共同生活(5)
始祖がイゴとかいうゲームをしている間に私は
「おりゃ!」
「せい!」
「ん?」
こうか!
どりゃああああああ!
腕に力を籠める。
そうだ‥‥始祖が体支配してるんだった。
腕も足も体も…何もない。
意識を体から、引きはがす。
「しゃっ!」
私は何もない空間に立っている。
「みたかあああああああああああ!」
「私は自由だ~~~~~!」
‥‥ここどこ?
ゲッ‥‥投了。
アネゴどういう演算してんスか?
(デートという枠組みなのだ、読み解いて見せよ)
くぅ~~~~コレだよ
俺の人生になかったミステリアス女性とのお付き合い
どうです?俺とプラトニックな関係は?
キリッ!
(我に勝ったらのぅ)
覚悟してくださいよ‥‥
俺今夜は貴方を寝かしません
ってナニがねえや!
ギャハハハハハ
「最っ‥‥低」
手が有ったら殴りたい。
(気まぐれ…そなたにも有るまい)
(余剰領域で演算していた、精神アンプルを打たないと踏んでいたな)
へへっ、盤外戦略は人工知能に通用しませんぜ
まあ10割打てないからこその、誘導ですね
俺はブロを信頼している。
それだけですわ
(信頼か…そろそろあの大馬鹿者を懲らしめねばならぬな)
ぼ、暴力反対!
ラブアンドピース!
ああ…マジっすか…
タイミング良いなブロ
私の立つ虚空にぞわっとする怒り。
それとしか感じられないものが沸き上がる。
なに…これ
怒り?
それだけじゃない?
憐れみ‥‥?
全部ある?
これが始祖の心なの?
私の視界の主人公が吹っ飛ばされる。
え?戦ってるの?
「潰すぞ‥‥」
始祖の声が殺気を含んでいる。
得体のしれない感情が流れ込む。
あっ隙あり。
私は共有された視界で主人公の僅かなタメを見つけた。
「心せよ‥‥小娘にかける言葉があろう?言ってみせい」
始祖の言葉が虚空に響く。
そうだ!
睡眠薬飲んでくれの一言とか!
君が大切だ!
とかいう事あるでしょ!
「拒否する。それは俺が彼女に言うべきものであってお前に言う事ではない!」
主人公の言葉が私を打った。
…だったら言ってよ。
キモチ言葉にしてよ。
「小娘からの伝言である「薬くらい普通にのませろ」だそうだ」
主人公の驚き、だめだこれ隙だらけ。
私にだけ見える軌跡で力場が主人公の顎を捉え、彼は倒れた。
「っしゃ!」
共有された視覚が、ゆらりと立ち上がる主人公を捉える。
素人の私が見ても主人公は絶対に始祖に勝てない。
すごく大きな意志が彼に倒れる事を許さない。
私はそんな風に思った。
「殺しはせん…」
始祖が言った。
私の視覚が主人公の奥にフォーカスされ、彼の背後の存在を映した。
人のような何かが主人公を見ている。
その数は一つではない、ざっと数えて20人以上は居る。
主人公が私を見る。
虚ろな視線が数秒後に力を帯びていた。
「‥‥‥貴様…己の傍に居る存在にすら気づかぬか」
始祖の声には憐れみがある。
私にすら見える存在に彼は気づいていない。
「そんな物は存在しない、俺は俺でしかない」
いやいるって!
後ろ!
絶対知り合いでしょ!
「今一度問う…心せよ‥‥己の傍に居る声に耳を傾けよ」
「そなたを奮い立たせるその根源はなんだ?」
「教義による救済」
「俺は主の御意思を地上に示す一本の剣でしかない」
始祖の問いに主人公は即答した。
私は彼が即答してしまったと感じた。
なんとなく…それしか彼には残っていない。
私の拳が彼の腹部にめり込む感触がある。
もういい!そう言う暇もなかった。
「そなたを立たせ続けるのは「それ」だけか?」
「教義とやらを守り続ける大本はなんだ?」
「‥‥‥」
じんるいそんぞく。
彼はそう言った。
何でそんな重荷を背負わなきゃいけないのか。
私はそう思った
「人類存続か少しはまとも答えだ」
始祖の折檻は凄惨を極めていく。
主人公は防御しているが、それが全く通じていない。
「その考えはどこから来た」
主人公は倒れない。
逃げれば良い。
ぜったい始祖には勝てない。
だったら逃げれば良いんだ。
湖の上でAIと始祖の会話が思い出された。
主人公には救いを求める無辜の民の声が聞こえる。
きっと彼は私の人格を肉体に取り戻す方法を探している。
だから自分の体がどんなに痛めつけられても、その犠牲を厭わない。
「もうやめてよ!」
「わたしは無事だから!」
虚空に響いた声は彼に届かない。
「見ていなさい!」
「学びなさい‥‥それは甘やかしてるだけ‥‥この男は見るべき」
凛とした始祖の言葉に、私の視線が彼の背後にフォーカスされる。
彼と似た服を着た知らない誰かが寄り添おとしていた。
それは始祖をじっと見つめていた。
「哀れな男だ…死して尚、そなたを支え続ける存在を見ようとも、感じようともしない」
「黙れ」
「戦友は‥‥彼らはもう居ない」
「どこにも…だ」
「彼らは人類存続のため「人類のため」その誓約を果たした」
「お前のまゃか‥‥」
まやかしなんかじゃない…そこに居るよ。
「訂正せよ‥‥共に果たしているのだ」
「彼らへの侮辱は許さん」
始祖の怒りが伝わる。
彼らきっと今まで主人公を支え続けてきた。
本人だけが一人で使命を背負って…
「お前はヒロインに何をしようとした?」
始祖の言葉に主人公が動揺していた。
いいって!
さっき二人の囲碁デートでその話終わったじゃん!
「お前は歪み始めている」
始祖を止めようとするが彼女のフォースチョークは全く外れない。
今度は本気で殺そうとしている。
「本当にそなたは惨めな男だ」
「孤独という己の貧しさすら知らない」
「目を向けようともしない」
「己の恥部を明らかにされただけで狼狽える」
「そなたの教義とは倒れる老人を支える杖なのか?」
私の手によって主人公は気を失った。




