」
「…………はい」
諦めよう。もう、私にはどうすることもできない。
せめて早めに改心してくれることを願っていれば、そういえば、とオッドがミニ鯨を見つめた。
「その子の名前は決めたの?」
(ほほっ!名前!忘れていたわ!)
はよぉはよぉ!と顔の前を高速飛行する姿は、とてもじゃないが妖精には見えない。犬だ。ないはずの毛むくじゃらの尻尾が見える。
「薄っすらとは決めてあったんだけど…妖精が生まれるとは思わなかったし、」
(なにっ、生まれる前から考えておったのか?!それで良い!良いからはよぉ!)
急激なテンションの上がり具合に引きつつも、それでいいならと口にする。
「テトラ」
(テトラ……うむ、気に入った。今日からテトラと名乗ろうではないか!)
喜ばれ、安心はしたが…少々複雑な気持ちだ。何故なら、呼びやすさと雰囲気だけで簡単に決めてしまった名前だから。あと単純に可愛い。
「本当にいいの?」
(いいもなにも、母がつけた名に子が不満を言うなどありえん。…というのを抜きにしてもちゃんと気に入っておる)
パタパタと羽ばたき、モモの頭の上におさまったテトラは上機嫌のようで。本人がいいなら、私もこれ以上気にしなくてもいいかな。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
国へ戻る道中もみんながテトラにデレデレしていたが、特に問題もなく騎士団の宿舎へ辿り着き。団長が1人面倒くさそうに報告へ向かうのを見送って、やっと全て終わったとモモの寝床にダイブした。
「すんごく疲れた…しばらく何もしたくない…」
(囚われの姫となってしまったしね。レディが休んでいる間は私が働くから、何も心配することはない)
とても優しい目で見つめられ、その言葉も嬉しいのだが…何故だろう。少し鳥肌がたってしまった。
するとテトラも羽を擦り合わせながら、なんとも微妙な表情でボスを見ているのに気付く。まだ耐性がないのはわかるが頑張って慣れてほしい。
(のぅ、不思議に思っておったがお主……いや、なんでもない)
(そうだ。そっとしとけ、テトラ。心が不幸になるぞ)
(聞き捨てならないのだが?)
(あ?聞き足りないって?何度でも言ってやるよ。だいたいな、楓を姫だとか気持ち悪いこと言いやがって、)
(なんてことを言う!全く、神経を疑うよ。気持ちが悪いと思うのは君の心が醜いからに違いない)
モモのヒゲがピクピクと痙攣している。今にも牙を剥きそうなその表情に、どうしてこうなるんだと溜め息をついた。
(お主らはいい加減にせい!母上が困っておろうが!)
(けんかだめー)
(そーだよ!おなかがすいちゃうよ!)
(おなかすいた!)
「…そうだね、帰ってこれたんだし。また仕事がはじまる前にみんなでのんびりご飯でも食べよっか!」
ご飯、の言葉に反応するモモはやっぱり可愛いなとニヤニヤしながらその背に手を伸ばす。あぁ、モフモフでふわふわ…!相変わらず触り心地は抜群、
(…なぁ。俺は今回、頑張ったよな?)
「うん…?……モモはいつも頑張り屋さんだと思うけど?」
(だよな?なら、そんな俺にご褒美の一つもないのは…おかしいよな?)
ビクッと肩が震える。これは…アレだ。アレの催促だ。
わかってはいた。頭の片隅にもあった。愛するモモのために早く用意しなきゃとも。……だけどっ!ちょっとくらい休ませてくれたって、
「あ、あのねモモ。私も疲れて、」
(俺に缶詰………食わせて、くれるんだろう?)
「っ……急いで王宮行ってきます!!」
卑怯だ!あんなに潤んだ瞳で小首を傾げるあざと可愛いモモに文句なんて…言えるわけがないじゃないか!
うわぁぁあん!と泣き叫びながら走れば、たくさんの笑い声が聞こえる。みんな他人事だと思って…!
これ以上モモからのプレッシャーを感じ続けるのも御免だし、こうなったら願うしかない。どうか少しでも理想に近い缶詰が出来上がってますようにっ…!
「缶詰なんてもういらないってくらい食べさせてやるんだからっ…!待ってなよ、モモ!」
私の渾身の捨て台詞に、誰かの言葉が被った気がした。
やれやれ。恋愛についてはまだ先、か……
全く、世話が焼けるな。
長らく更新できませんでしたが、これにて一応完結となります。




