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第35話 洗車

「これで擦ればいいのね」

「そうだ」

シーナとアリスの分のスポンジを召喚し各々に手渡す、アリスは右手に持ったスポンジに泡を纏わせミキトに見せて確認をとる、小さな体躯に白いスクール水着の美少女が泡を纏ったスポンジを持つ姿は危険な香りがプンプンした。

「……」

「……」

何か不思議な引力によってミキトの眼はアリスから離れられない、よくある時が止まった感覚だ。おかしい、万乳引力か? アリスに乳は無いのに……


「見ないで」

「見てない」

お腹辺りを見て”こいつ意外と腹筋ねぇーな”とか思ってないしっ!

 ミキトはアリスの白いスクール水着によって顕現したお腹のラインから目を反らし、反論するがミキトの脳内には完全にアリスの丸いフォルムの身体の中心線にあるへその形が焼き付いてしまった。


”こいつは腰回りが武器エロか……”

思えば腰に日本刀をぶら下げているしアリスの腰は普通の女の子の様な腰つきではない、適度な筋肉の上に適度な脂肪があり肉付きも申し分ない。

アリスの身体(腰部分だけ)を勝手に評価し考察する。


「おい……」

ドスの利いた声、その声は目の前の小さな体躯の小さな声帯から出ていた。いつもの”~かしら”とか”~なのよね?”といった上品な言葉使いは無くなり完全にチンピラだった。


「……洗車しようぜ」

「……」

あれ? もしかして”戦争しようぜ”って聞こえちゃった?

誤魔化すためにアリスに洗車を勧めるがアリスの眼は殺しに掛かるモードだ、手に持った武器スポンジで俺を殺しに掛かるかもしれない。


「そもそも何故自分で洗わなければならないのかしら? 魔法を使えばいいじゃない」

「ダメだッ!洗車は人の手でやらないとッ!」

食べ物が無いならお菓子を食べればいいじゃない、という様に魔法によって洗車を行おうとするアリスをミキトは止める。

「な、なによ……」

ものすごい剣幕で止めに掛かるミキトに恐怖を覚え、手に持ったスポンジを地面に落とすアリスにミキトは追撃した。


「洗車というのは神聖な儀式みたいなもので必ず人の手で行わないといけない物なんだッ!そして車にはタイヤの隙間とか細かい部分の掃除もきっちり行わないとダメになってしまうんだ! ボディは自らの目を通して点検するんだッ! 傷なし、汚れなし、艶あり! ってな! 分かるか!? 洗車が終わった後の達成感! 高揚感! これらを感じられる……だから洗車は自らの手で行うんだッ!!」


「……」

早口で感情論の混じったミキトの長い自論をどうでもいいと聞き流すアリスは正論を述べる。

「どうでもいいけど、悠長にもしてられないわよ、この辺りはシストから離れているから夜になれば魔獣も出るわ」

「魔獣!? いるの!?」

これまた新発見、この世界の事を知らされていないミキトには魔獣のイメージが湧かなかったが多分、犬みたいなフォルムで眼は赤い白い毛並みをしているのかもしれない、まだ見ぬ魔獣に好奇心を寄せる。

「魔獣ってどんな奴!?」

「そうね……ここら辺だと中型が良い所じゃないかしら、大型は見られていないらしいわ」

「中型……」

中型と聞いて元世界で飼っていた柴犬が浮かぶ。名前はコリー、飼い始めて直ぐに母、父、弟に懐いたが俺にだけ懐かなかったクソ犬だ。

「中型か……なんか蹴りで倒せそう」

中型から柴犬を連想した俺は余裕をこいて言うがアリスは”バカじゃん?”とでも言いたそうな目で俺を見ている。

「ミキト……あなた……十メートルはある魔獣を蹴りで倒せるの?」

「え? 十メートル?」

中型からは連想できない大きさの魔獣であることをアリスから知らされ口が開く……え?中型ですよね?

「あなたは召喚士でしょう? あなた魔兵だったのかしら?」

召喚士とか魔兵とかジョブを聞いてくるけど俺のジョブは大学生だからな? 又は魔術師。

チート能力を持っているなら十メートルの柴犬なんて簡単に転がせるが生憎チート能力は貰ってない、できるのは日用品・車部品・車関連商品の召喚だけだから。

 うまく利用すれば十メートル級の柴犬ならば倒せそうな能力だが能力を持つ者によって可能性を奪われている。

「ちなみに一番小さいのは……?」

「あなた……どこから来たの……イセカイ……だったかしら、そこには学校は無いの?」

「……サーセン」

学校はあったが魔獣の事について教えてくれる学校なんて無かったぞ。

ミキトの知識の無さに呆れながら魔獣の大きさについて教えるアリス。

「まずは超極小型、全長一メートルぐらいね、小さい体の分動きが速いものが多いわ。次に極小型、二、三メートル程でスピードもそこそこパワーもそこそこね」

「へぇ~」

「次に小型、中型、大型、超大型という様に大きくなってくわ、大きくなればなるほどスピードは遅い者が多くなるけれどパワーはとても強いわ、勿論、魔力もね」


「なんか納豆の粒の大きさみたいだな」

「なっとう……?」

アリス先生のありがたい説明を聞いたが前半の超極小、極小からの中、大で完全に頭の中で魔獣が納豆に置き換わってしまった。


――「ミキトさんこれでいいですか?」

「おうっそれで大丈夫……おっふ」

長話をアリスとしている間にシーナは車の後部をスポンジで洗い終わらせていた。ミキトがちゃんと洗えているか確認の為にシーナの元に向かうと車の陰で隠れていたシーナの姿に息を漏らしてしまった。

「……」

ミキトは立ち止まり凝視する。車の後部はシーナによって磨かれていたが泡が多かったのか白い車体は白い泡によって覆われていた、そしてシーナの白いビキニも白い泡に覆われていた。くびれのある腰に垂れている泡、そこそこある胸の谷間に泡が挟まっている……

 エロい……これしか言えない。エロに関しては図書館にも匹敵するほどの知識を持ち合わせていたが、その知識量の多さに振り回され”エロい”この一言しか出なかった。



「ミキト……」

「ッ!」

またも殺気が背中を刺す、この殺気はさっきよりも鋭い……アリスさんだ。

よくもまあそんなに簡単に殺気が出せるね? 俺を憎んでんの?

気配に敏感になった俺は何事も様なすました顔でアリスに向き直る。

「なんだよ……」

「あなた、毎回シーナの胸見てるわよね……?」

「えっ///」


「……何のことだ?」

そんなにシーナの胸見てましたか? また俺何かやっちゃいました?

アリスにあらぬ疑いを掛けられ心臓の拍動が速くなるがミキトはポーカーフェイスでしらばっくれる。


”くそっ、なんだよ……絡んでくんなよ、もっとシーナの姿を堪能したいのに……”


ナイスなプロポーションのシーナからちんちくりんのアリスを見ると否が応でも胸を比較してしまう、更にアリスは泡を纏っていないためか魅力がない。いや、胸が無いからだ。


「ミキトさん……///恥ずかしいのであまり見ないでもらえますか……」

アリスに向いてシーナの表情は見えないが声から恥ずかしがっていることが分かる。

「ミキト、こっちを見なさい」

少しだけでも……と眼だけを頑張って動かすが見えない、アリスはミキトの眼がシーナに向くのに気づき自分を見るように言うが胸見るな、腰見るな、ではどこを見ればいいのか分からない。仕方ないのでミキトは眼線を落とさないようにアリスの顔を見つめる。


「ちょ、ちょっと……あまり見ないでくれるかしら///」

自分からこっちを見ろと言ったくせに今度は見ないでくれ……何なんだよ?

「はいはい……洗車、洗車」 

シーナの泡姿で満足のミキトはこれ以上お子様アリスに振り回されたくないとシーナ達の居る車体左側から反対に戻り洗車の続きをする事にした。


「バカ……」

アリスの小さい声はミキトの耳に届かなかった――



――「ちょっとミキト、この泡はどうしてこんなに泡立つの」

「は? 洗剤だからに決まってんだろ? これ、常識な」

相変わらずお嬢様特有の上から目線でよく泡立つ泡の詳細をミキトに聞いてくるアリスだったが、ミキトは運転席側のパワーウィンドウを磨きながら適当に煽り、答えてただ一点、洗車しているシーナを見つめる。

「邪魔すんな……今、洗車してるんだから(シーナが)」

アリスとは違い真面目に隅々までスポンジで車体を磨いている、こういう素朴なとこが良いんだよ。

車を磨くたびに揺れる胸を見ながら思う。


「……」

シーナを見る目が変態的なミキトをジト目で見るアリス、車の間で不思議なトライアングルが出来ていた。


「ねえ、なんでここに鏡が付いているの?」

「後ろが見れるようにだよ、これ、常識な? あと少し黙ってて下さる?」

何故なぜと子供のように聞いてくるアリスを軽くあしらってシーナの洗車姿に見入る。


「これいらないわよね?」

仕返しのつもりかアリスはあろう事かミラーを取ろうとし始める。

「おいッ止めろ、やめてくれッ!」

ミラーを動かしもぎ取ろうとするアリスに慌てて走り寄りアリスの細くて白い腕をつかむ。

「ちょっと……///」

ミラーを守るために慌てていたのでアリスの腕をつかむ手に力が入っていた、手のひらの感触では柔らかい肉が握られ日本刀を振る筋肉が付いているは思えなかった。

”そう言えばこいつが刀振るう所まだ一回も見てないな……”

振り返るとアリスに会って一階もアリスは刀を抜いていない、盗賊に襲われていた時だって抜いていなかった。

「アリス……あの刀は振ったことないのか?」

「何を言ってるのかしら?帯刀しているのに抜かないなんてありえないでしょう?」

これ常識な、という様にミキトに説明するアリスの顔はまだ少し赤い。


「ミキトさん? アリスさんに何してるんですか?」

忘れていたがミキトの左手はまだアリスの右手を後ろから掴んでいる状態で俺がアリスに迫っている形をとっていた、シーナにはそう見えているに違いない。


「助けてっシーナ! この男、変態よ」

「ミキトさんッ」

「チョイ……アノ……」

抑揚のない棒読みでシーナに助けを求めるアリスだがアリスの大根演技に騙されシーナは助けに入る。

確かに”男子大学生が中学生に白スク水着せて洗車”というような状況だが違うんだ……俺はロリよりもお姉さんが好きなんだ――


ミキトの心の声は勿論、届かずシーナに突き飛ばされ背中から川へダイブした。


「くそ痛い……」

浅い川はミキトの衝撃を抑えられずミキトは背中にダメージをもろに喰らう。


「もうダメだ……」

眼を閉じ、ミキトの意識は落ちてゆく――



――「いや、ちょっと待ってっ! 何で助けてくれないのっ!?」

川の中で仰向けになって倒れている……ならば助けるものじゃないの?

シーナとアリスは邪魔者ミキトが居なくなったと二人でおしゃべりしながら車を洗っている。


ミキトの目の前に広がる景色は白い水着の美少女二人が泡だらけになって笑っている天国だった。

「車がうらやましい……」

美少女二人に洗ってもらっている車のフロントは満足気だった。


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