053●静雷(せいらい)
「ついに完成だ!」人型形態をとっているリョウマが、嬉しそうに言った。
「量産は可能か?」ロイが尋ねる。
「はい、インフィニティであれば、技術的にもスペース的にも、問題はありません。万一、製造工程を誰かに見られたとしても、また、部品や完成品を持ち去られたとしても、この世界線のこの時間軸のヒトには理解できませんから。」
この矢を作るため、まず電力源が開発された。
それは、カーボンナノチューブ(CNT)を基材とした極薄のシートに、
リチウムイオンを層状に配置したナノカーボンバッテリーである。
これにより、矢の先端に収まるサイズでありながら、高い出力を実現している。
さらに、瞬時の高出力を可能にするため、
常温で機能する特殊な超電導コンデンサが統合されている。
このコンデンサは、蓄電されたエネルギーを
ミリ秒単位で放出することで、電撃の瞬発力を支えている。
矢の先端には圧電素子が埋め込まれており、
命中時の衝撃を電気信号へ変換するセンサーとして機能する。
この信号を受けて、窒化ガリウム製のチップが昇圧回路を作動させ、
電圧を数万ボルトまで急激に引き上げる。
矢尻は、複数の電極を持つ半球状であり、人体に突き刺さることはない。
電極間には、接触時にプラズマを発生させるイオン化粒子が仕込まれており、
標的の皮膚や装備に放電チャネルを形成する。
つまり、矢が命中した瞬間に電気抵抗を測定し、
相手の装備に合わせて電圧を自動調整するのだ。
放たれた高電圧のパルス電流は、鎧の表面を迂回し、体内へと流れ込む。
その結果、相手の筋肉だけを強制的に収縮させ、
命を奪うことなく、その動きを完全に封じる。
この矢は、放電によって内部構造が損傷するため、
一度の使用で機能を終える使い捨て兵器である。
再使用は不可能であり、その一撃にすべてを賭ける設計思想は、
雷のように一瞬で対象相手を制圧する。
雷神の力を宿した矢は、命を奪うことなく、攻撃対象を制圧するのだ。
「この世界線の物質で、よくできたものだ。」王虎が感嘆する。
「まあ、惑星を形成する物質は、だいたいよく似ているからな。ここまで来るのには、製造機械やエネルギーの確保のほうが、難しかった。」
「そうだな、リョウマは初期段階から関わったからな。いい仕事をしたな。」
「ムサシにそう言われると、照れるね。」
「それで、マイロード、この矢の名称はどういたしますか?」
ロイは微笑みながら、矢を手に取った。
そして静かに言った。
雷のように、一瞬で敵を制圧する矢・・・‘静雷’と。




