四十話
寝台にあるべき姿がないのを見て、マーシャルはぞっとした。ウィリアムが飛び降りたとき、こんなことが起こったと看護師に聞いていたからだった。
「あぁ、マーシャルさん。ウィリアムさんなら聖堂にいるそうですよ。噂をすれば」
看護師はマーシャルの背後を見て微笑むと、包帯を載せた白鑞の盆を持って席を外した。
「どっかに行っちゃったんじゃないかって、わたし心配したの。すごく……」
胸の前で握ったマーシャルの手を、ウィリアムが優しく硬い手で包んだ。
「ごめん。じゃなくて、マーシャル、ありがとう。いままで、いろいろと」
マーシャルはきょとんとウィリアムを見ると、数回瞬きした。ウィリアムの目には光があった。
「ううん。やっと声が聞けた。よかったよほんとに。あ、そうだ! あのね、ずっと会わせたかった人がいるの。だけど、今日はもう疲れたよね」
「いや、散歩くらいなら。それに……」
マーシャルは、舞台の俳優よろしく好奇の視線を集めているウィリアムの困惑した表情の意味を理解し、ウィリアムを外に誘った。
「その人はエクエス=シュヴァリンって言うんだけど」
「あぁ、その御方なら昨日会った。おかげで目が覚めたんだ」
マーシャルはウィリアムが考え込むような表情を見せたので、その意味を問うことをやめて街の視線を移した。
「それじゃあ、もう話は聞いてるのかな?」
「話? エクエスから?」ウィリアムはまたも考え込むように顔を曇らせた。「天を知らぬ者って言葉なら、聞いたよ」
マーシャルが首を傾げた。
「違うの。新しい騎士の育成に、わたしたちが選ばれたこと」
「そんな話、エクエスは話さなかったな」
「そっか。なら、なおさら話を聞きにいかないといけないね。でも、まだ無理だよね」
マーシャルはウィリアムの松葉杖を見ていったが、ウィリアムは松葉杖に頼らずに立つと肩を竦めて見せた。




