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家庭内ホームレス  作者: とららん
第四章 家族の代償
19/30

家族の代償 4

今回は節にしたら短かったため、四章の4節と5節までアップします。

次回から5章に突入します。

―※―


 鈴乃が入院して二週間が過ぎた頃、明らかな異変が起きた。ベッドに寝たきりである以上、手足が細くなるのは仕方がなかったが、血色が悪く、顔は青白い。特に異常だったのはその腹部だ。妊婦のように膨れあがったそれは、十五歳の少女にしては異様な物だった。最初は妊娠ではと疑われたが、それは鈴乃自身が否定していた。

 検査の結果、腎機能と肝機能の低下により、排泄される水分が腹部へ滞留し、臓器を圧迫していると言う結論だった。結局は、心臓の循環機能の不全が発端だ。


「限界か……」


 和子に自宅での待機を命じられた忍は、リビングで天井を仰いだ。その顔は文字通り、意気消沈と言える。


「まだ何か方法があるはずでしょ! 水を出すため手術するとか、何とか考えないと」


 アキラが歯痒そうに爪を噛む。


「無駄だ。既に五度の手術をしている。しかも前回から間もない上に癒着が酷いだろう。手術するなら、心肺腎肝同時移植だろうな」


「そんな・・・無茶だよ!!」


 誠司の説明に、アキラは顔をしかめ忍へ視線を移すが、忍は最初から分かっていたのか、表情を崩さなかった。


「用意しても、手術ができる人間が居ないと始まらない。多数の臓器の同時移植ともなれば大手術だ。中村はやらないだろう。でなければ薬で安定させて、現状を維持しようと言うはずもない。せめて――」


 誠司が口にしかけた言葉を飲み込み、そのまま噤んだ。素人でも理解できる医学の限界、技術の限界だ。それ以上は何も、誰も口を開こうとはしなかった。だが……


「忍、これで良いのか? お前は、鈴乃となり損ないの兄妹のまま、終わるのか?」

「ほっといてくれ。家族ごっこはいい加減うんざりだ。俺はよくやったよ。もう自分でも、自分が分からないほどだ」

「そうだな。お前は逃げなかったな。だから苦しいんだ」

「逃げなかったんじゃない! 逃げられなかった! 巻き込まれるしかなかった!」

「そうか……でも、それは結果的に逃げなかったのと同じだろ」

 

床に座ったままの誠司がゆっくりと重い腰を上げると、後生大事にしていたギターケースを肩にかけた。

「どこへ……」と、アキラが息を呑んで誠司の背中に声を掛けた。


「野暮用を思い出してね。少し遠出させてもらう。なるべく早く戻って来るつもりだ」


 そう言い残し、誠司は玄関へ足を向けた。


「誠司! ちょっと待ってよ!」


 誠司を追ったアキラが裸足で家を飛び出し、結局リビングには、忍一人が残された。

 ガランとした室内。散乱した弁当の空箱や洗濯物。鈴乃が入院して二週間、この家は忍が見知った空間に逆戻りだ。だが、今度はアキラも誠司も居ない。


「この家……こんなに静かだったっけ?」


 どこの誰とも知らない、見えない何かに忍は問いかけた。


「なんで、いつもこうなるんだよ!」


―※―

「ちょっと誠司! なに考えてるの!」


 玄関先で、アキラが誠司を怒鳴りつけた。


「今、忍を一人にしたら、アイツ壊れちゃうよ。私だってどうしたら良いのか……」

「昔、俺は逃げ出したんだ」


 足を止めた誠司が、振り返らずに続けた。


「俺は逃げ出した。逃げ出せたからだ。でも、忍は逃げ出せない。逃げられない。なら、そこで何とかするしかない……」

「だから、アイツの側にいて――」

「側にいて何ができる」

「それは……」


 今のアキラには答えられない。側にいて何ができるか、考えもつかない。でも、側にいなければダメだ。無力な自分に腹が立ち、アキラは思わず拳を握った。


「それがお前の役目だろう。忍にお前を押しつけた甲斐があった。だから――」


 誠司がアキラの頭に手を置き、微かに笑顔を見せた。


「困っている弟と妹達を助けるのが、長兄役の俺の仕事だ。お前はへこんでる次兄の側にいてやれ。俺達は家族なんだろ」


 親指を立て、誠司は「任せておけ」と振り向きざまに答えた。子供じみた格好つけにしか見えなかったが、それは頼もしく思え、アキラはいつもの減らず口を叩く気が起きなかった。

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