座標を失って(1)
俺は見知らぬ場所に辿り着いた。
war machine は現在地をunknownと表示し、転移した世界と同様にサテライトリンクは切れている。
「兄弟。支援要請、現在地を知らせろ」
ここがどこか?
まあよく知らない場所って事しか分からねえ。
周囲の観測は続ける。
敵影はねえからクソでもしてろ。
兄弟が言う。
「了解した」
「ヒロインはどうだ?」
mirageをモニタリングしてるが…
ありゃ駄目だな
「恐慌状態という事か?」
mirageのリンクは切れていない。
俺は彼女を通信で呼び出そうと思った。
それよりもっとひでぇ
お前だって聞いただろ。
怨霊はヒロインを器として呼び寄せるため両親を殺したってな。
「欺瞞工作を疑うべきだ」
俺は言った。
あと一歩で「器」であるヒロインが手に入るンだぜ?
その必要がねえ
ありゃあ…
「獲物を前に品定めしている。俺はそう観測した」
「この俺が‥‥執行者が」
「素人に…」
whitedressとライバルの待ち伏せは俺も予測できねぇ
まあ始祖に感謝しとくんだな
AIは会話を切った。
俺は野営地を全周20キロほどある湖畔に決めた。
周囲に人類の居住した痕跡が存在した。
どこにも人は居ない。
俺は人の消えた一軒家を見つけた。
多分民家だろう。
そこを拠点と決めた。
俺はmirageのコクピットからヒロインを引きずり出した。
嫌がるわけでもなく、ただ憔悴している。
感情が無い。
彼女を担ぎ下ろす。
夕暮れの闇に照らされ、mirageの損壊を確認した。
右腕欠損、胸部装甲半壊、頭部半壊、無数の痕跡がある。
こいつはもう駄目だ。
そう思い興味が無くなった。
使えそうなベッドがある部屋を探し当て、彼女を横たえる。
俺はwarmachineのコクピットに戻る。
現状がどうなっているか全く把握できない。
転移後の世界で敷設したマーカーの反応すら補足しない。
「支援要請。ここはどこだ?」
ここはどこ?
私はだれ?
知るか!
俺のセンサーも全く反応を拾えねぇ
「推論を提示しろ」
怨霊との初戦で巻き込まれた「ゲート」
その反応とよく似ている。
また知らねぇ世界かもな、ブロと居ると退屈しねえよ
「危険だが自分で索敵する他ないか」
始祖に聞く?
あれは危険な存在だ。
出来る限り接触を避けるべきだ。
奴自身が怨霊と同一の存在である。
そう言っていた。
そうだな。
やってらんねえよ、明日はデートだっつうのに
「くだらんお喋りはいい、索敵を開始する」
「ここが何処か分からなくては対策の立てようもない」
「ヒロインを‥‥彼女をこのままにするのは教義に反する」
主よ…我らをお救いください。
はぁ‥‥あいつ助けてくれねぇんだよ。
「聞かなかった事にしてやる」
俺はwarmachineの出力を上げる。
脅威度の少ない状況でこの機体は出力に制限が掛かる。
「どこまで出る」
3割っつーとこだ。
どうした?
暴れ足りねえのか
「そんなところだ」
warmachineが浮遊する。
外はきっと闇だろう。
俺はそう思った。
warmachineが飛行する。
野営地への帰還だった。
成果は何もない。
総飛行距離は地球を3周していた。
俺と兄弟は何も喋らない。
言葉にならない。
何度か建物を見つけるが、そこに誰も居なかった。
胸が苦しい。
‥‥黙れ。
俺は地表のログを何度も見直した。
人類の居住した形跡だけがあり、ここには人類が存在しない。
遂に天国に召されたかもな
兄弟が言う。
俺は何も言わない。
何も感じない方が良い。
ただ帰還まで兄弟に操縦を預ける。
着いたぜブロ
「……」
「なあ、俺たちの戦いは何だったんだ」
「戦友を失い、部下を失い、執行者として断罪を続けた」
「ここに聖騎士である俺に意味はあるのか?」
俺は全てを失ったのか。
理不尽な転移に巻き込まれ…こんな場所で。
終わるのか。
‥‥そうか。
ヒロイン…彼女だけは何とかしてやりたい。
野営地の掃除でもしてンだな
ブロのバイタルおかしいぜ
「そうか」
何かをしていないと…。
黙れ。
考えるな。
心に神殿を作る。
俺はそこで主に祈る。
何も願わない、考えない。




