第36話 オスプレイ、リターンズ
「疲れたわ……」
「でも楽しかったですよ?」
洗車を始めて一時間半、洗車前は煤が付き砂やほこりをかぶっていた車のボディは洗い流され本来の綺麗な白いボディがアリスとシーナによって洗い流されていた。
俺の身体も川で洗い流されたが邪な心は洗い流されなかった……
「休憩のはずだったのに疲れてしまったわ……」
「そんなに疲れたんですか?」
お嬢様のアリスに肉体労働は辛かったようで文句を垂れる、アリスの隣に立つシーナはもう一台洗車できると言えそうなほど元気だった、シーナは底なしの体力の持ち主のようだ。
”多分、エネルギー貯蔵量の関係かな”
二人の体躯を比べるとアリスは身長が低く胸が無いくびれも無い寸胴体型、対してシーナは年相応の身体つきで胸もそこそこありくびれが肉付きの良いお尻を更に大きく見せている。体格が大きい方がエネルギーの貯蔵量が多いのは当たり前だ。
始めから比べるまでも無く分かっていた事だった。
「……? 何?」
「なんでもない」
「こっち見ないで」
とアリスは釣り目に力を入れガンを飛ばす。
「はいはい」
アリスに心の内を気づかれたら殺されてしまうので俺は目を反らし小川の流れを見つめる。
いちいちコイツは俺に突っ掛かってくるけど何なの? 俺の事嫌いなの? 知ってるよ。
王都に着いた後ヤンキー女神にどんな難題を任せられるのか考えながら綺麗な水の流れる小川から背を向け洗車して汚れ一つない綺麗になった車に歩み寄る。
「うん、余は満足じゃ……」
自慢の愛車を正面から眺めて呟く。
はたから見るとただの車だがこいつはチート級の能力を持っている、一番は絶対壊れない能力だな、この能力は素晴らしすぎる――
「あっ……ははっ、なんで気づかなかったんだ……」
自分の車の自画自賛をしているミキトは何で今まで思いつかなかったのかと笑った。
「そうだよ……オスプレイで行けば王都なんてすぐに着くじゃん!」
俺の愛車には三つの能力が備わっている、一つは絶対壊れない能力、二に永久機関、そして三に万能……
乗り物なら何にでもなれる能力には今まで助けてこられた。
「まだ時間にして昼過ぎくらいか」
空を見て太陽の位置を確認する、太陽は真上から少しずれた場所に位置している為少し午後寄りだと判断した。
「アリス! シーナ! 王都に行くぞ!」
思い立ったが吉日、川辺で水着姿のまま遊んでいるアリスとシーナに声を掛ける。
「まだ少し休みたいところだけれど……もう少し進んだ方が良いわよね」
「行きましょうっ王都へっ!」
アリスはまだ少し休みたいと言いたそうだったが先の事を考えて直ぐに出発することに同意した。シーナは相変わらず王都となると少しテンションが上がってボールを投げてもらうのを待っているポメラニアンの様な眼をしている。このまま何処かへ走り去ってしまいそうな湧き上がるエネルギーをシーナから感じる。
「……よしっもう行こう!」
二人の意志を確認し早急に準備に取り掛かるミキト――
「ちょっと待ちなさい、私達まだ水着なのだけれど? このまま行かせる気?」
腕を組み小さな胸を寄せているように見える水着姿のアリスが睨んでくる、隣のシーナの瞳は糾弾するように俺を見ている。
「おいおい、そんな訳ないだろ? これから出発する前に二人には俺が用意した服を着てもらう」
説明足らずで勘違いさせてしまったミキトは二人に付け足して用意する服を着てもらう事を説明する――が、まだ説明不足だったのか二人の顔は引き攣っていった。
「……どんな服を着せるつもり? 最低……」
「キモチワルイです……」
アリスの本気でゴミ虫を見るような眼とシーナの嫌悪が俺に刺さる。地味にシーナの言葉の方が俺に大ダメージを与えた。
「待て、何か勘違いしている。二人には俺が着ている服を着てもらうんだ」
足りなかった言葉を着けて説明する。これで大丈夫だろうと一安心したところで更に強い視線が刺さっている事に気づく。
「最低ね……自分の性癖に私達を利用しないで」
「アブノーマルな性癖は控えた方が良いと思います……」
「えええっ!?」
一体何がいけなかったのか、振り返るが分からない。巨乳好きはアブノーマルですか?
「あっ……」
何が悪かったか会話を振り返り気づく。
うん……なるほど……確かに”俺の服を着てくれ!”ってのは少しアブノーマルな性癖に思える。
本当に足りないところを見つけパズルのピースが揃う、後ははめるだけだ。
「ごめんっ、もう一度説明させてくれ!」
二人に謝罪し弁明をしようとするが二人の眼は冷たい。
「説明? あなたの性癖について?」
「やめてください……」
高圧的な態度で下から見下すアリスはどうでもいいとしてシーナの嫌いな相手を拒否する言葉には傷つく……
「これから王都に向かうがこのままだと日が暮れるし何より魔獣が出て危険だ、だから車をオスプレイにして王都に行こうと思うんだがオスプレイに乗るには安全の為に装備が必要でその装備を俺が用意するからそいつを二人に着てほしい……という事です」
一間置き今度こそ簡単に要点だけをまとめて伝えるがうまく伝わったか不安でしょうがない。
「なるほどね……あなたの性癖を疑って悪かったわ、ミキト」
表面だけの謝罪をするアリス、やっぱり上から目線は変わらない。
「///」
そしてシーナからの謝罪は無く、俯いて赤くなっていた。
良かった、ちゃんと伝わった、安心したところで次の行動に移る。
「水着は乾いてるな……じゃあ、服着せるから動くなよ」
「は?」
「えっ」
「あっ、いや、魔法でだよ」
眉をひそめる二人にまた言葉足らずで面倒な事になる前に訂正をした。
「じゃあ、行くぞ……位置指定、アリスとシーナの身体、来い!レディースジャケット!レザーパンツ!グローブ!ライディングシューズ!」
――シュン。
ミキトが唱えると三秒とも行かないうちに露わになっていたアリスとシーナの肌はミキトによって召喚されたピッタリとした艶のある黒い革のジャケットによって隠れてしまった。
”もう少しシーナの水着を堪能したかったな”
黒い装備に包まれて肌色の少なくなったシーナに遺憾の意を表したミキトだったがピッタリとした服によってシーナの身体のラインがハッキリと分かる事に気づいた。
”おいおい、最高だぜ”
水着姿の時のシーナも良かったが今のレディースジャケットによって押さえつけられている胸も良い、更に黒い服が周りの景色とはっきり別けることで身体のラインが映え俺の目に焼き付く。
「……? 何か変ですか?」
「何でもない、似合っているぞ」
「ありがとうございますっ、何か少し恥ずかしいような嬉しいような……///」
当の本人は自分の魅力に気づいていないらしくミキトの目線に戸惑いながら喜んでいる。
「ミキト、この服、何でできているのかしら? 素材は? あと少し大きくない?」
「革じゃん? あと大きさはそれであってる」
お嬢様は些細な事でも気になるのか召喚した服の事について聞いてくるが俺もわからない、ので適当に返答する。
「……何か一言、言いなさい」
「はい?」
ムッとした表情でミキトに何を求めているのか分からない問題を吹っ掛けてくるアリスに当てずっぽうで答える。
「……白が良かった?」
「……違うわ」
黒い服にご不満……ではないようだ、アリスだから”私の装備は白よ! 分かったっかしら!?”と言うと思ったがこの答えは違うらしい、何を求めてるんだ? あれこれ頭の中で正解を模索するとアリスの求める答えが見えた。
「意外と似合ってんじゃん」
「……や、やっと言ったわね、遅い」
腕を組み、レディースジャケットに隠された無い胸を強調しながら満足したようはにかみながら笑う。
これが正解だったか、女子が服を変えたら求める答えは”似合っている”これだろう、だけどあんまり似合っていないからな? お世辞だからな? お前はスク水着てた方がいいぞ。
嫌々言わされたミキトは内心で毒づきながら王都に行くために車をオスプレイにする。
「二人とも少し離れろ、オスプレイになれッ!」
――ググッ。
ミキトがオスプレイの全体像をイメージし唱えると車は膨張して体積が大きくなっていく、まるで車型の風船がどんどん膨らんでいくようだ。
「やっぱりすごいですね~」
「……」
車の変形に率直な感想を述べるシーナと声も出さず只、目の前の現象を口を開けアホずらで見ているアリス、そんな二人の横で愛車が見る影も無く変わっていくことに悲しみを覚えるミキト。
「あああああああッ」
直視すると辛い……早く慣れないと……
ググッ……グン。
「はあはあ……辛い……」
車の変形する悲しみを乗り越えた先にはこれからの王都への道のりを安全に飛行してくれそうな大きなプロペラ、太い胴体のオスプレイが堂々と鎮座していた。
「……よし、行くぞ野郎共ッ!出発だー!」
「……」
「ミキトさん……?」
気持ちを切り替える為と景気付けに荒々しく雄叫びを上げるが二人には奇行に見えてたようだ。
「あ……いや……二人とも後ろに乗れっ」
二人の視線を振り払いオスプレイの後部に座るように促す。始めに自分からオスプレイに乗り込み運転席に着く、操縦はアリスの屋敷に侵入した時以来なのでこれで二回目になるが課金で手に入れた能力によってミキトには長年オスプレイを操縦していたと錯覚するほどハンドルが手になじんだ。
「ポチっポチっと……自分では何やっているか分からないのに勝手に体が動く……少し怖いな」
運転席の端にあるボタンやらを適当に押している様にも見えるがこれはミキトが思考して行なっている訳ではない、自動で、意に反せず体が動くのだ。きっと万能操縦の能力のおかげだが目に見えない意思に操られているのではないかと不安になる。
――「ミキト」
「なんだ?」
運転席でオートで離陸準備を行っていると後部からアリスに話しかけられる、その声は低く何かに対して怒っているように感じられた。
「これは何かしら」
無表情でミキトに自分の刀の先を刺す様に突き出してくるアリス、アリスの突き出す刀の収められている鞘の先には男物のパンツ、つまり俺のパンツが引っかかっていた。
「……」
そうだ、着替えている時にそこら辺に置いたままだった……その状態で車の内装がオスプレイになった時に何時もアリスが帯刀している刀に引っかかったんだ……
”めっちゃ怒ってるよ……”
此処までに至る流れを頭の中で想像し、すぐ後ろにいるアリスの顔色を窺がうが言うまでも無く怒っている。無表情な顔に白い瞳、整った顔立ちはお人形さんが立っていると言えば普段ならば褒め言葉だが、今の状況でのお人形さんが立っている、とは殺戮マシーンが立っていると言っているようなものだ。
「それ誰のだ?」
普通は謝るのが定石だがここはあえて定石を踏まずにとぼける、名付けて”しらばっくれ作戦”
「……そう、ミキトの物じゃないのね」
しらばっくれ作戦に引っかかったのかアリスは鞘の先を下す。
”引っかかったなッ! 俺の作戦とパンツにッ!”
心の中でほくそ笑むミキトだったが勿論こんな作戦とも言えない作戦にアリスが引っかかる訳が無く……
「ふざけんなっ!」
ゴッ。
怒号と共に後頭部に痛みが走る。
アリスさん……怒った時にキャラがぶれてますよ……
キャラの確立が出来ていないアリスに殴られ、顔から手前のハンドルに突っ込んだ。




