十八話
ジルクートの屋敷の一角には庭園がある。庭園は色とりどりの花が植えられていて、手入れが行き届いている。
蔦と花を模した鉄の格子で建てられた簡素な天蓋付きのエクセドラがぽつんとあり、中には四人が囲める卓と椅子があった。
ウィリアムは、年季のこもった木の椅子に腰を下ろし、召使いが毎日掃除しているのだろう、布で拭かれて続けた表面の柔らかく素朴な感触に思わず微笑んだ。
三人は、剣帯を外して十字柄と鞘に絡めると、卓に立て掛けた。
銀の盆に白い紅茶用の磁器一式を載せた執事が、どこかの職人が手掛けたものと窺わせる装飾が施されたカップやティーポットを載せてやってきた。磁器のカップの底には、炎と子猫の絵柄があった。
「プルッケル」
誰に言うでもなく言ったウィリアムの言葉に、執事がやんわりと微笑んだ。
「見る目がございますね」
「いえ、国章があったもので……」
執事は、三人のカップに朝陽のような色をした紅茶を注いでいく。
「ジルぼっちゃまが、こうしてお友達を連れて卓を囲むことがなくなると考えると、ほんとうに……」
ジルクートはカップの取っ手を指先で弄うと、思い出すように鼻で笑った。
「その名前は、客人の前ではよしてくれとあれほど」
「おっと、これは失礼いたしました」
ウィリアムのカップに注ぎ終わると、執事は眉尻の下がった優しい顔に、満面の笑みを湛えて礼をした。
「ごゆっくり」
執事の背中を見つめながら、ジルクートは煙のように朧げな微笑みを解いた。
「爺は、私の初めてできた友だ。小さい頃はよく、この庭で騎士ごっこをしてな。私がエクエス役で、爺は黒き影。いつも負けてくれたものだ」
ベーネが紅茶を啜り、微笑ましいこったと言いながら背もたれに身を預ける。
「実感が湧かないな。すぐに遠征に行くなんて」
ウィリアムの言葉に、二人は言葉の続きを待つように紅茶を啜ると、賜剣式で授かった剣の鞘を撫でた。
「|賜剣式のときにみた幻覚。あれは現実だったんだろうか」
「不思議だよな。まるで、本とかで読んだことがある神のみたいだったよな」
「それに、賜剣式のあとのことを覚えていない」
三人は黙った。
「目覚めたら、いつもの宿舎でこの剣を抱いていた。俺、あんな変な目覚め方は初めてだった」
「俺は似たようなことが一度だけあるぜ。もっとも、あの時に抱えてたのは年代物のニャックの瓶だったけど」
ベーネの言葉にジルクートがふっと笑った。
「この剣は特別だと聞いている。本来であれば認められた従士が授かる剣だ。職人が打つ剣とは違い、神秘で織られた剣。持ち主の意志と繋がっている分身のような剣だ。なぜ、我々のような新米が下賜されたのかは謎だが」
「神秘で織られたとか胡散臭いぞ。だけど、あの信じられない幻影を見た直後だと信じてもいいって思うのが恐ろしい」
ベーネの言葉にウィリアムも頷いて頬を掻いた。
「丸一日寝てたってことだからな。それに、俺たちが起きたとき、卒業生の全員がいたわけじゃない」
「まぁ、深く考えてもしかたないだろ」
「珍しく、ベーネに同感だ。この世にはエクエスという超越した力の持ち主もいれば、魔具を操る魔法師もいる。モルゲンレーテの星官は魔法よりも優れた神秘使いが――」
「わかったわかった、講義はまたの機会にしてくれ。それよりもお前らにはやるべきことがある」
二人は首を傾げた。




