想定外
「あ〜クイックはえーなー
っぱ高校生は野球の密度が違うわ」
「もっかい巻き戻してくんねー?」
2日間の練習を終えたチームは明日の沖縄商学との
練習試合を見据え鷹宮、白鳥の部屋で数名が
集まり作戦会議をしていた。
見ているビデオは今年の春センバツの映像だ。
一輝、北島、剣心、比嘉はテレビに食いついて見ており、その後ろで大吾、良平、新垣、白鳥、迫
がババ抜きをしていた。
「お前らなんでこの部屋におんねん。
邪魔やから星の部屋でやれや」
部屋の主である鷹宮が部屋のドアの真横で嫌そうな顔をしてそう告げる。
鷹宮の言うことを他所に各々が話し合っていた
「ちっ...お前は参加せんのか?」
「あっ?あぁ...明日出るか分からないから」
鷹宮の質問に同じくその光景を立ってみていた
焦斗が返す
「ふーん」っと鷹宮は何かを察している様に
言う。
「この下地っていう2年のピッチャーエグいわ。
130後半の真っ直ぐなのにタイミング取りずらそうや。星打てそ?」
「んー!打席に立たねーとわかんねーな!
あーあー!打席立ちたいですなー!」
「まだ拗ねてんの?ガキかよ」
比嘉言葉に一輝は立ち上がり叫ぶ
「ガキだが?!北島お前あんま目立つなよ!
俺が出れなくなるからな!」
「ひでぇーこと言うわほんま」
「はっはー!北島はえぇキャッチャーやからな!代表試合はほぼ北島が被るかもしれんなー!」
「なんだとコノヤロー!」
肩を落とす北島に大吾がそう言うと
一輝が掴みかかるが、簡単に技をかけられる
部屋汚すなよと鷹宮がキツめに注意するも
それさえも聞こえていない様子だった。
「まぁまぁ。星に出番が回らないわけ無いだろ
逆に俺が代わってやりたいよ」
そう話すのは、名古屋ボーイズ、鬼頭修也。
名古屋ボーイズは今年の夏の選手権大会で
天王ボーイズを下し日本一になったチーム。
そのキャプテンが鬼頭だった。
一輝は鬼頭と面識はなかったが、大吾の紹介で
話す程度には打ち解けたのだった。
「鬼頭〜。そら嫌味にしか聞こえねーぞ」
「嫌味じゃねーよなー?鬼頭は良い奴だ」
「ははは...」
迫の発言を遮るように一輝が鬼頭に肩を組む
その光景を鷹宮は少し不服そうに見ていた時、
バァン!っとドアが開かれる
「みんないつまで起きてんの!
明日試合なんだから早く寝てください!」
結だ。隣には明里もいる。
風呂上がりなのか髪を下ろしている
「あぁー?いーじゃん〜
せっかくのお泊まり会なんだから....はっ!」
一輝がそう言った瞬間、部屋にいた数名が
なんかモジモジしていたのに気づく。
普段とは違う湯上りの格好の女子マネを前に
思春期全盛期の中学生が冷静でいられる訳ない。
そんな空気を悟り一輝は立ち上がり結に詰め寄る
「わかった。もう解散するから。ほらでてけ!」
「えっ、確かにこんな機会ないしババ抜きとかなら参加しても...」
結が言い終わる前にドアをパタンと閉める一輝
その一部始終を見ていた鷹宮がニヤつきドア前にいる一輝の前に立つ
「朝日ちゃんに聞きたいことあるわ
ちょっとオハナシしてくるわ」
ニヤつきながら言う鷹宮に一輝は手を突き出し
告げる
「まて!結に直接話しかける前に要件を
俺に言ってからにしろ!」
「どこのマネージャーやねんお前」
ふたりがそんな会話をしていると、部屋にいた
者達も立ち上がる
「んじゃ〜...俺らも行くか〜」
「お、おお。早く寝ないとな。」
不審な動きでゾロゾロ出ていこうとする皆に一輝
が再びストップをかける
「待て待て待て。こんなガタイのいい奴らが
イキナリ部屋からゾロゾロ飛び出してきたら他の客に迷惑がかかるだろ。五分くらい待ってから
解散しよう」
「他の客ってここ旅館じゃねーしいねーよ」
...
翌日、沖縄センター第1グラウンド
アップを終えた選手達がベンチ前に集まっていた
相手ベンチには自分達より体の大きい高校生達が
並んでいた。
「うわぁ...みんなでかい」
「そぉ?ボクにはみんな同じくらいにしか
見えないね」
「長房君は元々でかいからそう思うんだよ...
僕なんてチビだからみんな巨人に見えるよ...」
素振りをしていた剣心と長房がそう話していた
「やっぱカンロクあるよな〜!
甲子園出るようなチームの選手はみんな強そうだ!」
「なんだその馬鹿みたいな感想は」
沖縄のW投手の新垣と比嘉も話していた
「来年俺らもあそこに加わるんだよな!
ワクワクすんなぁ!琉太!」
「俺はな。お前は特待S取らない限り成績的に
島流しだろ」
「沖縄以外の島にか?!」
2人が漫才のような話をしている最中、相手校の
監督と智幸がホームベース前で話をしていた
「照屋さん!わざわざありがとうございます。
練習試合にOK出していただいて」
「いえいえ、あの朝日智幸要するボーイズ代表
メンバーですからねぇ。
こちらも勉強になりますよ」
そう話すのは沖縄商学高校監督、照屋直弼。
「こちらとしても、比嘉と新垣は来年ウチに
入学する可能性がある。それを肌で実感できるのは大変ありがたいコトですよ」
「はは〜」
固い握手を交わし両監督がベンチへ下がる
照屋がベンチへ戻ると素振りやキャッチボールを
していた選手達がバッと集まってくる
照屋はニコニコしながら言う
「お前ら、一個下だからといって手を緩めることはない。毛も生え揃ってない中坊に高校野球ってのを教えてやれ」
「「はいっ!!!」」
ー代表ベンチー
「舐められてんぞ。お前ら」
智幸のその発言に選手達に緊張が走る
「あっちは親善試合って言ってるが
あの照屋の事だ。マジに勝ちに来ることだろうよ。」
そう言う智幸の発言に選手達は息を飲む
「高校生だろうがなんだろうが関係ねぇ。
お前らがボーイズ代表だ。俺へのアピールじゃなく勝つことに専念しろ。
いいか?本番もそうだが今日の試合も明日の
U15の試合も...俺は全て勝ちに行く」
その強気な発言に何名かが口角を上げる
「行ってこい!!」
「「しゃぁぁ!!」」
...
「これより沖縄商学高校対ボーイズ代表チームの試合を行います!双方礼!!」
「「しゃぁぁす!!」」
先行ボーイズ代表チーム。
後攻沖縄商学で試合が始まった。
〜一輝視点〜
沖縄商学高校の先発は長身右腕の砂川さん
身長187cmの海みたいに大きな人だ。
バッターボックスにいる迫と比べると
学童野球の親子対決みたいだ。
まぁ、こっちにはそれよりデカいのがいるんですけどね...
「ん?ナニ?」
「あぁ...いやなんでもない」
チラッと長房の方を見たのがバレたらしい。
親しくなった中でもまだ少し怖いよ。デケーし...
俺と長房が話していると、ミットの乾いた音が
耳を劈く。
高いところから振り下ろされた真っ直ぐが
ミットに収まっていた。
球場の電工掲示板には138キロと出ていた。
焦斗や泉、長房で感覚麻痺ってたけど
高校生で130後半出すのって普通にえぐい。
俺がそんなことを思っていると相手キャッチャーが野手に声をかけセカンドへ送球する。
肩はそこまで強いわけでは無いが取ってからが
速い。高校生レベルを入学前に体験出来るのは
俺ら中学生としても非常に価値がある。
俺ベンチだけど...
俺がやさぐれていると1番の迫が打席に入る
いつも通りクールな面持ちでバッターボックスに
穴を掘り立ち位置を決めている。
対面する投手砂川さんはグッと体に力を溜め
1球目を放る。
審判が手を挙げストライクコールをした。
迫は手が出なかったのか見極めたのか分からないがそれを見逃す。
横から見た感じあれはストレートだ
多分打席での体感速度は更に上がるはずだ。
これは一筋縄では行かない...
そう思った俺の不安を迫は払拭してくれた。
2球、3球とストライクゾーンのボールを全て
カット。ボール球も誘いに乗らず見逃し
カウントは2ストライク3ボール。
去年の秋もそうだったが選球眼と相手投手を
疲労させるのが上手い。
最後はアウトローを見逃すが審判が手を挙げ
見逃し三振となった。
迫は不満そうな顔もせずバッターボックスから
退いて行った。
「真っ直ぐは速いけどそこまで伸びはない。
カットボール、ツーシーム、スライダーの組み立てだ。」
「...やるやんけ。8球投げさせれば上出来や」
迫の耳打ちに鷹宮はなんだか満足そうだった。
「簡単にやられるなよ」
「誰に言っとんねん」
そう言い鷹宮は不敵な笑みを浮かべ打席へ向かっていった。
先頭打者に10球近く投げさせられたらバッテリーは溜まったもんじゃない。
そう言ういやらしい野球は迫の得意なのだろう。
ベンチへ戻ってきた迫が先程の鷹宮に伝えた
ように皆に投球テンポ、球威球速、球種の全てを
伝える。
「高校生どーだったん?」
「変化の曲がりも鋭い。簡単に打ては...」
大吾の質問に迫が答えようとした瞬間
球場に金属音が響いた。
ベンチに居るメンバーはその音に釣られ
バッと顔をグラウンドに向ける。
「バックセカン!!」
キャッチャーがそう叫ぶ
打球はショート頭上を超え左中間を真っ二つ。
初球を鷹宮が捉えていたのだ。
左打席から駆け出した鷹宮の足は早かった。
レフトが捕球した頃には既に一塁ベースを
蹴っていた。
「舐めんな中坊!!」
レフトがそう叫び中継へ送るが、鷹宮は
スライディングもせず2塁へ到達していた。
「うぉぉ!!鷹宮ー!!」
「ナイスバッティングだコノヤロー!」
盛り上がるベンチとは裏腹に初球を完璧にアジャストした鷹宮に迫は少し不満げだった。
俺は迫の肩に手を起き
「お前が球筋見せてくれたおかげだな」っと
言うと迫は少し表情が和らいだ。
ヘルメットをカポッとはめた大吾が続く
「その通りや。迫は最高の仕事をしてくれたんや。後は俺らがそれに答えるだけや」
カァァン!!
そう言う大吾を背に3番の那須野良平が鋭い当たりを放つ。
2塁にいた鷹宮はその打球を見て足を緩め、
レフトはその打球を見上げていた。
良平の打球はレフトフェンスを超えるツーラン
ホームランとなったのだ。
腕を空に掲げながらベースを一周する良平。
練習試合といえど代表チーム初本塁打だ。
チームは大盛り上がりを見せていた。
「しゃー!俺がいちばーん!がはははは!」
「調子乗んなよ那須野!でもナイスバッチだ!」
再度巻き起こるチームの活気。
ヘルメットを置き何事も無かったようにする
鷹宮に俺も声をかけるが「まだやろ」っと
言われる。その言葉の意味を理解できていなかった俺はすぐに意図を理解する。
先程よりも大きな金属音が響く。
打たれた投手は信じられないと言う表情を浮かべていた。
ガササッ!っとライトフェンスを超えた打球は
行方を失った。
代表チーム4番、藤大吾の特大アーチで更に
点差を突き放したのだった。
ご視聴ありがとうございました!
次回更新は3/11、19:00〜です!




