39 神の謎
『おい!起きるんだ!』
『全然起きないわね』
『どうする?全然起きないし、顔に落書きでもする?』
『本当に幼稚ね』
『そうかな……』
うぅ……何がどうなってんだ。まだ頭が痛いし、最悪だ。
『あれ、起きたかな?』
ん?この声は前田か?
『お仲間さんも起きたっぽいわよ』
『え、あ、おはようございます?』
「クワァ!(ここ何処)」
ゴレも居るし、ダチョモドも居る。それにしてもこの部屋はいったい……。
『ここは迷宮最下層、ダンジョンマスターの部屋!一番快適で過ごしやすい空間だよ』
『本当に快適なのよここ、涼しいし、とにかく最高よ!』
確かに涼しい、迷宮内は、じめじめしてて気持ち悪かったからなぁ。まさに天国だな。
『あっ、そうだ!何か出そうか』
何かって何だよ。つまらないものでも出すつもりか?
『君がこの世界に来てどれくらいたったかは知らないけど、この味は覚えてるんじゃないかな?』
味?懐かしいなその言葉、味覚なんてとうの昔に捨てたよ。
『じゃじゃーん!これ、日本人なら嫌いなやつはいないだろ?遠慮せず食って良いんだよ?』
そう言って、俺の目の前に出されたのは、カツ丼である。
丼一杯に敷き詰められた黄金のように輝くカツを見ると誰もが食欲をそそられる、はずなんだけど。今の俺にはあまり美味しそうには見えない。どうせ味がしないんだよ。分かってるから。
いやでも待てよ、草鬼になってから味覚が戻ってきてるような気がするぞ……水も美味しかったし……いやあれは植物だからか。
『ちゃんと箸も出しておいたから、ささっ、遠慮せず食べて食べて』
まぁいいや、食べるだけ食べるか。
『いただきます』
うーん、何だろ、箸が少し小さいような……うーん!食いづらい!!
別に箸なんて使わなくたって食べれますよーだ。手とかで食えば……。
あっ、丼の中身だけ口に放り込めば良いだけじゃんか。
丼を両手で掴んで、口の真上まで持っていって、引っくり返す!
うっ!?う、うぅ、うまい!!!何だこれは、この世の全ての食の頂点なのか!?この世界に来てからこんな美味しいものを味わえるとは思ってもみなかった。
丼系は俺の好物だ。ステーキとかも良いよな。後、寿司!日本人ならやっぱり寿司だよな。
『そんな食い方……まあ良いよ、喜んでもらえなら何よりだよ』
『カツ丼はやっぱり最高だな!』
『そうだね、それより君の名前をまだ聞いてない気がするよ?』
あれ、言ってなかったっけ?
『俺の名前は大葉夜空だ』
『何処かで聞いたような……あっ、通り魔に殺されたっていう男子高校生の一人と名前が一緒だ』
『え、そんなに知られてる感じ?恥ずかしいんだけど』
『確か、僕がまだ地球にいたときには犯人はまだ捕まっていないとか……まさか君があの通り魔の被害者だったとはね……いやでも、通り魔に殺されるとは災難だったね』
『通り魔……秋雄……』
『犯人を知っているのかい?』
『まあな』
さっきまで明るかった空気が一瞬にして重たく、暗い空気に変わった。ただの通り魔ならまだしも、親友だからな。
『あははは……その後、夜空君は神にあって、転生したって訳だね』
『いや、俺は神らしいものには会ってない』
『えっ?白い服を着た青年みたいなのと会わなかった?』
『会ってないな』
『そんなはず……ちょっと待ってて』
なんだなんだ、急に後ろを向いてどうした。
『その神の姿を記憶から探りだして人形にしてみたよ』
『おお、なにそれ、すげぇ神っぽいな』
もうなんかお前が神なんじゃないかって俺は思ってる。その姿とかまさに化け物だし、それにお前、魔物を生み出すし。
いや、待てよ?お前、実は魔王なんじゃね?魔物とか生み出してる時点で相当やばいぞ。
『会ってないのか……神に会わずにこの世界に来ることができるのかな……それとも夜空君がただ覚えていないだけ……記憶を消されたとかじゃないよね?』
『記憶を消された?いやいや、それは深く考えすぎだろ』
『確かに、記憶を消す意味なんか無いもんね』
『止めてくれよな、俺がヤバいやつみたいな言い方さ』
『ごめん、悪かったよ』
全く、止めろよなー。この世界に来る途中に皆、神に会うのが普通で、記憶を消されないのが普通みたいな事言うの……記憶を消されて転生とか絶対ヤバいじゃん、洒落になんねぇよ。俺はそんなのじゃない、ただ神が俺の存在を忘れてただけだ。
『亮太、お前は神に近い存在じゃないのか?』
ん?口が勝手に……いや、気のせいか。
『何故その事を知っているんだ……残念だけど、僕は神に近い存在じゃないよ。僕はただの迷宮主だからね』
神に近い存在?何を言ってるんだ俺は?何で急にそんなことを言おうと思ったんだ?それに何で下の名前で呼んだんだ?
『夜空君、神に近い存在の事を何故知ってるんだ?』
『いや、口が勝手に動いて、俺にもよく分からないんだ』
『そうか、夜空君、僕ら転送者、転生者には何かの役割が与えられているのかもしれないね』
『役割?』
『魔物に転生した者には人間が増えすぎないように殺す役割、人間に転生した者、転送された者にはこの世界の歴史に英雄を残す役割、迷宮主になるのは珍しいことなんだけど、迷宮主にも一応役割があると思うんだよね。人間に貴重なアイテムを与える役割、武器や防具、素材、魔石等を宝箱に入れたりしてるんだ。勿論、強くなければ死ぬ、ただでくれてやる必要はないからね』
『そんな役割があったとはな』
『今のはあくまで僕の考えであって、正解とは限らないからね?』
『なるほどなぁ』
お前の考えでいくと、俺は魔物だから、人が増えすぎないように殺すためだけに転生したってことになるが?なあ、俺だって元は人間、人の子だし、その言い方は酷くないか?
だいたい、相手から手を出してくるんだから、これは正当防衛だよ。よって、植物の俺は無罪。
『まだこの世界の事も分からないことがほとんどだから、気になるよね』
『あぁ、その通りだな。それより地球の料理を俺に振る舞ってくれ』
カツ丼によって、俺の胃袋?は目が覚めたようだ。
『まあいいや、それじゃあ、どんどん出していくから食べてってね!まず丼ものから!』
『うひょーー!』
『次はお寿司、その次は――』
こうして、食と立ち向かう事、30分。
『流石にお腹いっぱいかな?』
『うぁ、もうだめだぁ!これ以上食えない!食に負けたぁ!』
『次は何を出す?地球の最新の物でも出せちゃうよ?少しDPが張るけど』
『いやいい、そろそろ俺達を外へ出してくれ』
『えー、もう帰るのかい?もう少しここに居なよ』
『確かにここは快適だが、こんなところにずっといたら体がなまるだろ』
『確かに、餌付けされた動物が自分で狩りをしなくなるように……あっ、違うよ?そんなに睨まないで!』
『外の空気も吸いたいしなぁ』
『あぁー!分かったよ!分かったから!そんな顔しないでよ』
やっと外に出れる。
確かにここは涼しいけどさ、外の涼しさとは違うんだよな。人工っていうのか?
『外に行く前にこれを君達にあげるよ』
何だこの箱、一応鑑定してみようか。
『魔拳銃:持ち運び可能な小型の――』
おいこら、この異世界らしくない物を出すな。
『あー、ごめんよ!間違えた!てへ!』
間違えんな。そんなの使ったらバランスとか色々崩れちゃうだろうが!てか、そんな銃の弾丸、強い魔物なら効かないのがほとんどだろ。後、てへとか化け物が言っても怖いだけだぞ。
『ん?魔拳銃じゃ強い魔物相手に通じないだろみたいな顔してるね。残念、これは別世界のアイテム一覧から取り寄せた物だから、本体も弾も特別なんだよ?その辺の鉄板を撃てば跡形もなく消し飛ぶし』
『あー!止めろ止めろ!科学技術の発展した異世界からそんなもの取り寄せてくれるな!』
何を考えてるんだこいつは……それより、そんな科学技術の発展した異世界もあんのかよ。
『ちぇー、何もそんなに怒らなくても……他にも筋力増強服とか色々あげようと思ってたのに……』
おいてめぇ、間違えてねぇだろ。わざとやっただろ!
『もういい、早く外に出せ』
『ごめんってば、これだけでも持っていって!』
何だこれは?黒いボタン?何に使うんだよこれ。
『それはね、えーと、身に付けるとステータスが上がる道具だよ』
うーん、何か怪しいぞ、こいつ。
鑑定。
『発信器:対象の現在位置を――』
お前……『猛毒生成』
『ぎゃぁ!!』
発信器とか、怖いわお前。
『ごめん!良いものあげるからさ!この三箱の内、一つだけ良いものが入ってます!ささ、どうぞ!』
本当かよ。まぁ、鑑定があるから分かるけど。
鑑定。
『死神の人形:持っているだけでステータスが――』
『不幸のお香:嗅ぐと不幸に――』
『成長液:ある木から採れる液に手を加え、作られた液。一滴かけるだけであらゆる成長が見込める』
成長液か、まぁそれが当たりなんだろうな。
『一番右でお願いします』
『鑑定持ちは面白くないなぁ』
良いだろ、早く寄越せ、そして外へ出せ。
『はいこれ、確かに渡したからね?うーん、もうお別れか、短い間だったけど楽しかったよ。また遊びに来てね。歓迎するよ』
『しばらくは来ないだろうな。普通に迷宮とか疲れるし』
『あははは……夜空君、君とはまた会う気がするよ。じゃあね――』
飯出すことしか取り柄のないやつが何か言っておられるぞ。
あっ、またこれか……何で毎度毎度……意識が遠のくんだ……よ……。




