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5-5 監視

 昼食を終えた後、玲仁たちは次の予定地となる握手会の会場へとむかった。

 そこはショッピングモールの中央に組まれた特設ステージだった。モールの中央広場を囲うように装飾が施され、壇上の奥には長机が置かれている。大勢の人が早々に周囲を埋め尽くし、ざわめきだっていた。その中には誰がステージに上がるかもわかっていない人も含まれていただろうが、うちわを持つ人などもちらほらみられ、菖蒲の人気ぶりがうかがえる。

 さすがにこのときは菖蒲のそばにいるわけにもいかず、仲間たちと合流し、中央広場全体の様子が見渡しやすい、上のフロアから様子をながめることにした。


 提が手すりによりかかり、フロアを見下ろしながらため息をつく。


「はあ……もっと近くでステージ見たかったな」

「まあ、それじゃあ主旨が変わってきちゃうからね」

「センパイはいいですよ! デートで至近距離であのキュートなお顔を眺められるわけですから」

「別に僕も好きでやってるわけじゃないんだってば……」

「玲仁様は、使命のために協力してあげているだけです」

「ふんっ、その態度が余計気に入らないっすね! 世紀の歌姫相手だってことをわかってるんすかねまったく」

「旦那も存在を知ったの数日前でしょうが」

「うるさい!」


 今まで玲仁の前で取り繕っていた提も、いつになく態度が露骨に反抗的だ。よっぽど不服なのだろう。玲仁も自分で何のためにやっていたんだっけ、と忘れかけていたところだった。正直なところ、気づいたらこの状況になっていたという方がふさわしい。


「そういや、ウズちゃんが見当たらねえ……どこ行ったんでい?」

「さすがに菖蒲ちゃんのそばにいるんじゃないかな?」

「一応周りにはお姉ちゃんっていうことになってますからね」

「そうか……とにかく、ウズちゃんを狙うやつは、おいらがとっちめてやる」

「おい猿田彦、狙われてるのは菖蒲ちゃんだから!」

「どっちも守ってやらあ!」

「とりあえず、みんなあんまり目立たない方がいいと思う……」


 興奮する提と猿田彦をなだめながら、玲仁はいまだにこの方法で犯人をあぶりだせるか疑問を抱いていた。

 そうこうしている間に、ジングルが鳴り渡り、歓声が上がる。菖蒲のステージがいよいよスタートするようだ。


「お、入ってくる! 菖蒲たーーーーん!」

「みんなあああ! 今日は来てくれてありがとおおお!」


 呼応するように、菖蒲がステージに上がった。地上では、いよいよ握手会が始まっていた。一段とトーンが高くなった菖蒲の声がマイクを通して響き渡る。よくあそこまでスイッチを切り替えられるな、と玲仁は感心する。

 菖蒲の再三の呼びかけに、会場の熱量が中心に向けて高まっていく。上からみていても、磁石で引き寄せられたかのように人の顔がみな菖蒲の方向を向き、気が付けば玲仁も思わず身を乗り出し、くぎ付けになっていた。


「みんな、これから菖蒲ちゃんのダンスタイムの始まりよ! しっかりと目に焼き付けてね♡」


 言い終えると同時に、イントロが流れ始める。アップテンポにつられ、同時に、わぁと歓声があがり、会場のボルテージが上がっていく。


「このイントロはオリジナル曲――『劣等ルサンチドール』!」

「れっとう、るさんち……?」


 天照が玲仁に顔を向ける。玲仁も首をかしげる。


「多分、曲のタイトルじゃないかな。意味は僕にもよくわからない」


 おそらく曲のタイトルなのだから、天照がピンと来ないのも無理はないが、いずれにしろかなり攻撃的なネーミングではある。


「彼女はデビュー当初カバー曲ばかりだったんですが、つい先月彼女のオリジナル曲がリリースされたんですよ! 振り付けはもちろん、歌詞も彼女が実体験に基づいて書き上げた、ファンなら盛り上がらずにはいられない名曲です」


 提が嬉しそうに語っている中、菖蒲が軽やかに踊り始めていた。その動きに、玲仁も思わず息をのむ。

 曲のリズムと寸分狂いなく、彼女の四肢、静と動とが緻密に絡み合う。ツインテールの髪が跳ねるたびに顔にかかっては、活き活きとした表情を垣間見せる。

 玲仁は決してアイドルについて詳しいわけではなかったが、十代の踊りと呼ぶにはあまりにも何というか――完成され過ぎている、と思えた。これまでの彼女の可愛らしさ、図々しさとも違う、第三の顔が表れているような気さえした。


 感銘を受けたもつかの間、ものの一分も経たないうちに、ステージは終了した。菖蒲がポーズを決めると、これまでで一番の大歓声と拍手が上がった。


「あれ、もう終わり?」


 あっけない幕切れに玲仁が思わずこぼす。


「フルバージョンじゃなかったですね……まあ、握手会がメインなので仕方ないっすよ。まあ、僕がマネージャーだったら、意地でもフルでやらせますけどねえ」


 ほどなくして握手会が始まった。一般人が菖蒲に接触できる機会であるため、一同はいっそう注意深く監視したが、特に異変はみられなかった。このまま無事何事もなく終わるだろう、と玲仁が思い始めた矢先、以外にも背後から声をかけてきたのは素戔嗚だった。


「おい」

「どうしたの?」

「わからないのか? 様子がおかしいやつがいる」

「ウソ、どこに?」


 玲仁は慌ててあたりを見回すが、それらしき人は見当たらない。


「まだこちらには気づいていない」


 素戔嗚の目線は、まっすぐ一点をみつめていた。玲仁もさりげなくその方向を眺めてみるが、特に怪しい人物は見当たらない。菖蒲を眺めていたり写真をとったりしている人がちらほらがいるぐらいだ。

 全員に目配せをする。事態に気づいたらしく、天照もそっと玲仁に声をかける。


「どこにいるのです?」

「わからない。素戔嗚は気づいているみたいだけど……」

「どいつもこいつも役立たずだな。不安と緊張が全身からもれだしている」


 どうやら神としての力というよりも、相手の気を読むという素戔嗚が持ち合わせていてる武人としての能力なのかもしれない。


「確かめてやる」


 素戔嗚はそう言うと、たまたま背後にあったアンケート記入用のペンを手にとり、戻ってきた。


「素戔嗚、何を」


 玲仁がそう言い終わる前に素戔嗚はスナップを利かせ、素早くペンを投げていた。弾丸のように飛んでいったペンは、向かい側の3Fのへりから見下ろしていた男のこめかみに見事にヒットした。

 男はバランスを崩し、転倒する。


「素戔嗚!? どうしてそんなことを」 

「ヤオヨロズを確認したらどうだ」

「え? あ……そうか」


 玲仁はスマホを取り出し、画面をみる。ヤオヨロズから通知が飛び『バトル開始』のお知らせが表示されていた。


 ……当たりだ。素戔嗚が攻撃を仕掛けたとみなされ、バトルが開始したと認識されたのだ。

 慌てて立ち上がった男は、既に足早にその場を立ち去ろうとしていた。


「逃げてしまいますよ?」

「追跡なら任せろぃ!」


 猿田彦がすかさず走り出した。まだ事態を飲み込めていないままの混乱した様子の提が叫ぶ。


「お、おい。菖蒲ちゃんのイベントで目立ちすぎるなよ!」

「心配すんな。うまくやらあ!」


 猿田彦がへりに足をかけ、飛び上がった。あっという間に反対側へ飛び移る。幸い、周りにいた客はみなステージに気をとられ下を向いていたので、そこまで大きな騒ぎにはなっていない。


「いやいや、どう考えてもそれは目立ちすぎだろ!」


 提はそう叫びながらも、既に遠くへ走り去っている猿田彦には届かない。自分も何とか追い着こうとすでに走り出していた。どうやら手柄を立てたいという意欲はあるようだ。


「私たちもいきましょう!」


 天照が叫ぶと、玲仁もうなずき、後を追う。

 一方で反対側へと飛んだ猿田彦はすでに男の後ろ姿を捉えていた。夏間近の時季にも関わらずカーキ色のコートを羽織っていて、見れば見るほど怪しい風貌だ。


「待ちやがれ!」


 男は廊下の途中で突然姿を消した。猿田彦が脇をみると、緑色のサインに照らされた無骨な鉄の扉がある。猿田彦がそこへ飛び込むと、慌てて階段を下る男の足音が響いていた。


「そんなもんで逃げられると思ってんのかい? 相手が悪かったなあ」


 猿田彦は軽い身のこなしで非常階段の手すりを飛び越え、一気に男の頭上へ飛びかかった。男はそのまま倒れこみ、うつ伏せで床におさえつけられる。


「な、何するんだ貴様」

「キキッ、お縄頂戴っ! 大人しくしな」


 大の男がいくら暴れたとしても、そこは従神と人間の力の差。猿田彦をどかすほどの力を持ち合わせておらず、やがて力尽き、観念したようにそのままべたりと横たわった。



 それから十分後。男は多数の視線を集めていた。猿田彦の他に、提、天照、玲仁、素戔嗚が椅子に座る男を取り囲み、さらにイベントを終えたと思われる菖蒲が天鈿女も駆けつけていた。拘束こそしていないが、この包囲網を抜けて逃げることはほぼ不可能だろう。

 埃っぽいその小さな部屋は、ショッピング施設の関係者が物置として利用していたものだが、なんとか菖蒲が橘を通して融通を聞かせて使わせてもらえることになった。無論、橘達にはヤオヨロズや脅迫状などの細かい事情は伏せたままだ。

 うつむいたままだんまりを決め込む男に対し、菖蒲が睨みつけるように男の顔をのぞきこむと、はっと表情を変えた。


「……あんただったのね」

「知っている人ですか?」

「記者よ。名前は知らないけど。私の周りをかぎまわって、低俗な記事ばかり書いている、三流週刊誌の男よ。何度か追い払ったことがあるわ」

「女のケツを追いかけまわすなんて、最低な野郎だな」

「……」


 猿田彦が言うとどこか違和感があるが、それでも男は黙り続けた。しびれを切らせた菖蒲が、さらに詰め寄る。


「あんたなんでしょ? このメッセージを送りつけて来たの」


 菖蒲がスマホの画面をかざす。


【すぐに芸能活動を引退しろ。さもなくば巫の秘密をバラす】


 先日、玲仁たちにみせた一文だ。だが男は何も答えない。


「とんだ茶番だな。お前、巫なんだろ? さっさと従神を呼んだらどうだ?」


 素戔嗚が男に詰め寄るが、男は微動だにしない。戦闘を期待していた素戔嗚は、あまりの張り合いのなさにため息をつき、すたすたと部屋を出ていってしまった。


「さて、どうしたもんかねえ。こうまで口を割ってくれないなら、どうしようもないぜ?」


 猿田彦が頭をぽりぽりと頭をかきながら、次の一手をどうすべきか悩んでいた。すると天鈿女が口を開く。


「菖蒲、こうなったら……橘に引き渡しましょう」

「あいつに全部事情を説明するの?」

「いいえ。あなたを付きまとっていた男だと言えば、安全のために最低限の情報収集や協力はしてくれるでしょう。例えばメールを送った証拠とか。直接的でなくとも、彼の真意を究明する足しにはなるかもしれないわ」


 意外にも、そこで言葉を発したのは、容疑者の男だった。


「そうやって……また周りに助けてもらうつもりか?」


 男がようやく口を開いた。その言葉に、菖蒲が不快感をあらわす。


「なっ……どういう意味よ」

「わかっているんだろう? それがおれの仕事だ」

「仕事? 勝手に人の私生活を嗅ぎまわっておいて、偉そうに」


 天鈿女が問答に割って入る。


「菖蒲、これ以上この男とやり合っても何の解決にもならないわ」

「ああ……イラつくわ。どうしたらいいのよ」

「菖蒲ちゃん……この人、本当に犯人なのかな?」


 玲仁が突然言い放ったひとことに、その場が凍りついた。全員の視線が一斉に玲仁に注がれ、菖蒲がぎろりと玲仁をにらむ。


「……どういう意味?」

「いや、その……こういう週刊誌の記者って、結局お金やスクープのためにリスクを背負ってこういうことするんだよね。もし本当に君を脅してお金を得たいなら、今が絶好のチャンスだと思うんだ。でも、今のところその素振りもない」

「……」

「あと、ずっとひっかかっていたんだけど――もし記者なら、芸能活動やめろ、なんて言うかな? むしろもっと有名になってもらって、スキャンダルを生み続けてくれていた方が彼には得な気がするんだけど」

「……」


 男は黙っていた。ビンゴだろうか? だがまだ真相はわからない。そもそも別の犯人がまだいるだけなのかもしれないし、この男が別の目的を持っているだけかもしれない。玲仁もそうは言ってみたところで、はっきり次はどうすべきかわからないのだ。

 菖蒲は玲仁のセリフをきいて、しばらく黙り込んだ。


「ご、ごめん。あくまで予測だから」

「やるじゃない。さすがあたしの彼氏ね」

「え」

「菖蒲! 無事か!」


 そのとき、突然扉が開き、橘が飛び込んできた。後ろから秘書の田霧も現れ、部屋はぎゅうぎゅうだ。


「ストーキングって聞いたけど、ダイジョブ!? 殴られたりしてない? 顔はなぐられてないよね!?」

「あんた……どこから聞いたの?」

「まだ私は何も言ってないわ」

「あ、あのう……」


 提がバツが悪そうに小さく声を上げる。


「すみません。僕てっきりプロデューサーさんは事情を知っているもんだと思って……さっきしゃべっちゃいました」

「はあ!?」

「あ、あの……! ヤオヨロズのことは言ってませんから」

「ん? ヤオヨロズって何?」


 橘が聞き返すと、菖蒲が提の襟を掴み、引っ張り上げる。


「それ以上口開いたら殺す」

「ひ、ひいい!? すびばぜん……あ、ああでもなんか気持ちいい」


 菖蒲がやってらんない、といって襟を乱暴に話すと、提がせき込み、四つん這いになった。体ごとしぼんだかのように大人しくなっている。


「まあ、いいじゃない? 橘に話す手間が省けたわ」


 天鈿女が言うと、うんうんと橘がうなずく。


「うん。本当だよ! そういうときはすぐに僕に知らせるべきだよ? 早めに処理すれば、できることもあるんだから!」

「……いいから、早く調べてちょうだい」


 すると橘が男の顔をのぞきこみ、眉をしかめた


「うーん? 彼……何度かみかけた気がするなあ」

「ええ。私を何度か狙ってた、週刊誌の記者よ」

「ああ、だからか……」


 橘が男の全身をなめ回すようにみつめた。男は特に動じる様子もなく、ぶすっとした表情で目を合わせないままだ。


「どうしようか。警察に突き出したほうがいいのかな……どう思う、田霧?」


 隣でずっと無言で石像のように立っていた、仕事ができそうな田霧秘書へとバトンをパスする。こういう大事な決定を回すあたりがいかにも軽薄な感じだ。


「警察がまともに捜査してくれる保証はありません。まずは一度事務所へ連れていき、事情聴取を行うのがよろしいかと」

「うん、わかった。そうしよう。じゃあ菖蒲、この男は僕らで預かるね」

「お願い。一刻も早くそいつの正体を突き止めて。そして、もう二度とこんなことさせないようにしごいておいて」

「おっさんにそこまでする趣味はさすがにちょっと……まあでも、大事な菖蒲に付きまとっていた報いは受けてもらおう。つかさ、ちょっと力仕事頼むよ」


 そう橘が叫ぶと、なんと部屋の入り口の外からもう一人、突然大男が無言で現れた。いよいよ小さな部屋がぎゅうぎゅう詰めだ。

 一同がどきりとする中、橘は淡々と告げる。


「あれ、びっくりした? さっきまでバンの運転席にずっと一緒にいたじゃん」

「まさか。彼があのバンの運転手? 全然気づかなかった……」

「まあ、座ってたから無理もないかもね。あんな図体だけど、温厚だし色々引き受けてくれてね。うちの事務所では大助かりさ」


 司は、その会話に絡む様子もみせず、にゅっと捕まえた男の前に立ち、ひょいと軽々かつぎあげた。男は最初、じたばたと抵抗する様子をみせたが、まるで動じることなく、ゆっくりとそのまま歩き出ていった。

 すると、横にいた秘書の田霧が口を開く。


「橘様、もうここを発つ時間です」

「わかった。じゃあ、また後で色々わかったら連絡する」

「頼むわよ。みぐるみはがしてでもいいから、そいつの目的を暴いて」

「ああ。任せておいて。芸能界じゃこういうダーティーな仕事も仕事のうちだからね」


 自分からあえて言うものか、と玲仁は素朴な疑問を抱きつつ、ひとまずうなずく。


「じゃあみんな、また次のイベントもよろしくね! じゃっ!」


 二本指を作り、キザで古臭い挨拶で別れを告げる。なんて表現だ、とつっこむ暇もなく、橘は部屋を出ていき、秘書の田霧も軽くおじぎをし、すぐに出ていった。一度決まると動きが早いのは、この辺も業界故だろうか。


「何か手がかりが得られるでしょうか」

「じゃあ、デートはひとまず終了ってことでいいのかな」



「菖蒲ちゃん、帰る前に僕にサインを……」

「ウズちゃんおれと楽しいデートに……」


 提と猿田彦が同時に話し出したところで天鈿女が遮る。


「菖蒲はこの後まだ仕事が残っているの。生中継の動画配信をする予定があって」

「映像を全国に流すという、例のあれですか」


 天照が早速この前玲仁から教わった知識を披露する。


「そうよ。デビューする前からずっと続けてるし、イベントがあった日とかは、そのことも報告したりするの」

「じゃあ、その現場をごほうびでみせてくれたりとか……」

「はあ? ダメに決まってるじゃん」


 がっくりする提。すると猿田彦がすかさず口をはさむ。


「じゃあ、僕もこれで……」


 すると、菖蒲が玲仁に視線を移し、じっとみつめた。まだ何かあるのか、と玲仁はおそるおそる次の言葉を待っていると、意外な台詞が菖蒲の口から出てきた。


「……玲仁、あなたはうちに来なさい」

「えっ?」

「あなたには特別に、配信の現場をみせてあげるわ」

「なぜだああああああ!! 僕はダメなのに!?」


 提が悲痛な叫びをあげる。


「あんたはネット越しに鑑賞しながら8をたくさんキーボードごしに打ち込み、私に拍手喝采を送り続ける」

「……ハイ。カエッテ、8ヲ、打チ込ミ続ケマス」

「じゃあこの猿田彦めが犯人を捕まえたので、私がウズちゃんと……」

「配信の準備は私も手伝わなきゃいけないから。猿ちゃん、また今度♡」

「キキッ……了解っ!」


 提も猿田彦も、すっかり二人に手玉にとられていた。だがその切り替えの早さとしぶとさだけは尊敬に値する。依然、戸惑っているのは玲仁の方だ。


「僕も提と一緒で、犯人を捕まえたわけじゃないんだけど」

「うだうだ言わないの。愛しい彼女のお願いも聞けないの?」

「その設定はもう終わったんじゃ……」

「うるさいわね! 男のくせにいじいじ言わないで、黙って従いなさい」

「玲仁様、『どうがはいしん』を生でみられる、またとない機会ではないですか? 私だったら絶対行きたいです」

「そ、そうか……」


 天照に言われると複雑な心持ちだが、確かに興味は多少ある。

 結局玲仁本人もわけがわからないまま、この後の菖蒲の現場に付き合うこととなった。


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