序
書きたい時に書く、をモットーにのんびり更新ですが、創作っ子達を動かせていけたらと思います。いろいろと手探り、拙い文章でございますが、何卒よろしくお願いします。
満月が浮かぶ静かな夜。
まるで舞踊るかの様に散りゆく桜。
桜木の下に、白く輝く美しい髪をなびかせ立っている女性と、その隣には小さな少年がいる。
――少年は、思っていた。
あの人は、優しくて誰よりもあったかい人だ。
あの人が笑いかけてくれる顔も、名前を呼んでくれる声も、優しく撫でてくれるその手も、すごく安心する。
――少年の前に、女性がいる。
そこには優しい顔も、言葉などもなく、苦痛に染まった顔と、悲痛な叫びだけが少年の耳を劈く。
――刹那。真紅に染まった桜の視界と共に、少年は気を失い、それまでの事をすべて忘れてしまった。
ただ――
あの人にもう一度会えるのなら会いたいと、
会えるのならなんでもすると
――心の片隅で、今にも消えそうな思いだけを残して。
* * *
――八百万町。
森と山に囲まれながらも、様々な店が並び賑わう、活気に溢れた町。
妖や人が共存するこの町の中心、小山の頂上には、守神様が御座す『神無月神社』があった。
その神社、三本鳥居の柱の一つに必死でしがみつく少年・神無月空夜と、それを引っぺはがそうとする、神々しい白銀の髪の青年・神無月白夜がいた。
――空夜は、人でありながらも人ならざる者。白狼の妖であり、八百万町の守神様である白夜を祖父に持つ、俗に言う半妖、クォーターな存在である――
「ん”あ”あ”ッ! 俺つくしになんて興味ねぇってば!」
「つくしじゃなくて九十九だっつってんだろうが! こんの、空夜ーーーーっっっ‼ いい加減にせぇよオメェ⁉」
「俺は行かねぇ! 働きたくねぇ!」
「もう成人になるんだ、いつまでもぐうたらしてねぇで働きやがれってんだよ!」
白夜は嫌々言う空夜に、ガミガミと怒号をあげていた。
「はっ! 父さん、この老いぼれジジイどうにかしてくれーーー!」
空夜は、箒を片手にやってきた父・蒼太郎に助けを乞うた。
――蒼太郎は、この神無月神社へ婿養子で嫁いできた真人間であり、現在神主を務めている――
「ごめんな空夜。父さん、今日ばかりは白夜様には何も言えないんだ。ごめん!」
蒼太郎は目を逸らし、わざとらしく涙ぐむ。
「と、とうさーーんっ!」
空夜は腕の力に限界がきて、白夜に鳥居から引き剥がされると、階段の方へと投げ飛ばされた。
落ちる! と思い、ぐっ、と全身が力む。
そんなタイミングで運良く、階段下から強風が吹き、間一髪のところで階段から転げ落ちずにすんだ。
落ちずにすんだ安堵で力が抜け、へにょりと膝をつく。
そんな空夜を見て蒼太郎はぎょっと、驚きの表情を見せていた。
「あっぶねぇな! クソジジイ‼」
「ハッ、力の扱いがまるで小鳥のしょんべんだなぁ!」
「はあ⁉」
空夜は、煽り笑う白夜を睨み付ける。
白夜は、そんな空夜を間髪いれずに、ひょいっと担ぎ上げた。
「おいジジイ。降ろせ。降ろせぇ!」
「暴れるんじゃねぇバカもんがぁっ!」
「っ……‼」
空夜はジタバタと暴れ足掻いたが、白夜にものすっごい鳩尾をくらい無駄に終わる。
「たっく世話のかかるやっちゃな。……蒼太郎、そんじゃあ留守は頼んだぞ」
「はい。おまかせ下さい。ああ、そうだ、空夜――」
空夜はぐるぐると歪んだ視界に、蒼太郎が「誕生日おめでとう」と言ったのを聞き、意識は飛んだ。
* * *
今日は3月24日。空夜の齢13の誕生日だった。
妖にとって齢13というのは人間で言う成人年齢にあたる。
空夜は、非常に怠慢な性格であり、毎日を家でゴロゴロ、家事や神事すらも面倒臭がり、全てに怠け、環境に甘え日々を過ごしていた。
それを許し甘やかす父・蒼太郎がおり、祖父・白夜も成人するまでは、目をつぶりに瞑って自由にさせてやろうと、見過ごしてきた。だがそれも今日までだ。
白夜は、旧友が管理し頭領を務める仕事場(妖退治屋・九十九)に空夜を働かせるという契約を結び、空夜の意思関係なく強制的に連れて行く、を決行した。




