第9話 原付とフルフェイス
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「名前は?」
「カークル・シーナ……」
「いい名前だね」
正直、変な名前だなと思ったがお世辞を言っておく。そうなるとカークル・ヤンも変な名前だな。
「シーナ?って呼んでいいかな?シーナがクルックスを案内してくれるのかな?」
「あっ……はい、そうです」
何だろう牢屋で会った時とは違ってオドオドしている。獣が牢から出てきて怖がっているのかな?
「……」
「……」
お互い何もしゃべらなくなり気まずい雰囲気が漂い始めシーナはそわそわと指遊びをし始めた。
「バイクに乗る?」
女の子を落とすときにはカッコいい車かバイクを持っていることが必要条件だ。指遊びよりも楽しいぞ?
「これがバイク? ですか?」
「そう、これがバイク。馬車みたいなものさ。取りあえずは……来い! ヘルメット!」
本当は愛車のグロリアを紹介したかったが今はバイクと化している愛車を簡単に説明し、白いフルフェイスのヘルメットを右手に召喚する。
「このヘルメットを被って」
「猿轡ですか!?」
「違います」
おいおい、どこでそんな単語を知ったんだ? なんか少し口元緩んでない?
差し出したフルフェイスのヘルメットをみてシーナは何か勘違いしたようだ。
「これは頭を守るためのアーマーみたいなものだよ」
「あ///そうですよね……知っていますよ///」
頬を染め恥ずかしい気持ちを押し殺すためか知ったかぶりをする。かわいい。
「これでいいんですか?」
白いフルフェイスのヘルメットを被り直立姿勢のまま次の指示を待つ姿はアホかわいかった。
「俺の後ろに乗って腰に手を回してくれ」
「え……わ、わかりました」
男性の身体と密着することに抵抗がある為か拒む様子が見られたが従順に俺の指示を聞いた。
(計画どうり)
悪い顔をして暗黒微笑を浮かべる。ククク、計画どうり、計画どうりだよSお前は俺の計画に嵌ったんだ。
きっと背中に当たる感触は柔らかく、暖かで豊満に違いない。
「あの……やっぱり走ります!」
「ファ!?」
驚きのあまり声が裏返ってしまった。
おかしい、どこで計画がズレたんだ・・・?
「あの高い建物見えますよね!?と、とりあえずそこで集合で!!」
公園から右手に見える村で一番高い建物を指さしシーナはヘルメットを被ったまま走って行ってしまった。
ヘ、ヘルメットドロボー!僕のヘルメット返せ!!
ここで待ち合わせしたのになぜまた新しい待ち合わせ場所で待ち合わせないといけないんだ?焦らしプレイか。
「まあ、バイクで行けばすぐだな」
ヴォォォオオンッ!!
アクセルを捻りシーナを追いかけるがシーナの足はとても速い。もう姿が見えなくなっている。
獣人もどきの身体能力の高さはさっき追われた子供達で実感していたがやはりすごい。
公園からすぐの道に入り指定された建物へと向かう。すぐに道は商店街に入った為、村人が多くなりバイクでの通行は困難になりバイクから降りた。
「仕方ない、原付にしよう。原動機付自転車になれ!」
強く念じると1000ccあったバイクが更に縮み50ccほどの軽い原付になった。
このぐらいの重量であれば押して運ぶのに苦労しないだろう。
「ここは商店街かな?」
原付を押しながら商店街に並ぶ商店の商品を見る。商店街には山菜や果物を売っている店や桶や椅子、机などが店先に置いてある店があり異世界の家具屋であろうものが見えた。他にも賭博でもしているのか地面に着くほど長い暖簾の付いた店の中から歓声、叫喚、怒号が飛び出してきた。
「意外と文明は発達しているのか?」
電灯や電気を使用する物は見当たらないため文化レベルは低いと考えていたがそうでもないことが商店街を歩くと分かる。
皆ラフな恰好の人が多く男性は上半身が裸でズボンはダボ着いた物を着ている事が多く皆同じように見えるが女性は男性とは違いズボンに青、白、黒などの様々の色のさらしを背中で可愛く結んでへその見えるファッションが多かった。
他にもブレスレットなどの装飾品を身に着けてオシャレしていることがわかる、このファッション意識の差は男性と女性の考えの差とも言えるだろう。
「魔法を使って狩りとかはしないのかな?」
商店街の道には電灯のような物はなく電柱、電線も勿論ない。魔法については分からないがこの村に入って一度も魔法を使っている村人を見ていない。
「魔術師だ!」
商店街を観まわしていると前方から子供たちの集団が襲撃してきた。
あ!クルックスの子供たちが勝負を仕掛けてきた!
ミキトはどうする?
戦わない⇦
原付に乗って逃げる
逃げる
ダメだ!勝てない!
俺は原付に乗って逃げる選択をした、が……ダメだ!回り込まれた!囲まれた! 逃げられない。
ミキトは目の前が真っ暗になった……
「石鹸出して!」
「きんとれ?道具出して!」
「ヘアブラシ!」
「おっぱい鍛える道具ほしい!」
子供達は様々な要望を押し付けて俺を揺すってくる。
おっぱいを鍛える道具?そんなのいらないだろ男は成長すればおっぱいから大胸筋へと進化する。
「はいは~い、男の子達にはこれをあげよう」
力の抜けた低い声で男の子達に接する。
「来い!ツッパリ棒! 来いツッパリ棒!」
右手にツッパリ棒が二本召喚され二人しかいない男の子達に手渡す。
「それで遊んでこい」
早くどっか行け。
「はい!女の子達にはこれをプレゼント!!」
男の子達に接した態度とは変わり明るい声で女の子達には接する。
「ヘアブラシ!×13」
十三回ヘアブラシの召喚を念じるとヘアブラシが右手から溢れるように出てくる。
俺の右手どうなっちゃったの!?
「ありがとー!」
「出てきたー!」
「召喚能力初めて見た!」
ヘアブラシを嬉しそうに手に取りお礼を言ってくる。かわいいやつらめ
「他には!?」
「もっと召喚!」
子供達は俺から全てをカツアゲする気だ。
子供達は服の裾を掴み放そうとしない。
「ごめんね~ちょっと用事があるからここら辺で許してくれるかな~」
お金は一銭も持っていません!本当です!
――!お菓子で許してもらえるかな?
名案だ、子供はお菓子に弱い。
「お菓子があるんだけど食べる?」
原付のシートを上げ中に入っていた印なしのビニール袋に入ったお菓子を子供たちに手渡す。
「?」
「なにこれ?」
「もしかしてこれチョコじゃない!?」
様々な感想が子供達の中で行き交う。
「固い……」
「その包装されたやつはギザギザしている所から破って取り出して食べるんだよ」
包装されているお菓子をそのまま口に入れようとした子供達に教えてあげる。包装を破ってお菓子を取り出し子供達はお菓子を掌において観察するように見たり、お菓子を天に掲げている子もいる。
「おいしい!」
子供集団の中の一人がお菓子を食べそれに続き他の子達もお菓子を口にした。
「あまい!」
「うおおおお!」
「ヴぇぇええ……」
感情のこもった声が子供たちの口から出てくる。どうやら男の子の一人はハッカ飴を食べたのか複雑な表情をしている。
ごめんね、ワザと☆
「じゃあ、ごめんね~じゃあね~」
逃げるように原付に乗り商店街を抜ける。
商店街を抜けると待ち合わせに指定されたクルックスで一番高い建物はすぐ目の前にあった。
原付のアクセルを捻り少しだけスピードを出す。
「おっいたいた」
目的地に着いたらまたバイクに戻そうと考えている間に白いフルフェイスの女の子が道に立っていた。
何故であろう、すごい痴女に見える。薄いワンピースに完全にヘルメットで顔を覆い隠す姿はミスマッチであるがそのミスマッチが妖しい色を醸し出している。
フルフェイスで原付に乗っている男VSフルフェイス薄着女!ここに開幕!
「シーナ速いねすごいよ」
「……はい」
静かな返答、気難しい性格なんだろう時間をかけて仲良くなることにした。やっと村の案内をしてもらえる、商店街はもう見てしまったが。
「この高い建物は何なの?」
目の前にそびえ立つ待ち合わせに指定されたクルックスで一番高い建物について尋ねる。
「墓です……」
初めてのデート(違う)はお墓からスタートした。




