千葉から来た巨人
「名残惜しいがまたすぐ戦える。ジャイアンツカップは出るんだろう?」
球場の前で荒浪が結にそう尋ねる
「ううん。桑山うちは例年通りジャイアンツカップはメンバー外の3年生と1.2年生主体で出るよ。基本的に春夏秋の全国大会を見据えてるからね。」
「そうか。ならば秋季大会で...だな。」
「うん。荒浪くんも頑張ってね」
結と荒浪が会話を終え、
各自帰宅の命令だったが俺らは昼食後
第2試合の瀬田ボーイズと中附ボーイズの試合を
見て帰ることにした。
ミーティングや昼食でかなり時間をオーバーしてしまったが
まだ球児たちの声が聞こえるしやっているだろう外野席に入ると目にスコアボードが入ってきた。
7回表6-0。負けているのは瀬田ボーイズだ。
いや、それよりも早い。早すぎる
まだ1時間と少ししか経っていないというのに。
パァーーン!!!
スコアボードを唖然と見ていたら
破裂するような音がグランド内で聞こえた。
音のする方に目を向けると
瀬田ボーイズの4番、喜田が空振りをしていた。
マウンドに目を向けるとそこには遠目からでも
でかいとわかる投手がいた。
再びスコアボードの方に目を向けると球速は137kmと出ていた。
「な、なんだよあいつ...」
「あの子が今大会、いや多分今のボーイズリーグで1番大きいと言われてる中附ボーイズの長房泰斗くん。190cmの超大型2年生...」
結が説明をする
「結が言ってたのあいつか...」
「うん...今大会毎試合ノーノー...」
ズッ...ボッ! パァーーン!!
デカすぎる。スケールが違う。
同い年には思えないデカさだった。
足をあげるだけで風が起こりそうなダイナミックな投球ホーム。そこから振り下ろされる長い腕。
試合はその後何も起こることもなく、
中附ボーイズが勝利で終わった。
試合後、喜田の居る3塁側ベンチ裏に行こうとしたが辞めておいた。
とても冷静に話せる負け方じゃない。
帰ろうと階段を降りると、喜田が居て、「何か」に話しかけていた。
「今日は完敗だが秋季大会じゃぁぜってー負けねぇからな!!」
いつも通りの喜田で少し安心した時
その「何か」も口を開く。
「才能も無い奴が何言ってんの?
そういう強気な態度でどれだけ吠えても
今日の試合が変わることなんてないし君の無様な負け方が変わることも無いよ?
3年生が試合できることもない。
分かったらそこどいて。帰るんだから。
小さすぎて蹴飛ばしちゃいそうだよ」
長房だ。長房泰斗。一瞬、喜田がご乱心で
自動販売機と話してるのかと思った。
「なんだとテメェ!」
再び喜田が突っかかる
「何?ケンカ?ケンカしたいの?
良いけど泣いても知らないよ...」
長房が見下したままそう告げる
「お、おい!やめろって!」
俺は慌てて仲裁に入る。
「か...星...?」
喜田が驚く
「ん?ナニ?君。誰?」
「お、俺は桑山ボーイズ背番号12番星一輝!」
「12〜?補欠が僕になんの用?」
「ほ...補欠とか関係ねぇだろ!
試合後に問題起こそうとすんなよ!」
「え?説教?君みたいな豆粒が僕に?
ていうかなんで僕がそんなの言われないと行けないの?僕は絡まれたから正当防衛しようとしただけなんだけど?」
「それは...そうかもしれない。喜田が悪いかもしれないけど暴力はダメだろ!
今後の野球人生に影響が...」
「才能の無いカスの野球人生なんてどうでもいいでしょ。それに何熱くなってんの?
たかだかスポーツでさ。
あぁ、才能が無いのに頑張ってる自分かっこいいとか思ってるの??」
「な?!」
「あーーやる気失せた。帰る。」
「!待てよ!!」
振り返る長房を俺が引き留めようとした時
「一輝!!」
焦斗の声に一輝は我に返る。
「こんなとこで揉め事なんて起こすな。
先輩たちの夏を台無しにしたいのか??」
「一輝...もう帰ろう。喜田君もさ。ね?」
焦斗と結の静止に頭を冷やす俺と喜田
「...」
「はぁ〜...じゃーねーおチビ軍団。
桑山って次の試合相手だもんね。
試合で生まれ持った「差」ってのを分からせてあげるから。」
スタスタと歩きながら長房が挑発を続ける
俺は冷静になりながらも、一言言い返す
「...そうだな。試合だな。その時今日の決着つけてやるよ!覚悟しとけよ!長房泰斗!!!」
長房は振り返らずそのまま歩いていく。
「ほら、喜田、飲み物。」
「あぁ...さんきゅー」
「そんなに落ち込むなよ!まだ秋も来年もあるんだからさ!それまでに沢山練習して...」
「俺さ、小学生の時チビでよ。
背の高い奴とか羨ましくてよ...中学に上がって
身長伸びてこれでやっと他の奴らに追いついて
逆に小さい奴らのことバカにしてたんだ。」
「うん。俺もお前のことチビとか言ってたし。
ごめん...」
ハッとして喜田に謝る俺
喜田は笑いながら続ける
「まぁ、あれは冗談ていうか俺らの定番みたいなもんだから気にしてなかったんだよ。
それでも今日アイツみたいなでかいヤツに才能?ってやつの差を見せつけられるとよ...」
「お、お前も全然才能あるよ!」
「はは。打席に立ってアイツの球を空振りした時、お前と天野のバッテリーを思い出してよ...」
「喜田...」
「俺ら2年はこれで最後って訳じゃねぇーけどよ。
頼んだぜ。天才対決ならお前らに勝って欲しいんだ。俺。」
「...」
「じゃーな。頑張れよ。」
喜田はそう言い、球場を後にした。
帰り道、いつもの3人で帰ってたが
誰も何も話さず歩いていた。
すると焦斗が口を開いた。
「...あいつデカかったな。」
俺は「あぁ。デカかった。」としか言えなかった
「身長...
それだけでスポーツの有利不利は決まるからな」
「...それでも負けていい理由にはならねーよな。
荒浪の分も...喜田の分も...
なにより3年生達の為にも。」
「...あぁ。俺が全員切り伏せてやるよ。」
「まず投げれるように祈っておけよ。」
「うっせ。」
とぼとぼ歩きながら、俺らは各自家路に着く
6.14 AM10:30 ジャイアンツスタウン
「両チーム整列!!」
「行くぞぉー!!」
「「「しゃぁー!!!」」」
決勝が始まった。
整列中、1人だけ頭抜けてでかいヤツがいた。
「1週間いっぱい練習した?
まぁ何も変わらないけど」
相変わらず挑発するように長房がそう話す
「言ってろよ。勝つのは俺らだ。」
俺がそう言うと不敵な笑みを長房が浮かべる。
「例!!」
「「お願いします!!!!」」
西東京ボーイズリーグ予選決勝が始まった
ご視聴ありがとうございました!
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