マネージメント。
市民ホールでのライブが一週間後に迫っている。
チケットは、ほぼ完売。
座席があるので恭ちゃんも見に来れる。私はマネージメントのほうに専念するので、恭ちゃんと見れないが両親も、花江がいるので大丈夫だろう。
夜9時にコンビニにカンジくんが行った。
カンジくんが、買い物を終えて、駐車場に行こうとすると、ゴミ箱の前に、酔っぱらったサラリーマンがいた。駐車場には、何人かの若者がたむろしていた。
「おまえ、イケメンバンドの奴じゃねえの」
酔っぱらったサラリーマンが、カンジくんに気づいた。
「けっ。イケメンとか、言われて調子のってんじゃねーぞ。どーせ顔だけで、世の中、渡ってきたんだろ。女にちやほやされてよ。ボーカルのパスタ屋の店長は、年上の奥さんに稼いでもらってるし、湯川さんの息子はタトゥーいれて、どうしようもないのに、可愛い奥さんが追っかけてくるしよ。アンタだって、放浪人のくせに、ちゃっかり、大工の婿になってよ。いいよなー。顔がよければ生活に困らなくてさ。たいして、努力もしないで、どいつも、こいつも、顔で美人の奥さん捕まえてよ。オレなんか、どんだけ勉強したと思ってるだ?背も高くないし、顔もよくないし、努力しないとモテないから、一生懸命勉強して、大学入って、いい会社入ったのによ。やっと結婚できたと思ったら、女房は浮気するし、やってらんないよ。お前らみたいなクズがいるから、オレみたいな真面目に働いてるやつはバカをみるんだよ。顔がよくても、バカばっかりじゃねーか。あんな、ガチャガチャした音楽どこが、いんだよ」
酔っぱらったサラリーマンは、延々とカンジくんに、クドクド言った。
「お前らみたいなクズは、この町から出ていけー」
そう言ってサラリーマンは、持っていた缶ビールをカンジくんに、かけた。
「なに、するんですか」
カンジくんは、ムッとした。
「クズクズクズ。なにがイケメンだ。クソみてえな音楽を演奏して笑わせるな。雑音。客は、お前らの顔を見に来てるだけで、音楽なんか聴いてねーから。やめろ。やめろ。ライブなんて。あんなクソ音楽で、金とるなんて、詐偽だ。詐偽野郎ーー」
駐車場の若者たちは、カンジくんが酔っぱらいに絡まれてるのを見てた。
夜10時過ぎに、警察から私の携帯に電話があった。
カンジくんが酔っぱらいのサラリーマンを殴ったそうだ。
コンビニの店員が通報したらしい。
町の警察署に、私とリョウタは行った。
「お電話頂いた笹原です。坂上カンジの所属の事務所の代表をしております」
受付にいた署員は、ああ。みたいな顔をした。
「幸い相手に怪我は、なかったんですよ。傷害罪には、ならなかったです。駐車場で様子を見てた若者達が、証言しまして相手のサラリーマンのほうが、大分酔っぱらったいたみたいで坂上さんにビールをかけたみたいです。」
担当した警察の人は、私に説明した。
「京子さん。リョウタさん。迷惑かけて、すいませんでした」
カンジくんは私達を見ると、頭を下げて謝った。
カンジくんは、松子さんが妊娠してるので心配かけたくなく、私の名前を言ったようだ。
明日、相手側に即謝りに行こう。
朝に母親に相手のことを聞いた。
「館川さんの息子さんじゃないかしら。最近、離婚したはずよ。なんでも奥さんが若い男と、浮気して出ていったらしいわよ。」
館川譲。35歳。大手企業勤務。
私はアサイチで、菓子折りと示談金を持って、相手側の家に行った。
「朝早くに申し訳ございません。私、Avidの笹原と申します。昨日は、わが社所属の坂上が、館川さまに大変無礼なことをしまして、申し訳ございませんでした」
私は出てきた館川譲さんと、館川譲さんの母親に、深々と頭を下げ平謝りをした。
「いんですよ。聞けば、うちの息子から酔っぱらって、絡んで行ったみたいじゃないですか。いい年して、酔っぱらって、息巻いてるなんて恥ずかしい。離婚してから、若いイケメンみると文句つけてるんですよ。離婚した嫁が、イケメンを見つけて、出ていきましてね。ほんと恥ずかしい」
館川譲さんの母親は言った。
大手の会社なら、酔っぱらっての事件では館川譲さんも、大事にしたくないみたいだったので、示談で済んだ。
館川譲さんは、身長は165センチくらいで小太りだった。
県内の国立大をでて、今の大手企業に就職したみたいだ。
見た目がダメなら、職業でモテようとしたのだろうか。
確かに、努力はしたのかもしれない。
でも人を僻んだら、そこで努力は無駄になるんではないだろうか。
自分だけが、努力したわけじゃない。
自分だけが、苦労したわけじゃない。
誰もが、易々と人生を歩んで来た訳じゃない。
こんなに苦労したからとアピールしても、それが偉い訳じゃない。
人を僻んだら、いつまでも、カッコよくはなれないだろう。
市民ホールでのライブは、無事にやれることになった。
「オレ、オレ達の音楽じゃなくて客は顔を見に来てるって言われて、カッとしてしまって」
カンジくんは、リハーサルをしてるときにメンバーに言った。
「別に顔を見に来たとしても、いいよ。そこで、オレ達の音楽を聴いてもらって、認めさせようぜ」
リョウタは、言った。




