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第16話 不浄の手

「へへへ。教わったのさ…… 左手は『不浄の手』だから。呪いの呪文を書き込むなら左腕が一番良いってね……」


 老婆となったドロシーは、僕を見上げながら笑った。僕は、すぐに問い詰める。


「教わった…… だと? 誰にだ!?」


「へへへ。私は、元々は召喚魔法専門の魔術師だった。呪術なんか知らなかった…… でも、あの人が教えてくれた。古代ベラリス文字を使った呪いの呪文を。他人から生気を吸い取り若返る方法を。全部、あの人から……」


「あの人って誰のことだ!? 喋るんだ!」


 ドロシーに呪術を教えた人間がいる。それは、もしかしてライカの呪いと関係のある人物かもしれない。左腕に古代ベラリス文字を使った呪いという共通点がある。


 老婆は、ゆっくり口を開く。


「あ、あの人の名前は……」


 そう喋りかけた時だった。「うッ!」と突然、ドロシーは喉元を押さえて嗚咽を漏らす。目は開いて、苦悶の表情のまま横たえた。そして、そのまま動かなくった。


「お、おい! ドロシー! どうした?」


 突然の出来事に慌てる僕。しかし、側にいたライカが冷静にドロシーの様子を伺った。


「ダメだ…… 死んじまった」


 ライカが、ぼそりとつぶやいた。ドロシーの目は、完全に瞳孔が開いている。僕は、彼女の遺体を憐れむような目で見た。


「これが、他人に呪いをかけた人間の末路か……」


 結局、ドロシーに呪術を教えた人間のことは何一つ分からなかった。しかし、この村の謎の奇病の事件は解決することができた。



「ありがとうございました! リィドさん! ライカさん! おかげで妹もすっかり元気になりました。妹だけじゃあありません。他の少女たちも病気が治って元気になりました。これもリィドさんたちのおかげです!」


 翌日の朝、ジムからお礼の言葉を受け取る。僕は、少し照れて答える。


「いや、まあ。とりあえず、よかったな…… 妹さんたちが元気になって」


 呪いをかけた術者であるドロシーが死亡したことにより、少女たちにかけられた呪いは解けた。左腕に刻まれていた古代ベラリス文字の呪文も嘘のように消えてなくなった。


 また、僕がその呪いを小説家のスキルで書き換えたことによって。ドロシーが少女たちから奪った生気は、逆流して少女たちの元に戻っていた。だから、少女たちは皆回復して元気になったのだ。


「しかし、びっくりしました。あのベネットさんが偽物で、さらに呪いをかけていた犯人だったなんて……」


 あの後、ドロシーの手下となっていたベネット氏は偽物であることが分かった。村の誰もが本物だと信じて疑わなかったらしい。


「リィドさん。これは、少ないですが…… 今回のお礼です。どうぞ、受け取ってください」


 ジムが、小さな袋を手渡してくる。僕は、遠慮せずにそれを受け取った。


「悪いね…… ありがたくもらっておくよ!」


 こちらも慈善事業をしている訳ではない。ただで人助けするほど余裕も無い。


「いえ、本当にありがとうございました。少ない謝礼ですみません……」


 そして、ジムや村人たちに見送られながら僕たちは村を後にした。



「左手は『不浄の手』か……」


 村から街へと向かう街道を歩く。僕は、自分の左腕を見つめながらポツリとつぶやいた。ライカが、僕の顔を覗き込んで来る。


「何だい? 神妙な顔しちゃってさ。何か気になることでもあるのかい?」


「うん? ああ。ドロシーが言ってたろ。呪いをかける方法を教えてもらった時、左手は『不浄の手』なんだって。だから左腕に呪文を書き込むんだって」


「それがどうしたって言うんだい?」


 ライカは、全然気になっていないようだ。しかし、僕にはその言葉がなぜか引っかかっていた。


「うーん。左手が『不浄の手』っていうのは、確か何かの宗教の教えだったような気がするんだ。どの宗教だったか思い出せないんだが……」


「ふーん。でも、それがどこかの宗教の教えだとして、何か関係があるのかい?」


 ライカは、あんまり話しに興味が無さそうだ。呪いをかけられている本人だというのに、随分と気楽なものだ。まあ、だから今まで生きてこれたのかもしれないが。


「大ありさ! 魔術と宗教っていうのは、大いに関係がある。もちろん、呪術と宗教もね。昔から深いつながりがあるんだよ。呪術を専門にした悪魔崇拝の宗教だってあるくらいだしさ」


「ふーん。私は神様なんて信じてないからね。ピンと来ないよ」


「まあ、そうだろうな。また分かったら教えてやるよ」


 とりあえず僕も考えるのはやめた。まあ、また思い出すこともあるだろう。それに、ドロシーに呪術を教えた人間が、ライカに呪いをかけた人間と必ず関係があるとも言い切れない。


 左腕に古代ベラリス文字による呪文が刻まれている。その共通点があるだけなのだ。たまたま偶然かもしれない。


「それより、リィド。これからどうするんだい?」


 ライカが尋ねてくる。


「あ、ああ。とりあえず街に戻ろう。何か仕事でもしてまとまった金が欲しいな……」


 僕には目標がある。僕をパーティーから追放した勇者ホランドを見返したい。そのために、彼よりも先に魔王を倒したい。


 だが、まだ金も力も全然足りなかった。



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