第10話 ハンドスピナー
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「お墓か……」
最近、幽霊と遭遇する確率が高くなっている気がするのであまり入りたくない。怖いし。
「本当はここから案内するつもりだったのでちょうど良かったです」
ヘルメットを脱ぎながらシーナは小さな声で答える。
(行きたくない)
頭の中で逃げるのコマンドを選択したが逃げられない。この機械壊れてんじゃないの?
原付のキーを回してエンジンを止める。
「う~ん、い、行こうか(行きたくない)」
「こっちです。少し歩いた先に入口があります」
シーナは俺の先に立ち案内をする。
「お菓子食べない?」
「お菓子?」
「入る前にもう少しお話でもしない?」
いきなりこんなことを提案したのは墓に行くのが怖かったからではない、シーナと親睦を深めたかったのだ。
シーナに子供達にあげたお菓子の残りを手渡す。
「これがお菓子?王都の物ですか?」
「王都?違うよ、俺の国のお菓子だよ」
「おもしろいですね……」
シーナは包装されたままのお菓子を口に含んだ。
「待って待って、袋を破いて中の物を食べるんだよ」
「このまま食べるんじゃないんですか?」
シーナは口に含んだ包装されたお菓子を取り出した。シーナの口から取り出され包装されたままのお菓子はシーナの唾液によって艶めかしい包装がされていた。
(うわっ汚ねぇ)
女の子の唾液を見て興奮するのはよほどの変態でないとできない。
シーナは自分の唾液によってコーティングされたお菓子の袋を破りお菓子を取り出し口に入れた。
「美味しい!なにこれ!?」
初めての味に驚いたのかさっきまでの小さい声とは比べ物にならないほど大きな声を出して口の中のお菓子を堪能していた。
「喜んでもらえてよかった」
「///うぅ、はい、///」
恥ずかしながらも普通の声量で答えてくれた事から少し距離が縮まった気がした。
「はい、ウェットティッシュ。これで手を拭けよ」
俺はウェットティシュを右手に召喚した。
「召喚魔法ですか!?すごい、初めて見ました。でも召喚魔法って呪文を唱えて行なうとか召喚獣の召喚
じゃないんですか?」
「えっと、ちょっと他の召喚魔法とは違うんだよ」
日用品を召喚できる召喚魔法です。召喚獣の召喚なんて今の俺にとってはチート能力だ。
「シーナはヤンの娘なんだよね?何で昨日家にいなかったの?」
夕食時にシーナの姿が見えなかったのを思い出し面倒な追及が来る前にシーナに質問した。ミキトの先制攻撃!
「いえ、家にいました……」
「え!? いたの!? 」
気づかないうちに女の子と一つ屋根の下だったのか!?ヤンはなぜ教えてくれなかったんだ?俺を独り占めしたかったのかな?
「昨日の夕食の時とか家の中で会わなかったよね?」
まあ、夕食を食べてすぐに寝室に行って寝たから会うのは難しかったか。
「会いました……」
「え?何だって?」
確かにシーナの小さな声で「会いました……」って聞こえたぞ!俺の聴力は10km先の女性のブラジャーのホックを締める音が分かるんだ!
「~///早く行きましょう!」
誤魔化すように墓へと歩いていくシーナ、俺は行きたくないと思いつつもシーナの後についていった――
――「本当にここは墓?」
俺が想像していた墓は薄暗く不気味でネズミが這い、少し肌寒そうな空間だったが今いるこの空間は俺の想像を超えている。
床、壁は大理石のような石畳で壁には松明で明かりが灯されていて神殿と呼んでも違和感を感じさせないものだった。
何で外は木造なんだよ。
「お墓とかはどこにあるの?」
辺りを見渡すが白い高級感の溢れる大理石しか見えない。この世界では墓は大理石の床の下に埋葬するのかな?つまり俺が踏んでいるこの大理石の下には……
「ここは先祖の玄関です」
「先祖の玄関?」
「墓は地下と上階にあります。上階は身分の高い者や私達の先祖様が眠っている寝室でもあるんです。地下は村人用です」
「すごいヒエラルキーだ……」
まさか墓にまで階級があるとは驚いた。というか寝室って先祖様は皆で川の字になって寝ているのかな?
「もしも、えっと、あなたの様な外部の者がこの村で死んでしまったら外に埋められます」
薄情だな。
「俺の名前覚えてる?尾形幹斗、牢屋で自己紹介したよね?」
囚人番号1111番!好きなものは車です!!
「お、覚えてます、オガタさん 」
覚えてなかったな。
「ミキトって呼んでれ」
「分かりました、ミキトさん」
ミキトさん♡って聞こえた!最高!
「では行きましょう」
「地下の方?」
「いえ、あまり入ることは出来ませんが今回だけ特別に上階の先祖様の寝室に行けます。」
「あ、ありがとう」
先祖様とかに挨拶したくなかったが行くしかないか、俺達は部屋の右隅にある階段で上階へ上がっていった――
――長い、階段上がるのキツイ、一体何階まで上ったのだろうか足が痛い。
「この二階上が先祖様の寝室になります。その前に次の階では先祖様の武器が保管されています」
「へ~武器か~」
墓に興味が無く早く帰りたかったミキトは異世界の武器を見ることができると少し期待する。
横は約四十メートル、縦、約五十メートルの縦に長い長方形の部屋を歩くと次の階に行く階段の前に屈強な男達が立っていてその中に俺を牢屋に連行した男もいた。
あれ?俺を牢屋にぶち込んで強く縄を縛ってくれた人もいる!顔見知り!
「上の階に行きたいのですがよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
すごい、簡単に通してくれた。
村長の娘という事で顔パスで次の階へ上る階段に通してくれた。
「先祖様はこの上の階にある武器を使いこなしていたようです、私達には扱えませんが」
「魔力が足りないとか?」
「私達は魔法を使えないんです」
「そうなんだ……」
階段を上がっている時シーナが簡単に先祖様の武器の事について話してくれた。大理石でできた硬い階段を上がり先祖様の武器が保管してある階に着く。
そこには大小の見慣れないデザインの武器が飾られていた。
「へ~これがこの世界の武器か」
「そうですが?」
少し不思議そうにシーナは俺の事を見る。
「おおっおおおお!!」
やばい、予想以上にここ面白い。男は車と武器に弱いんだ。あと女にも。
先祖様の武器を1つ1つ見ているとその中で見慣れたデザインの武器を見つけた。それは元世界で最近流行っていた……
「ハンドスピナーじゃん!!」
思わず声を上げてしまう。
そう、その武器の形状は完全にハンドスピナーだったのだ。三つ葉型のプレートに付いている三つの重り、どこからどう見てもハンドスピナーである。
「はんどすぴなー?」
「いや、俺の来た所にあった武器?に似ているんだよ」
「もしかしたら先祖様はミキトさんの国から来たのかもしれませんね」
「そうかも……な」
そんなわけがない、もし俺の国から来たという事はそいつは異世界転生者だ、異世界転生者はその異世界に一人だけと相場は決まっている。
(でもこれはどう見てもハンドスピナーだ)
目の前の武器を見て確信する。
「あの~もう行きませんか?」
「ああ、行くか」
小さな棘が指に刺さって気になるような感覚を押し殺してミキトは上の階に進んだ――
――「ここが御先祖様の寝室です。中には入れませんが」
「入れないのかよ」
ここまで上がった意味は?まあ武器の保管室があったしいいか。
目の前には木製ではない石でできた何も彫られていない扉があった、その扉は見ただけで重いと分かる質感を醸し出している。そして不思議な事にその扉にはドアノブも鍵穴も無かった。扉の前にはこれも石膏で象られた屈強な男の像が番をするように立っていてそれ以外は何もない大理石が敷き詰められた広い空間しか存在しなかった。
「下りましょう」
「そうだな」
俺達はご先祖様の寝室を後にして下へと降りた――
――「やっと玄関か、長い」
上るのもきついが下るのもきつい、お墓参り大変そうだ。ミキトがクルックスのお墓参り事情について考察しているとシーナから帰宅する事を告げられる。
「じゃあ帰りましょうか」
「え?クルックスの案内これで終わり!?」
クルックスの観光スポットって墓しかないんですか!?
「もう外は暗くなり始めている頃ですし明日も案内します」
やった、明日もデート(違う)できる。昼過ぎから待ち合わせして村の子供に絡まれて墓の長い階段を上り下りした事で時間も気力も使い果たしたのでちょうど良いかもしれない、村の案内は明日に持ち越して帰ることにした。
「それならば仕方ない、帰るか」
俺達の愛の巣へ!(親父付き)
「もう夕方か」
先祖の玄関からでるとシーナの言う通り空は水色から綺麗なオレンジになっていた。
「? 人影?」
人影が墓の建物の影に見えたような気がした。やっぱり最近幽霊に遭遇する確率が高くなっているのか?
「どうしました?」
「なんでもない。早く帰ろう」
オバケだったら嫌なので早く帰ることにした。勿論シーナが俺の原付に乗ることはなかった。




