其ノ三
前後辻褄合わせて書くのってとても大変ですね。頭が沸騰しそうです。前話そこそこ改稿したりして、なんとか続き書けました……!
設定は、いろいろ練ってあるので、遅筆ですが、書き上げられるよう頑張りますので何卒…何卒……。
御札が貼ってある箱やら人形やらがいっぱいある部屋、物置きらしき場所に出た。
「無事現世に戻ってこれたようじゃな。やはりシャバの空気はうっまいの〜〜う! ぐひひ」
俺の手から夜桜がするりと抜け、くるりと回転すると、鎌の姿から18寸程の子供――十二単を身に纏い、桜色の髪を二つに結った――姿に化けた。
正直目がぎょっと出るほど驚いたが、そんな思考すら飲み込むほど、くらりと視界が歪み、立っていられなくなるほどの疲労感に襲われ尻もちをつく。
なんだ、まったく力が入らねぇ。根こそぎ妖力を持ってかれた気がする。
「まったく情けないのう。お主本当に神の子か?」
「ジジイは、かんけぇねぇだろ。……はぁっ……」
体を起こし壁に寄りかかる。
ああ、もう無駄につかれた。体動かねぇし、今すぐにでも帰りてぇのに。……瞬間移動でもできりゃあなぁ。
「妖力ほんのすこーし、もろうただけでくたばってもらっちゃ困るのじゃがな」
「この疲労感はお前のせいかよ……! っ、はぁ……。で、お前その姿なんなの? ほんとにさっきの夜桜か?」
「何を言っておるのじゃ? この愛くるしい容姿は妾しかおらぬであろう! やはり、自分で動けるのはええものじゃのう〜」
「…………」
……聞いた俺が馬鹿だったわ。
「さてさて、自由になったところで、早速主の元に帰るとするかのう」
夜桜の周りに桜吹雪が舞い始める。
「……! おい待て、主ってあの人のことか……!? しかもお前なんであんなとこにいたんだ!?」
「それではな――」
――ガラガラガラ。
突然、戸が開かれた。
「夜桜はん、行かせまへんえ」
「さっぶえっ……!」
戸の向こうからは札が一枚飛んできて、夜桜の脳天に張り付くと、舞っていた桜は止む。それと同時に、夜桜は鎌の姿へと戻り、床へと落ちた。
「まったく、勝手に行かれたら困りんす」
やってきたのは、さっきめちゃくちゃ言って部屋から追い出しやがった、どえれぇババアだった。
その後ろには、札を投げた張本人であろう双子らしきの子供が二人、立っているのが見えた。
「ほな、楸、柊それを持って下がりよし」
「はい」
楸と柊と呼ばれた双子の兄妹は、夜桜を素手で触れないように風呂敷で包み持ち出そうとしていた。
「おい、ちょっとまて……! そいつにはまだ用があるんだ!」
今そいつを持って行かれたら、聞きたいことが聞けねぇじゃんか。あの人のこと知れそうだってのに……!
俺は、ぷるぷると生まれたての子鹿のような足取りで、必死に壁を伝い立ち上がり、勢いに任せて夜桜を片手に掴みとる。
「あっ、ちょっ!」
「なにをしてるんですか……!」
双子は俺の突拍子もない行動に目を丸くして驚いた。
あまりに勢い余って、積み上がった箱に突っ込んでしまい、崩落ちていく。
「ぅぐっ……てぇ……」
「……!? あんた、もしや……そうか。……二人共、来てもろたのに悪いけども、もうお下がり」
「な……は、はい!」
「では、失礼致します」
なんとか体を起こすと、双子は部屋から颯爽と退出していき、部屋にはババアと二人きりになってしまった。
やっべぇ……。こりゃあ確実に死んだ。
俺を鋭い目つきで見下しているババアのあまりの威圧に、目が合わせられずに、目が泳ぐ。
バラバラに崩してしまった箱と、衝動に任せて奪ってしまった夜桜を見て、手に汗を握った。
一瞬、真っ赤に咲き乱れる花の映像が脳裏を過ぎっていく。
「……まずは、よう戻られはったわ。まさか封印を解き、あっこから出てきようとは。紛いなりにも、神の力は引いてはるんやなぁ」
ババアの声に引き戻れて、我にかえる。
「アンタ、一体何なんだよ。何がしたいんだ? あんなとこに突き飛ばしといて、出口はねぇし。しかもコイツ! なんであんなとこに」
「最初に言うた通り、あてはここの頭領や、白夜の願いを聞くにあたって、あんたを試さてもろた。もともとあの空間は、夜桜はんを封じる為用意しとったもんでな、大した力なくしては出られんようなっとたんやけど。まさか、封印まで解いて出てこようとは、まったく厄介な子を押し付けてくれはったわ。あの老いぼれは……」
ああ、頭が痛くなるわ、と言いながらババアはこめかみを抑える。
「あのさ、さっきは何も喋らせて貰えなかったからちゃんと言っとくが、俺は何であろうと、ここで仕事する気ないからな。断言しとく、肉体労働、ましては――」
正直働くことはめんどくさかった。
毎日、好きな物を食べ、好きな時に寝て起きては、好きなことをする。小さい頃から父さんに甘えて生きてきた。ずっとそんな楽をして生きていくと思ってたから。
そんな怠惰な感情でほとんど占めていた。
はずなのに、今は、それよりも、ただ正直怖かった。
夜桜を握った時、過ぎった記憶――真っ赤に染まった桜の花びらが視界一面を覆った記憶が、今まで忘れていたはずの、恐怖した感情だけを呼び起こしてくる。
――命が“奪われる”恐怖。
――命を“奪う”恐怖。
――それらと俺自身が“戦う”恐怖。
動悸がしてきたのを感じ、唇を一瞬噛み振り切る。そして続けて言った声は、明らかに震えていた。
「――妖退治なんてごめんだ……」
「せやったら、その手に持っとる鎌は早うお返し。そりゃあ今のあんたには手には、有り余る代物や」
俺は、まだ夜桜を手放したくはない精神で、返そうとはせずに、強く握りしめた。
――あの人が夜桜を使い、妖と戦う姿が思い出されていく。
桜と舞う姿は、天女様みたいにきれーで、すっげぇかっこよくて、強かった。
容赦のないような戦い方だったけど、敵も味方もかんけーなく優しくて……まだ幼くて怖がりだった俺をいつも守ってくれてた。
退治屋であんな空間に封印される程、やっかいな妖刀だとは知らなかったけど、あの人はちゃんと使ってたはずだ……。
封印されてたもんを勝手に持ち出すのはいけねぇってのはわかってっけど、今手放しちまったら、今にも忘れそうなあの人を、完全に忘れちまう気がする。
あの人が誰だったのか、本当は今でも顔すら思い出せねぇ。でも、優しさとあったかさを感じたことは忘れちゃいねぇ。
それに夜桜に触れてから、徐々に思い出されていく、なぜか忘れていた幼少の頃の記憶。もしコイツを持ってたら、あの人を、一面を真っ赤な桜で埋めたあの時のことも完全に思い出せる、そんな気がする。
俺は、戦う恐怖なんかよりも、あの人を忘れることのが嫌らしい。
もし、またあの人に会えるんだったら俺は――。
「さぁ、早うお返し」
険しい表情のババアに催促され、息を呑む。
「……返さねぇ。それと、これは俺に寄越せ」
――なんでもできる気がする。
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