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第20話 セグウェイ

9/18 修正

――「ほんっとうにアイツは……」

アリスは屋敷のバスルームで銀色に輝く髪を洗いながら呟く。

「アリスさん、タオル置いときますね」

バスルームの外からシーナが声をかけてくる。

「ありがと」

窓ガラス壊すミキトに比べシーナの働きぶりはとてもよかった。掃除は隅まで埃もなく的確にそれでいて効率的にこなしていた。

「あなたはあの男の恋人?」

「え?///違いますよ///」

「そうなの」

男女の二人組で一緒に行動しているから恋人かと勘違いしてしまう。

「仲間……かしら?」

「仲間……そうです、仲間です!恋人じゃありません!」

「二人で旅をしているのかしら?」

「旅ってほどじゃないんですがそんな感じです」

「そう」

(仲間ね……)


アリスは広いバスルームで体を洗い流しながら心の中で呟いた、思えば昔からこの広い屋敷に両親は居らず、居たのは家庭教師一人だけだった。毎日のように課される課題に剣の稽古、幼少期の思い出の中に同世代の友達と呼べるものは居らずましてや仲間なんていなかった。家庭教師は勉強と剣の稽古が終わるとすぐに帰ってしまい小さなアリスは大きな広い屋敷に一人きりだった。時々帰ってくる両親とも遊んだ記憶はない、稽古の時の厳しい顔の両親しか覚えていなかった。


(まあ両親はもう居ないし必要ないけど)

悲しい笑いを口に浮かべながらアリスはバスルームを後にした――



――「おお~これが異世界!イメージどうりだ!」

車を運転していたことで景色を堪能できなかったが今は車を道に停め異世界の街並みを一つ一つ見ることができる。木造の家がが建ち並んで空に電線はなく広々としていた。残念な事は中世ヨーロッパの街並みの中に胴着を着た人間がいるのが景観を損ねている事だ。

「猫耳!犬耳!ウサギ耳!!獣人だ!」

どこぞの獣人もどきとは違う、本物の獣耳を持った獣人だ。

「獣耳があるだけですごくかわいく見える……」

獣耳の魅力に取りつかれ道行く人を観察するが彼方もこっちを見ている。

町中に見たことのない鉄の塊があれば誰だって見てしまう。そんなことは気にせずにミキトは邪魔にならないよう車を道の端に停めて車から降りる。


「セグウェイになれ!」

ミキトは車から降り強く念じると車は小さく縮小し始める。車は数秒で小さなタイヤ二輪と中心にハンドルの付いているセグウェイになった。

「セグウェイもいけるんだな」

万能の能力で車以外の乗り物にも変形できると能力を貰う時にカタログに書いてあったがまさかセグウェイにもなれるなんて……


ミキトは車が停めてあった所にポツンといるセグウェイに乗ってハンドルを握る。

「おおっ!何か楽しい!!」

まだ操縦していないが乗っているだけでも楽しい。

「重心を前に……」

ゆっくりと重心を前に傾けセグウェイを前進させる。セグウェイはスムーズに動いた。

「操作も簡単だしコンパクト、これはすごい!」

周りの視線を集めていることに気づかずミキトは一人ではしゃぐ。

「このままシストの町を観光だー」

ミキトはセグウェイでシストの町中を走り出した。



――「あなたは何処から来たの?」

「クルックスです」

「クルックス?聞いたことないわね」

アリスとシーナはベランダで紅茶を飲みながらお菓子をついばんでいる。

「そうですか……」

実際知らない人の方が多いはずだ、他の種族との交流も少ないこともあり知名度は低いのだろう。

「あの男もクルックスから?」

「いえ、ミキトさんはイセカイって所から来たらしいです」

「聞いたことないわね……」

二人の出身地が分からず話を広げられそうにないので他の話をする。

「この紅茶初めて淹れたんだけど、どうかしら……?」

同世代の女の子とティータイムは初めてで思うように会話ができない。

「美味しいです!初めて飲みました!」

「そう、良かったわ」

内心シーナの反応に喜びを感じながらも表面に出さないようにする。

「クルックスの事を聞かせてもらえるかしら?」

素直なシーナに少しだけ心を開きクルックスについて尋ねる。

「いいですよ、クルックスは林の中に在るんですが――」 

シーナとアリスのティータイムは長い時間続いた。



――「しまった、お金を持っていなかった」

高級感あふれる店頭の前で立ち尽くすミキト。

今のミキトの服装は黒い作務衣で元の服はアリスの屋敷にある。金貨とハンドスピナー、パチンコ玉も置いてきてしまった。

「俺にはこいつしかいないのか」

今はセグウェイになっている車だけがミキトの持ち物だ。車のキーはいつも肌身離さず持つことが習慣になっていて良かった。

「本当に町の観光しかできない……」

アリスに送るお詫びの品を買うお金がない事に頭を抱えていると一人の女性が声をかけてきた。

「あなたのそれは魔装兵器の一種ですか?」

「?違います車です」

反射的に訂正して振り向くとそこには綺麗な金髪の中からピョコッと出ている狐耳を生やした女性が立っていた。


ドストライクだ、長くてストレートの金髪、狐耳、美人でおまけに目に見えないフェロモンを漂わせている。


「あっこれは車って言って人を運ぶための物です」

若干どもりながら車の説明を簡単に狐耳の女性に説明する。

「へぇ~人を運ぶものなんだ、すごく小さいわね。貴方もしかしてグラニアスの人?」

「グラニアス? 違います」

何処かの国だろうか分からなかったが否定する。


「へぇ~」

狐耳の女性は興味深そうにセグウェイを見ている。

「乗せてもらえるかしら?」

「えーと」

大丈夫だと思うが少しだけ心配だ、


「銀貨2枚!どう?」

「はい、どうぞ」

そんなミキトの心境を読み取ったのか狐耳の女性はミキトに提案し無理やり手に銀貨を握らせて来る。女性の柔らかい手の感触と香りにやられミキトは二つ返事で承諾した。

「ここに足を乗せてハンドルで動かすの?」

「ハンドルは方向転換の時だけで前進するには重心を前に傾ければ前に動きます。」

「重心を前に……」

ミキトがセグウェイの操縦説明をセグウェイの前でしていると狐耳の女性は重心を前に傾けミキトに突っ込んだ。

「ごはっ」

強い衝撃ではなかったがいきなり突っ込まれたことでミキトは地面に尻餅をついた。


(セグウェイに轢かれてしまった……)

尻餅をつきながらそんなことを考えていると狐耳の女性がセグウェイから降りて駆けつけてきた。

「すみませんっ大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですよ、これくらい」

女性に心配されながら立ち上がる。

「すみません、本当に……」

「大丈夫ですよ、それよりあそこの広場で乗ってみたらどうですか?」

そう言いながらミキトは近くの広場を指さす。



――「動きが凄いスムーズ、それに操縦が簡単……」

セグウェイを広場で走らせながら狐耳の女性は呟く。それをミキトは広場に設置されていたベンチに腰掛けて見ている。

女性はハンドルを切りミキトの元へと向かいセグウェイをミキトの元へ帰す。

「ありがとうございました、とても参考になりました」

「どういたしまして」

何の参考になったのか分からなかったがミキトは女性からお礼の銀貨2枚を貰い女性と別れた。


「美人だったなぁ」

名前を聞きたかったがそんな勇気は無くお礼を貰った後すぐに別れてしまった。

「まあ、またどっかで会うだろ」

異世界に来て初めて自分で稼いだお金を握りミキトはアリスへのお詫びの品をセグウェイに乗って探しに出た。


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