悲恋。
日曜日にリョウタが、真吾くんと、駿くんと、カンジくんと飲みに行った。
朝、カンジくんが借りてる一軒屋に松子さんがいた。
「で、やったの?」
真吾くんが単刀直入にカンジくんに聞いた。
「日本横断してて久しく、やってなかったんで、つい。」
つい?つい、やってしまったというの?!カンジくん、それはないよ。
「ああ。そういう時あるよな」
真吾くんが言った。真吾くんも、そういうこともあるのかよ。
「酔ったいきおいも、あるしな」
リョウタが言った。リョウタも酔ったいきおいで、あるの?!
「独身だったら誘われたら、やってしまうときもある」
駿くんが言った。駿くんまで?!
男って、いきおいで簡単にエッチするんですか。
でも。男は、それで済むかもしれないが松子さんは、憧れの俳優みたいなイケメンと、一夜を共にしてカンジくんを忘れないような気がする。それどころか、もう夢中になってるんじゃないだろうか。
罪だよな。
カンジくんは、その後、松子さんと、どうするつもりなんだろう。
「私から誘ったんです。カンジくんは悪くないです。」
ひえー。やばい。松子さん、一途?こりゃ、かなり本気だ。
松子さんが、会社帰りに店に来て言った。
「私が、無理矢理誘ったんです」
松子さんは、断固カンジくんをかばった。
もう、こうなれば何を言っても耳に入らないだろう。
私達の心配をよそに、松子さんは休みの日や仕事帰りにカンジくんの家にお弁当を作って持って行ってるみたいだ。
カンジくんが、ボロの一軒屋ではコタツだけでは寒いだろうと、ストーブを持っていったり毛布を持っていったり、甲斐甲斐しく、カンジくんの世話をしてるみたいである。
松子さん、大丈夫だろうか。
哀しい恋にならないと、いいのだが。
なぜならカンジくんは、この町に、ずっといるわけではない。
いずれ日本横断の旅に、また行ってしまうかもしれない。
日本横断の旅が終わったら東京に戻るだろう。
いつか別れのくる恋だから。
「松子ちゃん。いつも、ありがとう」
カンジくんが家に来ていた松子さんに言った。
「お礼なんていいの。私が、勝手に来てるんだから。でも、迷惑だったら言ってね」
松子さん、いかにも尽くす女性である。
「オレ、暖かくなったら、旅を続けようと思う」
やはりカンジくんは、また日本横断の旅に出るらしい。
「うん。カンジくん、ありがとう」
松子さんのありがとうは、一時の恋でも、憧れのイケメンと過ごせて幸せだったという、ありがとうかもしれない。
もうすぐ4月になる日に、カンジくんは、またバイクで旅に出た。
「色々ありがとうございました」
駿くん家族にカンジくんは頭を下げた。
「気をつけて行くんだぞ。また、いつでも戻ってこいよ」
駿くんのお父さんが言った。
「カンジくん、気をつけてね。これサンドイッチ、途中で食べてね」
私は、カンジくんに、サンドイッチを渡した。
「京子さん、ありがとうございます。」
「カンジくん、いつでも戻ってきていいのよ」
花江が言った。
「ありがとうございます。花江さん」
リョウタも、真吾くんも、カンジくんに声をかけた。
「じゃあ。行きます。」
そう言って、カンジくんは、また、旅に行ってしまった。
松子さんは見送りに来なかった。
見送ると、悲しくなるので、カンジくんをひき止めてしまうかもしれないので、見送らない。
ひき止めて、カンジくんを困らせたくないそうだ。
自由人を好きになってしまった悲哀である。
でも松子さんは、後悔しないだろう。
妥協をしない本当に好きな人と、過ごしたんだから。
一生、忘れない恋になったに違いない。




