エピローグ
ひかりちゃんが逮捕されたことで、またしばらく学校は休校となってしまった。
しかも今回は一週間。
その間、先生たちはマスコミなどの対応に追われていたらしい。
特に二年生の学年主任の先生なんてストレスのせいで入院してしまったほどだ。
まあ朝倉くんの話だから、話半分に聞いていたほうがまだマシといった感じだろう。
それから、一ヶ月経った私たちの近況を話しておきたい。
あかねちゃんはしばらく不登校だったけど、今では元気に学校に来ている。
だけど、中庭でご飯を食べたりすることはないらしい。
クラスのみんなが慰めてくれているようなので、新しい友達と一緒に教室でご飯を食べているようだ。
阪本先輩は文学部部長をやめて、帰宅部になった。
なるべく学校に居たくないようだ。
今では早めの受験勉強に勤しんでいるようだ。
ひかりちゃんのその後は分からない。
裁判にかけられるだろうけど、それがいつになるか分からない。
分からないことばかりだけど、多分未成年だから女子少年院に入所すると私は考えている。
願わくば一生、罪を償ってほしいと思う。
そして、私はというとクラスから孤立していた。
まあ当然かなと思う。
犯人が明らかになったのと同じくらい動機がみんなに知れ渡った。
だから、あきらちゃんを殺したのは私の責任だと噂されている。
それも当然だと思った。
朝倉くんが最後に庇ってくれたけど、やっぱり私が原因だと私自身そう感じているのだ。
だから、クラスから孤立している現状を受け入れようと思う。
被害妄想が過ぎると自分でも思うけど、それくらい人の命は重い。
そう、受け入れているのだ。
ああ、それと朝倉くんは何も変わりなかった。普通に登校して普通に授業を受けて普通に下校している。
私よりも酷い扱いされているのに、メンタルが強いんだなあと感心するほどに強靭だ。
憧れはしないけど。
そんな朝倉くんに私は勝手に恩を感じていた。
事件を解決してくれた恩。
だから私は文学部をやめて哲学部へ入部したのは自然の流れといえば自然だ。
「……よくもまあ、入部しようと思ったね」
朝倉くんは呆れながらも入部届を私に差し出す。
「ちょっとね。私にも思うところがありまして」
「まあなんでもいいけど。これ書いたらぼくが顧問の先生に出しておくから。あ、あと浅井さんは副部長だからね」
入部したてで副部長になってしまった。
二人しかいないのだから当然だけど。
「それじゃあ教えてよ。真相を」
私は朝倉くんに訊きたいことがあったのだ。
「真相? 何のことかな?」
「野球部の事件とサッカー部の事件の真相。入部したら教えてくれるんでしょ?」
「誰にも言わないなら、教えてあげるよ」
私は「うん、誰にも言わない」と深く頷いた。
「野球部の小火はぼくが放火したわけじゃない。野球部の人がタバコを吸って、それが原因になって起きたんだ」
「……はあ? じゃあなんで朝倉くんのせいになるわけ?」
「学校側と取引したんだ。ぼくのせいだと噂を流す代わりに、哲学部で好き勝手やっていいってね」
朝倉くんはあっけらかんと言った。
「それにたまたま小火の現場にいたし、これは使えると思ってね」
「まあ学校でタバコなんて吸っていたら、学校の責任問題になるってことでいいの?」
「うん。ていうより入学希望者が減ってしまうかもしれないし」
上手く利害が一致したわけだ。
「サッカー部は? どうやって疲労骨折させたの? まさかそれも誰かの仕業?」
「サッカー部の顧問の先生が無茶なトレーニングメニューを考えて、それを真面目にこなした部員が案の定、疲労骨折したってわけ」
「……それも交渉して何か手に入れたの?」
「サッカー部の顧問の先生は哲学部の設立に反対していたから、それもぼくのせいってことにする代わりに賛成側に回ってくれたんだ」
じゃあ、あきらちゃんの警戒は間違っていたんだ。
なんだか、やるせない気持ちになる。
「話はこれで終わりかな? それじゃあ、やろうか」
「何をやるの?」
「決まっているでしょ」
朝倉くんはにっこり笑って言う。
「哲学を始めよう」
こうして私の運命を大きく変えた、変人哲学者との出会いの物語は終わった。
いや、始まったというべきかな?
とにかく、これから二年間、私は様々な事件に巻きこまれながら、哲学をしていくことになる。
はたして、世界は、ちっぽけな私たちに解答を示してくれるのだろうか。
その答えは、まだ見つかっていない。




