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37 裏スキル

「妾を呼び出したのは汝か?」


「は、はいそうです」


 妖狐は魔法陣の中央から微動だにせずに皆月さんに問いかける。


「汝、妾との契約を望む者か?」


「はい」


「なるほど、二人共勇者であるのか。妾が呼び出されるのも得心がいく」


 妖狐は次いで、皆月さんを眺める僕を一瞥する。


「そこの小僧、これは妾と小娘の儀式じゃ。手を出すではないぞ」


 鑑定系のスキルを会得しているのか、僕らの正体が一瞬にして看破される。

 レベル73なことだけはある。

 妖狐は視線を正面に戻し皆月さんと相対する。

 今までの余裕ぶった表情を神妙なものへと変え、口を開く。


「それでは、小娘。形骸的な会話もここまでじゃ。ここから先は――」


 瞬間、妖狐の全身が膨れ上がり巨大な業火を纏う狐へと身を転じた。


「妾を眷属にするに足る者か証明してみせよ!」


 禍々しい三白眼を見開いて雄叫びを上げた。

 三半規管が狂いそうになるも、皆月さんは懸命に踏みとどまる。

 妖狐は、その巨躯を麻痺している皆月さんめがけて疾駆する。

 しかし同時に僕も駆け出していた。


「小僧! 貴様、手出しは無用と言った筈――」 


「勝負に卑怯も何もないよ。あるのはただ結果だけだ。『影縛り【裏】』カース・バインド・リバース!」


 俄かに魔法陣が前方に出現し、漆黒の魔手が鎖へ変質し妖狐を襲撃する。

 巨躯故に躱しきれなかった妖狐は容易に束縛魔法の虜となる。


「じゃが、こんなもの力ずくで……!」


「無駄だよ」


 妖狐が鎖を解こうと力んだ瞬間、暗い炎が彼女の全身を包み込んだ。


「あ、ああぁぁぁああぁぁぁ!?」


 妖狐が眦を見開いて絶叫する。 


 『影縛り【裏】』カース・バインド・リバース、これは【断罪の扉】によって変質した『影縛り』(カース・バインド)の魔法。

 名称にある通り、通常の取得方法では手に入れることのできない『裏』のスキル。勇者の窓でも取得することはかなわない。

 威力は元のものとは比べ物にならないほど段違いで、弱点も克服している。


 例えば、元の『影縛り』(カース・バインド)は一度攻撃が加えられたり一分が経過すると解除されてしまうが、『裏』スキルに進化した今では僕が念じる限り場に有り続ける。更に凶悪性も進化しており、捕縛された者が抵抗すればするほどそのダメージが自分に返ってくるという鬼畜仕様も備えている。


 『裏』スキルはこの上なく強力だ。ユニークスキルひとつでここまで違うとは、姫が力に溺れて愚行に走ったのも頷ける。


「柊君、なんで不意打ちなんか……」


「正面からじゃ勝てないからだよ」


 卑怯千万極まりないことは理解している。分かっているうえでやっている。

 僕の扱う魔法には正面から敵をねじ伏せるだけの威力をもつものはない。だから慎太がいたんだ。彼がいない以上、取れる手段は限られていた。


「小僧、汚いとは思わんのか!?」


 シュンっと音をたて元の姿に戻った妖狐が、鎖に簀巻きにされながら恨めしげに睨んでくる。 


「思ってるよ。でも、なりふり構ってられるだけの余裕がないんだよ」


 僕は皆月さんに契約を急かす。

 このまま強制的に契約させてしまえばこちらのものだ。

 しかし、皆月さんは僕の申し出を拒絶した。


「柊君、余裕がないのは確かだけど……私は嫌だよ」


「どうして?」


「だって、これじゃ神官たちとやっていることが同じだよ」


 そうかもしれない。

 でも、僕らには他人を省みる余裕はない筈だ。


「きっと、話せば分かってくれるよ」


 皆月さんが妖狐と向き直る。

 一切の淀みのない、真摯な瞳だ。


「小娘……妾を懐柔するつもりか?」


「いえ、少しお話を聞いて頂きたいんです」


「ならば、これを外せ。それ相応の態度というものがあるであろ」   


 妖狐が己に巻き付く鎖に鬱陶しげな視線を向ける。

 皆月さんが僕に外すよう目配せを送ってきた。

 僕は首を横に振る。


「無理だよ」


「なんで?」


「僕らのためだ」


 この鎖を解いたら、きっと妖狐は即座に僕らを血祭りにあげるだろう。正面切っての戦闘において、彼我の実力には歴然とした隔たりがある。圧倒的劣勢に陥るのは必定。

 死なないためにも解くわけにはいかない。それに、だ。


「妖狐、いや冥爛。自分の立場を弁えろ。君を毒状態にして時間をかけて殺してやってもいいんだよ?」


 我ながら呆れるほどあくどい台詞だな。外道と言われても仕方ないだろう。

 皆月さんが責めるような視線を向けてくる。


「柊君、そんな言い方……!」


「まあ、小僧の言い分は正しいな。妾は囚われの身であるわけじゃし」


 思いもよらないところから援護射撃がとんできた。

 予想外の発言だが、妖狐は皆月さんの話を聞いてくれるということなのだろう。皆月さんも、これで相手に話が通じないことが分かるはずだ。


「さ、小娘。話してみい」


「はい」


 そうして皆月さんは語りだした。

 僕らが召喚されたこと。帝国に騙され奴隷になったこと。強制的に魔宮を探索させられ挙句にアイテムを徴収されたこと。そして、内部の反乱。姫が味方の人数を減らしたり慎太を陥れたことも。

 最後に、僕らが味方に裏切られたこと。


 皆月さんは簡潔に、滔々とこれらのことを聞かせていった。

 妖狐の表情が驚愕に満ちていくのが容易に見て取れた。

 話が終わると、妖狐は感嘆の息を吐きじっと皆月さんを見つめた。


「まさか、帝国がそこまで荒んでおったとは、お主らも災難じゃのう」


「私達、ここから脱獄したいんです。外で、自由に生きていきたいんです」


「して、どうやって?」


 皆月さんの願望に妖狐が難色を示す。

 ここは僕の出番だね。


「脱獄後は帝国に隣接する王国へ行こうと思う。王国なら勇者の扱いも丁寧だし、歓待されるだろう。それに、王国は帝国と敵対関係にあるから帝国の悪事を報告すれば、これ以上ない武器となる。幸い、ここに証拠もあるしね」


 首にかかっている『隷属の首輪』をこれみよがしに見せつける。

 因みに、情報源は全て『勇者の窓』のヘルプから。この世界におけるおおよその情勢は理解しているつもりだ。ただ、詳しい情報がないのが不安でもある。


「なるほど。ならばどうしてさっさと脱獄せんのじゃ?」


「力が足りないんだ」


 レベル40の聖呪は今なら裏スキルでなんとかなる。きっと慎太の閉じ込められてる扉も開くことができるだろう。脱獄の際には慎太を拾ってから進むことになる。でも、慎太が居ても敵わないかもしれない相手、帝国三将軍の存在は無視できない。

 もし仮に脱獄したとしても、城には三将軍が駐在しているためすぐに見つかってしまう。避けることはかなわない以上、彼らを退けるだけの力が必要だ。

 妖狐は暫く逡巡すると、皆月さんを見て破顔した。


「ふむ、あい分かった。ならば妾は主らの力になろう」


「ほ、本当ですか!?」


 皆月さんの喜びに妖狐が力強く頷く。


「小娘と契約しようぞ。勇者に呼び出されることなど滅多にないしの。と、その前にこの鎖を解いてくれんかのう?」


 舞い上がる皆月さんを尻目に妖狐が僕に問いかける。

 僕は笑顔で言葉を返した。


「嫌だ」


「小僧、空気の読めん奴じゃのう……」


 これが妖狐の罠である可能性も拭いきれないわけだし、鎖を外すわけにはいかなかった。

 まあ結局、妖狐は皆月さんと契約してくれたんだけどね。

 まさか和解できるなんて思いもよらなかった。 

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