36 契約召喚
僕は慎太と違って無力だ。
みんなを引っ張っていけるだけのカリスマやリーダーシップが欠如していて力もない。あるのはただ小賢しさだけが取り柄の頭。
みんなの不幸を見過ごすことしかできないで、脱獄を盾に罪の意識から逃げている臆病者だ。
17人の生徒の命と、一人の教師を死なせても尚、愚昧な思考は止まらない。
止めてはいけない。慎太はもういないから、皆月さんを守れるのは僕だけしかいないから。
僕は間違っていた。
あの時姫を殺しておくべきだった。
簡単に僕らを裏切るクラスメイトを信用するんじゃなかった。
慎太と皆月さんが正しかった。
僕が、甘かった。
だから、これからは改めよう。
これから出来ることに全力を尽くそう。
手段は厭わない。たった一人の僕の味方、皆月さんを守れるなら。
「皆月さん覚悟はいいね?」
陽光の射さない密室、篝火だけが二人の男女の陰影を投影する。
かつてここに禍々しい存在がいたことを如実に語る嫌悪感と緊張感が肌を粟立たせる。
眼前に屹立するは、決意を眼差しに秘めたうら若き少女。
篝火が揺れ影がぶれる中、彼女の覚悟は揺るぎない。
鋭利な視線は無言の承諾。
「四条君のためにも、退けないよ」
「そうか、それじゃあ始めようか」
一身に視線を浴びる僕は、懐から邪悪な気配を漂わせるモンスターの腕を取り出した。
ここは魔宮の第三層、ボスの間。姫達が第四層の攻略に向かう最中に行うのは、契約の儀式。
皆月さんに新たな力を施す行為だ。
姫によって断行される無謀な試みが人を殺す中、僕は白昼堂々と無視を決め込み彼女のために時間を使う。
外道と蔑むなら勝手にすればいい。僕はこの身を汚してでも彼女を守る、そう決めたから。
意志の弱いままでは駄目なんだ。
「柊君……?」
皆月さんが心配気な表情を浮かべている。
気をつかわせてしまったようだ。
「大丈夫だよ。それじゃあ、これ」
言って、第三層のボスの腕を放り投げた。皆月さんはそれを危なげなく受け取り魔法陣の中心に配置した。
「柊君、いくよ……!」
「ああ……」
皆月さんが召喚の詠唱を開始した。
魔法陣が起動し、仄かな残滓を虚空に散らす。
その最中で、僕は淡く照らされた自分の手を眺めた。
契約する際、召喚で呼び出されるモンスターにはいくつか選定基準が存在する。
触媒、環境、召喚者の技量。いずれも以前皆月さんが語っていたものだ。
しかし、これ以外にもうひとつ基準となるものがある。
『ユニークスキル』
姫が獲得した『災禍の種を撒く者』がそうだったように、特殊な効果を持つスキル。
ユニークスキルは持つだけで多大な力をもたらしてくれる。それは、ユニークスキル自体にもよるが、ステータスを底上げしたり新たなスキルを獲得できたりと様々だ。
そして、ユニークスキルの影響は周囲にも及ぶ。ただそこにあるだけで苛烈な存在感を撒き散らすのだ。
ユニークスキルが召喚の鍵を握るのもそれに端を発している。召喚されるモンスターの目印となるからだ。
現在ユニークスキルを獲得しているのは姫。それに加えてもうひとり。
僕だ。
慎太が連れ去られた夜、決意を固めた僕の目の前にそれは現れた。
『ユニークスキル【断罪の扉】を獲得しました』
僕の新しい力への鍵。
皆月さんを守るための布石。
姫と違うのは、僕のユニークスキルは単体で意味をもつものではないということだ。
【断罪の扉】は、先に述べた通り鍵に過ぎない。
これは、現在持つ限定的な魔法・スキルを強力無比なものへと進化させるユニークスキル。
正に現状にぴったりのスキルだ。
さらに、ユニークスキルがあるだけで皆月さんの召喚の精度が上昇する。環境はこれ以上ないほどに最高。どんな化け物が来てもおかしくはない。
蒼かった魔法陣が徐々に赤熱を帯びていく。
「ひ、柊君……!」
いつしか魔法陣は高速回転し、蒼の翳りも見せぬ真紅へと変貌していた。
室内に熱風が吹き荒れ、激しさが増していく。
「これは、とんでもないのを引当ててしまったようだね」
でも、それでこそ皆月さんの盾となる価値がある。
口許が僅かに吊り上がる。
「き、きゃあぁぁあぁぁ!」
皆月さんの悲鳴が呼び水だったかのように、魔法陣は熾烈さを加速させ閃光が迸る。
視界が真っ白に染まった。
しかし、次の瞬間。空白を切り裂いて現出したのは狐の耳と尾をもつ妙齢の美女だった。
屹立するだけで火の粉を散らす彼女は、紛れもなく妖狐だと認識できる。
「『鑑定【中】』」
僕はすぐさま鑑定を発動させる。
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冥爛 女 レベル73
妖狐
【紅蓮の女帝】
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まあ、なかなか使えそうな奴だね。
さっさと皆月さんと契約させてしまおう。
ようやく主人公がユニークスキルを獲得してくれました。
長かった……。でも、まだ覚醒には至りませんね。




