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八輪 花弁に滴る一滴一滴の雫

「飛鳥さんは何処?」

 紗織は走る。

 飛鳥を探す為に、飛鳥を助ける為に走る。

「うわああああああああああああああああ!!」

 飛鳥の悲鳴。

 紗織は悲鳴の方向に向かって走り出す。

 元気の裏に隠された涙を止めるために、

 普段は偽りの笑顔で仮面を被っても、仮面の中の顔は繊細で涙で濡れているのだから。

 だから、誰かがいないと自滅する。

「これは、酷いですね」

 飛鳥の悲鳴が響いた現場は残酷なほどの光景になっていた。

 飛鳥は巨大な深紅の炎の中で、その後ろ足には鬼、鬼神が立っており、飛鳥の腕に抱かれた右腕がない水無月奈緒が苦しんでいた。

「うわあああうわあああうわあああああああああああ!!」

 聞いてるだけで胸焼けしそうな辛い声。

 あの子は自分の所為だと思っているのでしょうね。と紗織は飛鳥を見て思う。

「うわああああああああああああああああ!!」

 飛鳥の炎は巨大ささらに増し、レイシアに伸びる。

「無駄よ」

 レイシアは詠唱を始めてレイシアの眼前に魔方陣が描かれていく。そして黒く大量の蝶が飛鳥の炎に向かっていくが、全ての蝶は炎に飲まれていく。

 そしてレイシアに覆い被さる。

 しかし、悲鳴はいつまで経っても聞こえてこない。

「それが貴女の本当の力」

 瞬間、レイシアの姿が消える。

「いけない!」

 紗織は弓の弦を引き氷の矢が生成される。

 紗織は自分の魔器に組み込まれてる紗織の魔器、雪羅専用の魔法を詠唱し飛鳥に向けて放つ。

 ──一矢の型 神風の閃

 その矢は風の抵抗を感じさせず、逆に速度を上げていき、飛鳥との距離を縮めていく。

 僅かな距離になった瞬間。

 キィン

 矢は弾き返され目に留まらぬ速度で紗織の真横を通り抜ける。

 音につられて飛鳥が振り向くとそこにレイシアが後ろを見据えた状態で立っていた。

「さ、紗織ちゃん!!」

 紗織は弦を引きながら魔法の詠唱を始める。

 ──二矢の型 雪乱れ

 矢を放った瞬間、何百本、何千本の矢が生まれる。

「温い」

 矢は全て弾かれる。そして紗織との距離を詰めるレイシア。

 間近まで迫った瞬間、弓だった紗織の魔器は剣に変形した。

 そして迫りくるレイシアの剣を弾き返した。

「貴女の剣裁きは見事ですが、私に一太刀入れることができないのは残念です」

 紗織は完全にレイシアの剣を裁ききれずに傷を負っていく。

「飛鳥さん。貴女は奈緒さんを抱いたまま何もしないつもり?」

「私はもう……」

 私の所為で奈緒ちゃんが……。

 私の所為で人一人死んだ。

 私の所為で。

 私が生きてる所為で。

「またネガティブに浸ってるのでしょうけど、昔、神代柚希さんが言ってた言葉を思い出して」

 柚希が言ってた言葉。



 私が化物と呼ばれる前の話し。

 臆病で大人しかった私は神代柚希と出会い。

 そして、冒険の楽しみを知った。

 外連れ出されるときいつも彼は、

「いつも巻き込んでいるけど」

 と言う。この場合彼が謝るのが普通。だけど、

「嫌だと思ったことないよな」

 彼が謝ることはなかった。

 私も楽しかったからいつも「うん!」と言って付いて行く。そしたら彼はいつもこう返してくる。

「だと思った。だって、巻き込んだだけじゃつまらないから面白楽しくしてんだよ。巻き込んだらハッピーエンドで終わらせないとね」



 巻き込んだ奈緒ちゃんに何か理由があったはず、なら私は事件に巻き込まれた分の幸せが訪れるまで耐えて見せる。

「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 飛鳥を包むように火柱が立つ。

 それと同時に紗織の周囲が白に染まる。

 レイシアは距離をとり二人を警戒する。

 しかしそこは二人に挟まれてる位置。


 そうだ、奈緒ちゃんが命を張ってまで私に何かを伝えようとした。

 

──身も心もボロボロで何をやっても傷付くばかりで

 ネガティブ思考で自分を責めてても何も始まらない。

 

──嫌になったある日。

 絶望と思ったら動こうとしても動けない。

 

──拾ったゴミをグチャグチャにされたゴミを

 今の自分と同じ存在見つけてしまって

 

──開いたことによって救われる。

 同じ存在と思っていたものが本当は違った。

 

──拾ったゴミには何の変哲もない未来を

 絶望の中にあった存在は未来を示す。

 

──灯してくれる言葉が書かれていた。

 絶望を希望に変える力がそこにはあった。



 ──大丈夫だ。まだ頑張れる──

 やれることはやった。あとは君次第だ。



「ありがと、奈緒ちゃん」

 飛鳥と紗織の眼前に魔法陣が浮かぶ。

「なっ無詠唱」

 そして同時に発動する。

「ドラグインフェルノ」

「ダイヤモンドテンペスト」

 レイシアは二つの魔法に挟まれ悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちる。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆



「玄藤さんは自分に魔法が使えないよう、呪いをかけました」

 八つ頭の蛇が桜を襲う。

「貴方の死ね。その言葉の重み、受け取りました」

 桜は白龍桜月を展開し、白いオーラ、魔力を纏わせて雷の蛇を斬る。

 その瞬間、桜の身体は後ろに吹き飛ぶ。

「どうした。いつもみたいにそれで斬れなかったのかな?」

 いや、斬った。確実に斬ったが、圧し殺す所まではいかなかったみたいだ。

「まだまだぁ」

 雷の虎、雷の鳥と次々と生み出していく。そして一体ずつ迫って来る。

 桜はまた白龍桜月に魔力を纏わせる。今度の魔力量を増やして斬る。しかし結果は変わらず、桜が吹き飛ばされる一方だ。

「なん、で」

 雷の生物達が次々と襲いかかる。

「あれを使うしか」

 そう言った瞬間、桜の右目は青く光り出した。

《インデックスで視界に捉えた魔法を検索……………………該当なし》

「これ程の魔法が禁忌に反してない」

 近衛は今も雷の生物達を生み出し続けている。

 対策を考えなければ桜が死ぬ。

 桜の右目が再び青く光る。

《インデックスでは該当しなかった為、アカシック・レコードに接続》

 これで該当しなかったら、当たって砕けるしか…。

《………一件の該当あり》

 桜は回避体勢に入り、雷の生物達を躱す。

《魔法名:サンダープレス。雷の圧力で対象を押し潰す。尚、電圧は自然の力で生まれてる為、距離あればあるほど電圧が高くなる》

 つまり桜の《桜剣》染井吉野で魔法を打ち消しても発生した電圧だけは相殺することはできなかった。

 しかし、電圧も魔法で生み出されたのなら相殺できるはず、それなのに桜は現状壁に打たれ続けている。

 重い鉄球でも打ち付けられているような痛み。

「まさか、電圧を自然現象で生み出す魔法だったとは、これは貴方が考えた魔法ですか」

「何故それを。これはまだ誰も知らない特別な魔法だ」

「まだ世に出回っていない魔法でも、どのような魔法かを知ることができる。それが僕の能力です」

 その時、桜の言葉に反応したかのように桜の魔器、白龍桜月が光だす。

「その光は──」

「そう、白龍桜月は進化する」

 白龍桜月の刀身は長くなり、野太刀になっていた。

 そして桜は気付く。近衛の顔が一瞬にやけたのを──。

 近衛が放つサンダープレス斬って斬って斬って駆け抜ける。

「刃に触れる前に磁力か何かで誘導して分散してるわけですか」

 桜は魔法に触れる前の刃の部分に歪みが出来てる所を見て解析していた。

 魔法を斬りながら近衛へ接近を試みる。

 しかし、途中足を縺れさせて倒れる。

「身体が、重い」

 桜が倒れた瞬間、近衛の表情は酷く気味が悪い笑い顔に変わる。

「お前はバカか?ずっと同じ魔法を使うわけねえだろ。お前も玄藤もバカだよ教室で普通魔法をぶっ放すやついねえだろ危険なことを知ってるのに俺の言ってた通りに実行しるなんてよ」

「………」

「しかもその後自分に呪いをかけて自分を苦しめ自己満足し、さらにそいつを死人呼ばわりバカ以外何になる?」

 桜は玄藤の職員室での悲鳴と表情を思い出し、

「貴方は(せい)と死の意味をどこまで理解してますか?」

「はあ?」

「もしくはその役割は知っていますか?」

 玄藤の悲鳴をあげた後の泣きながら怒鳴った言葉。

 ──魔法は何が人を幸せにするだ。医療系統魔法以外全部人殺しの為じゃないか。こんなだったらこの世から魔法なんて消えてしまえばいいのに!!

「生は生きていること。それは何かを実行、実践し、辛いことや苦しみを乗り越えていくこと。人生は不幸の道でしかありません。死にながら生きるか撃ち破って生きるしかないのですから」

 桜は自分の過去を掘り出す。

 身近な人の死、信頼してた者の死、命を助けた者の死、助けようとしても助けることのできなかった者の死、家族の死、彼は若いうちから残酷な人生を歩んできた。

「死は死んでること。何かの要因で死ぬ又は、自分自ら命を絶つこと。何もせず、ただ流されるままに流されて死ぬか大切な物を守って死ぬか抗って何かを成し遂げて世界に名を残し、死んだまま生きる。これが生と死の意味だと僕は考えてます」

 桜の記憶の中にいるのだろうか。死んだまま生きている人物が。

 桜は立ち上がろうとするが、地面に引っ張られる為、起き上がることすらできない。それ所か身動きできない桜に追い討ちかけるように魔法を放ち、桜の身体は地面にめり込む。

「何が死んだまま生きるだ?死んだらそこで終わりなんだ。何も残ることなく全て消え去るんだよ」

「います。貴方も知っている英雄の名を」

 桜は公園近くにある銅像の女性を思い出す。

 神代玲季(かみしろたまき)

 彼女も神無月一樹同じく桜と深い繋がりがあるのかもしれない。

「命を落としても名前が生きて、皆の心に住み着く。それは勇気のある偉業を成し遂げた者しかできません」

 その時、桜が握っている白龍桜月が輝きだす。

「な、何故魔器が光る」

「死にながら生きている人を馬鹿にした貴方に世界の危機にたった一人で立ち向かい世界を救うことができますか?」

「煩い黙れ。ここでお前を殺してしまえば俺の名は世界に轟く」

 近衛は魔法の詠唱に入る。

「無理でしょうね。禁忌は弱さの象徴。その弱い人間が名を馳せることも謳われることもないでしょう」

 桜の魔器、白龍桜月は周囲の景色を光で白に染める。

「白龍桜月は成長し続け、再び進化する」

 白龍桜月は野太刀から大鎌に変わっていた。

 しかし大鎌は形が定まっておらず、歪曲している。

(空間をねじ曲げている!)

 身体に帯びていた磁気が消えていることに気付き、桜は立ち上がる。

「はは、なんだそれは進化し過ぎてデザインが決まらなかったのかよ」

 詠唱が完了したのか近衛の周囲に小さな竜の形をした電が無数に浮いていた。

「喰らえ!!」

 無数の中の一つを飛ばしてくる。

 桜はタイミングを合わせて魔器を一振りした瞬間。魔器に触れる前に電が別の方向に飛んでいく。

 魔器が魔法のベクトルをねじ曲げて方向転換している。

「今、何をした」

 近衛はまだ分かっていない。大鎌の歪みをまだ失敗だと思っているようだ。

 電の竜を一気に全てを放つ。

 瞬きしたら全身で浴びてしまうかもしれない電の竜を間一髪で大鎌を振るい跳ね返していく。

「何故吹き飛ばない。這いつくばらない」

「触れなければ魔法は意味を成すことはできません」

 桜は近衛を通り過ぎ、大鎌の刃が近衛の眼前まで迫る。

「貴方の記憶を抹消します。──パラドックス・コードイレイズ──」

 その瞬間、大鎌の刃が半透明になり、近衛を切り裂いた。

 苦悶の声が風に乗って消える。

「禁忌の魔法に関する記憶が消えた貴方はこれで世界に認められるでしょう」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 肩を上下に揺らしてレイシアが倒れるのを待つ飛鳥と紗織。

 倒れたのを確認した瞬間、飛鳥は奈緒に駆け寄る。

「奈緒ちゃん、奈緒ちゃん死なないで奈緒ちゃん」

「大丈夫よ飛鳥、水無月さんは生きてますよ」

 紗織が落ち着いた様子で言う。

「でも身体が冷たいよ」

「それは傷口を凍らせたからです」

(さっき傷口を塞ぐとき誤って一瞬だけ力を入れすぎて血液を一度凍らせた。なんて言えない)

「さあ水無月さんを医務室に運びましょ」

 その時、黒い焔が紗織と飛鳥と奈緒、そしてレイシアを囲み捉える。

 レイシアはボロボロになりながらも立ち上がっていた。そして右手を飛鳥達へ伸ばす。

「ここまでやられるとは予想外ですが、もう終わり」

 彼女の顔は不気味に笑っており、この世の終わりを告げているかのようだった。

 右手から黒い焔が漏れ出す。その焔を中心に魔法陣が何重にも描かれる。

「我の焔は闇、全てを吸収し飲み込む焔なり」

 飛鳥は急いで魔法を唱え出す。

 両者同時に魔法を発動させる。

 レイシアの焔が全てを飲み込むのなら、飛鳥の炎は全てを燃やし破壊の限りを尽くす守護の炎。

 両者の炎と焔がぶつかる。

 最初は均衡が保たれていたが、魔力量の問題か次第に飛鳥の炎が圧されていく。

 飛鳥の炎が力を失くし、飛鳥に焔が迫り来る。

 その時飛鳥の前に一つの影が入り込みレイシアに向かって動く。

 その者右手には白い刀が握られており白い煙りが刀の刃に纏わりついている。

 

 ──《桜剣》染井吉野──


 焔を斬り裂いていき魔法陣を破壊する。

「白雪、桜」

「レイシアさん、貴女は関係ない人を傷付けました」

「関係ないだと」

「はい、関係ない人を」

 そう関係ない者を近衛の行動によりレイシアに傷付けられることになった。

 だからこれ以上暴れさせないために桜は行動にでた。

「パラドックス・コードイレイズ」

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