第10話 東の森の魔女
俺とライカは、まずジムに聞くことにした。
「この村で何か変わったことはなかったか? この病気が流行る前に…… 例えば、怪しい人間を見かけたとか」
「怪しい人間ですか…… ああ! います! ちょうど病気が流行る1か月前くらいです。東の森の空き家に、怪しい人間が引っ越してきたんです。自分のことを魔術師と名乗っている女です!」
それを聞いて、俺とライカは顔を見合わせてうなずいた。ライカが腕組みをしたまま口を開く。
「うん。聞くからに怪しいやつだねえ。そいつが呪いをかけた術者か?」
しかし、ジムはきょとんとした顔をしている。
「でも、その女は森の空き家に引きこもっていて、妹や他の少女はおろか。村にも全然近づいていないんですよ。怪しいっていうだけで疑うのもどうかと……」
僕は手をあごに当てて考えた。
「うーむ。だが、調べてみる必要はありそうだな…… ジム。その森は近いのか?」
「ええ。歩いて1時間くらいです!」
「よし。じゃあ、ちょっと行ってみよう」
このまま、ここにいても事態は進展しない。怪しい人間がいるというなら調べてみた方がいいだろう。俺たちは、村の近くの森に行くことにした。
ジムの家を出て、数分歩いた時だった。
「あら? ごきげんよう」
身なりの良いドレスを着たお嬢様のような少女に出会う。この寂れた村には似つかわしくない少女だ。
「こんにちは! ベネットさん。お散歩ですか?」
ジムが前に出てお嬢様風の少女に挨拶をした。どうやら知り合いのようだ。お嬢様風の少女は、にこやかな笑顔で答える。
「ごきげんよう。ジム。あの…… こちらの方々は?」
少女は、俺とライカの方を見ながらジムに尋ねた。ジムが代わりに答える。
「こちらはリィドさんとライカさんです。例の病気の件を調べに来てくれたんです」
「どうも……」
俺は、一応少女に向かって軽く会釈をした。少女は、丁寧にお辞儀をして返す。
「わたくしは、ドロシー。ドロシー・ベネットと申します」
「ベネットさんは、街の商家のお嬢様なんですよ」
今度は、ジムが俺たちに説明する。まあ、この村で育った訳でないというのは見てわかる。裕福な家庭のお嬢様なのだろう。
「はい。わたくし、幼い頃から体が弱くて…… この村には静養のために訪れているのです」
「そうなんですか。……こんな何もなさそうな村にねえ」
「いえ、そんなことはありませんわ。ここは自然がたくさんありますし。それに、村の方々もすごく優しい方ばかりですわ」
育ちも人の良さも見て取れる返事だ。しかし、ドロシーと名乗ったお嬢様はふと悲し気な顔になった。
「でも…… 今は、妙な病気が流行ってしまって。わたくしと同じ年齢の少女たちは、みんな病気になってしまいました。早く良くなっていただけるといいのですが」
「大丈夫ですよ! そのために、リィドさんとライカさんが調べにきてくれたんです!」
勝手に、ジムが胸を叩いて答える。しかし、僕たちは呪いの原因を探ろうとして出鼻をくじかれたばかりである。あまり時間も無駄にできない。
「ジム…… そろそろ行こうか」
「あ。ごめんなさい! お忙しいところ引き止めてしまって」
ドロシーが申し訳なさそうに頭を下げる。僕らは軽く手を振ってドロシーと別れると、森へと急ぐことにした。
思ったより大きい森だ。木が覆い茂って辺りは薄暗い。1人で来たら昼間でも迷子になりそうだ。
「例の空き家はこっちです!」
ジムの案内に従って1時間くらい歩くと。少し開けた場所に、ポツンと1件の小屋があった。
「ここが、例の魔術師みたいな女が住み着いたっていう噂の家か……?」
「そうです。1か月前くらいに。村の人間が何人か目撃してます」
魔女のアジトって訳か。呪いをかけたのがその女なら。あの呪いには『死の代行者』を召喚するトラップなんか仕掛けた人間だ。用心しなくてはならない。
「ジムは、ここで待っていてくれ。中には僕とライカだけで行こう」
「そうだね。どんなやつか分からないからね」
ジムは、素直に「分かりました」と答えた。僕とライカは、小屋の入口に向かって進んでいく。そして、玄関の扉を軽くノックする。
「すみません! 誰かいますかー?」
玄関のドアから大きな声で呼びかける。しかし、返事はない。無言でライカの方を見ると、ライカは小さく頷いた。僕は、ドアを開ける。
部屋の中は、薄暗い。
「すみません! 誰かいませんかー?」
もう一度、呼びかけてみるが。やはり返事はない。僕とライカは、恐る恐る小屋の中に入ると進んでいく。その時だった。
バタンッ!
突然、入って来た入口の扉が勢いよく閉まる。慌てて戻ろうとするが、ドアはなぜか開かない。そして、背後から女性の声がした。
「ようこそなのだ! シエラ・ハーランの魔術ラボへ! 断りなく侵入してきた不届きものたちめ! 成敗してやるのだ!」
もっと魔女っぽい老婆を想像していたが。現れたのは、若い女の魔術師だった。いかにも魔術師っぽいローブを着ている。
「ちッ! やれるもんならやってみなッ!」
喧嘩腰でライカが剣を抜く。しかし、若い女の魔術師は落ち着いた様子で話した。
「くっふっふっふ! 無駄なのだ! この部屋には、既に結界を張ってあるのだ! 聞いて驚け! この部屋にはセッ〇スしないと出られない結界を張ったのだ!」
「……何言ってんだこいつ」
その言葉を聞いて、僕とライカは眉をひそめた。




