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3-7 刺客

「天照、しっかり……!」


 玲仁が必死に何度も呼びかけるが、依然として返事がない。倒れた天照のそばにはさきほど握っていた胸元の首飾りがほどけ、無残に地面に散らばっている。あらためて傷口を確認するが、こめかみからうっすらと血が流れ出ていてるが、傷口をみるとそんなに深くはなかった。


急いで玲仁がヤオヨロズで状況を確認する。


【巫バトル中: れひと vs みずもと】


【れひと:デッキ編成】

  スロット1:天照大神あまてらすおおみかみ[光]

  スロット2:素戔嗚尊すさのおのみこと[火]

  スロット3:付喪神つくもがみ[地]

  フレンド枠:なし


【つつみ:デッキ編成】

  スロット1:高龗神たかおかみのかみ[水]

  スロット2:未確認

  スロット3:未確認

  フレンド枠:なし


 案の定、既にバトルが始まっていた。巫の名に心当たりはない。誰かがガラッを引きに氷川神社に現れることを待ち受けていた可能性は大いに考えられる。

 しかも、天照のHPの状態に玲仁は愕然とした。


「残りHP……ゼロだって?」


 つまり、戦闘不能ということだ。こんなにもあっけなく突然やられることがありえるのだろうか。当たり所が悪いにしてもほどがある。


 一方の素戔嗚は、獲物を横取りされたことへの苛立ちを隠せずにいた。必死であたりを見回し、天照を攻撃した黒幕の居場所を突き止めようとしている。

 すると、少し離れたベンチに、鮮やかな和柄の傘をさし座っている人物がいることに気づいた。このくすんだ灰色の世界の中では否が応でも目立つ。異彩を放っている。風貌といい、状況といい、明らかに怪しい。


「貴様……何者だ!」


 素戔嗚が叫び、問いただす。


「残念です。あなたが飛び出したせいで、その少女に()が当たってしまった。私の発動技能アクティブスキルは戦闘開始時の初撃には即死効果が50%つくのですが――私としたことが、不運ですね」


 それは、落ち着きのある、女性の声だった。傘を少し上に掲げると、わずかに微笑んだ口元がのぞいた。全貌はわからないが、シャープな顎のラインからして、丹精な顔立ちがうかがえる。

 彼女の言葉に玲仁は青ざめていた。あの攻撃をくらったら本当に死んでいたかもしれないってこと? むしろ天照が喰らったのは不幸中の幸いかもしれない。

 もちろん容態は心配ではある。実際には死なないだろうが――以前天照が車に激突したとき、確か完全回復まで8時間かかったはずだ。


 素戔嗚が、女性をにらみつける。


「獲物を横取りしたのは貴様か」

「何か勘違いをされているようですね。私の獲物は初めから、そこにいる少年ですよ」


 その言葉に、玲仁はぞっとした。その人物はあくまで淡々と、傘を後ろに傾け顔をあらわにする。


高龗神たかおかみのかみと申します。お見知りおきを」


 目は切れ長で、鼻筋もすっと真っすぐ通り、緩く波打つ長い髪が肩まで伸びている。

 降り続ける雨の中、傘を閉じゆっくりと一礼すると、毛先から水滴がしたたり落ちる。

 

 だが相手のペースに合わせることなく、素戔嗚が勢いよく飛びかかる。


「おやおや……品性に欠ける方ですね」


 高龗神たかおかみのかみが冷静につぶやく。


「ぐっ!?」



素戔嗚の体に刺すような痛みが走った。それも一か所でなく、数か所に。

原因不明の痛みに勢いを殺され、膝をつく。見ると、体の至る所にに小さな弾痕のような傷ができている。天照がやられたものと全く同じ傷跡だ。


 だが、高龗神は微動だにしていない。


「何を……飛ばした」

「素戔嗚、古代の神話に違わぬ短絡ぶりですね。よっぽど自分の力に自信があるのでしょう。ですがそういう相手ほど、自らの力におぼれる」


 高龗神たかおかみのかみが明らかにな何かを仕掛けたと思われるも、玲仁には何ひとつとしてわからない。相手はただ傘を地面に突いて立っているだけだ。

 ひとまず玲仁は天照をかつぎ、ゆっくりと近くのベンチの陰へと走った。身を守りながらも、あの相手をどうにか攻略する緒を探りたい。皮肉にもさきほどまで玲仁たちを襲っていた素戔嗚が、今は謎の刺客と相手をしてくれている以上、この機をなんとか利用したいと考えていた。


 すかさず素戔嗚の体に正体不明の弾が撃ち込まれる。さすがの素戔嗚も一旦近くのベンチの陰へと転がり込み、身を守る。ひっきりなしに弾が撃ち込まれ、木製のベンチから木屑が跳ね上がった。


「こざかしい」

「ねえ、素戔嗚すさのお

「あん?」


 突然脳内に飛び込んできた声に、素戔嗚は苛立ちをあらわにする。


かんなぎのガキが。俺の邪魔をするな」

「あいつの攻撃の出どころは、手元かもしれない」

「何だと?」

「撃つ瞬間をみるんだ。ほら――」


 続けざまに弾がベンチに撃ち込まれた。素戔嗚が背もたれの隙間からじっくりのぞきこむと、確かに高龗神たかおかみのかみは何かを弾くように親指を立てているようだった。

 素戔嗚は目を凝らし、その攻撃の正体を特定しようとする。再びいくつかの弾が素戔嗚の顔をかすめ、飛んでいった。素戔嗚が何かに気づき、自分の傷跡を指でなぞり、再びつぶやく。


「これは――()()だ」

「そんなものでこれだけの衝撃を?」

「高速で飛ばしてきている」

 

 素戔嗚が口に出す。すると高龗神たかおかみのかみはなぜか嬉しそうに笑った。


「さすが、素晴らしい観察眼。戦闘のセンスはあなどれませんね」

 

 なるほど。水滴であっても高速で飛ばすことができれば、それなりの威力になるかもしれない。傷があるのに弾がみあたらないことにも合点がいく。水分ならば着弾した後は消えてしまうからだ。

 しかも、今は雨が降っているから撃ち放題。相手にとってこの天候は好条件極まりない。


「からくりがわかったところで、この距離ではどうしようもできませんよ?」 

「……試すか?」


 素戔嗚は素早くベンチの陰から飛び出した。

 高龗神たかおかみのかみにまっすぐ向かっていく。


「芸がないですね。直進的な動きは最も狙いやすい」


 そう言いながら高龗神たかおかみのかみは水滴を素戔嗚めがけて次々と飛ばす。

 だがその親指の動きと同時に、素戔嗚が横へとステップを踏み、軌道から体をそらした。


「なるほど? タイミングさえ合えば、避けれるというわけですね」


 素戔嗚が片手を引き、高龗神たかおかみのかみを間合に捉える。その喉元を引き裂かんとばかりに腕を伸ばした。


「もらった」


 だが、なおも高龗神たかおかみのかみは不敵に笑う。


「――惜しかったですね」


 その言葉と同時に、高龗神たかおかみのかみは片手に持っていた傘を素戔嗚に向け、勢いよく広げた。表面についた無数の水滴が一斉に素戔嗚の全身に撃ち込まれた。


「なに――っ!?」


 素戔嗚は後方に勢いよく吹っ飛び、仰向けに倒れた。


「素戔嗚!?」


 外傷はさほどないが、至近距離で受けた衝撃はかなりのものだろう。

 ヤオヨロズから素戔嗚のHPを確認する。最大HPから半分近く下がっていた。


「意外とダメージが大きいな……」

「それはおそらく相性の問題です」

「相性?」


 高龗神がにやり、と笑う。


「私の属性は『水』。素戔嗚は『火』――つまり、私に分があるということです。さすがの彼もこの量の攻撃をまともにくらえば、致命傷でしょう」

 属性。そう言われてみると確かに、今まで全ての従神には属性のマークがステータスに表示されていた。これがヤオヨロズという()()()なのであれば、この手のルールはあって当然だろう。

 さぞかし素戔嗚も苛立っているだろうと玲仁は思った。ところが素戔嗚は高龗神たかおかみのかみを睨みつけながら、笑っていた。


「……気がおかしくなったのですか?」

「ふふ、これが笑わずにいられるか? ようやく楽しめる相手に出会えたわけだからな」


 やはり、この男はただの血に飢えた獣だ。素戔嗚にこれ以上勝ち目があるようにはみえないが、その根拠のない自信にだけは気圧されるものがある。


「いくら挑んでも無駄です。触れる前に膝まづかせるのみ」

「……それはどうかな」


 素戔嗚は片手に傘を握っている。それをすっと掲げ、高龗神たかおかみのかみに先端を向けた。


「ただ攻撃を受けるだけじゃ割に合わねえからな。くすねさせてもらったぜ」


 よくみると、高龗神たかおかみのかみが持っていた傘が一本なくなっていた。攻撃をくらう瞬間、どさくさに紛れてつかんだのだろう。


「おれも本来武器がある方が戦いやすいんでな」


 素戔嗚は傘を構え、再び高龗神たかおかみのかみに向かって駆け出した。


「……望み通り地に伏して差し上げましょう」


 高龗神たかおかみのかみが再度親指を弾いた。だが今度は素戔嗚は避ける代わりに、傘を広げる。


「そんなもので『靜滴しずく』は防げませんよ。貫通するだけです」


 だが素戔嗚は『靜滴しずく』を受け止める瞬間、素早く傘をすぼめた。わずかに弾道が傘の表面を伝って逸れていく。弾は玲仁の背後の木の枝を吹き飛ばしだ。


「反らした――?」


 あの速さの弾を見切るだけならともかく、反らすなど、よっぽどの瞬発力がないとできる技ではない。

 さすがの高龗神たかおかみのかみも焦りを感じたのか、次々と弾を放った。だがそれらも次々と素戔嗚は受け流し、距離を縮めていく。


「すごい……」

 

 玲仁が思わず感嘆の言葉を漏らす。あと三歩というところまで素戔嗚が詰め寄ると、高龗神たかおかみのかみは再び傘をかざし、開く構えをとった。


「再び吹き飛ぶがいい」

「攻撃パターンが単調だぜ?」


 素戔嗚は自らの傘を引き、その先端を高龗神たかおかみのかみにむける。


発動技能アクティブスキル八手斬やつでのおろしとつ


 高速で突き出された素戔嗚の傘の先端が、高龗神たかおかみのかみの傘を引き裂きながら、高龗神に直撃し、吹き飛ばした。


「きゃああああああッ!」


 高龗神たかおかみのかみは倒れた。その一撃は、背後の外灯の柱から木々の葉まで、一直線に並ぶ全てのものを綺麗に貫いていた。


「勝負がついた?」

「いやまだだ」


 玲仁の希望を、素戔嗚が低い冷徹な声で打ちのめした。

 目の前に倒れていた高龗神がゆっくりと立ち上がる。攻撃を受けた肩を抑えながら、こちらを睨みつけた。

 いつの間にか雨脚がいっそう強くなっている。


「ひょろっとしてるわりに、案外しぶといな」


 素戔嗚が再び傘を握りしめ、迫っていく。高龗神たかおかみのかみが落とした傘を拾い上げる。


発動技能アクティブスキル靜滴しずく


 高龗神たかおかみのかみが再び傘を勢いよく開き、水滴が一斉に放たれた。何発かが体にヒットするも、素戔嗚が怯む様子はない。


「散弾は引きつけて撃たないと威力半減だぜ。さすがに焦ってんな」

「くっ…!」


 素戔嗚は再び加速し、高龗神たかおかみのかみに向かい距離を詰める。


発動技能アクティブスキル八手斬やつでのおろしとつ


 傘の先端が高龗神たかおかみのかみの顔をとらえた――はずだった。ところが攻撃は彼女の顔をかすめ、背後の木の幹を貫いた。素戔嗚は眉をしかめる。


「外れた――?」


 すかさず今度は高龗神たかおかみのかみが傘を開き、弾を撃ち出した。素戔嗚が再びまともに全弾を身体に受ける。


「ぐはあっ!」


 玲仁は再び、素戔嗚のステータスをみた。HPがさらに三分の一ほどまで堕ちている。


 ――何か、ひっかかる。


 身体能力の差は歴然だ。高龗神たかおかみのかみは遠距離タイプのようだし、そんなに俊敏に動いてはいない。先ほどの素戔嗚の動きなら、あんな簡単に攻撃を外すとは思えない。


「素戔嗚、一旦ひくんだ」

「黙れ。俺に指図するな」


 素戔嗚は玲仁を無視し、姿勢を正し再び傘を相手に構えた。絶対なる自分の力への自信。だが――玲仁は知っている。どんなゲームもただの力押しだけじゃ勝てない。相手の特徴に合わせて最適な解を選ぶ。それが勝者のとるべき道だ。

 玲仁は注意深く高龗神たかおかみのかみを観察したが、不審な点はない。だが素戔嗚が簡単に攻撃を外すと考えるのもどうもしっくりこない。

じゃあ、何かしらの能力で回避したのだろうか? いや、それもない。神様の持つ発動技能アクティブスキルは一つのはずだ。だとすると――


ひとつだけ可能性があることに玲仁は気づいた。


敵が――()()()()()()()()()()()

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