047●特異点を穿つ
エンジェラム星間連合・量子重力戦術 観察記録 星雲域民の存続のため より
宇宙は沈黙していた。
だがその沈黙の中心に、重力の咆哮があった。
ブラックホール。質量太陽の十億倍、時空そのものを引き裂く存在。
それは、星々の死骸を飲み込み、文明の記憶を消し去り、
神話すらも沈黙させる‘終焉の中核’だった。
だが、’ジュピター’に恐れはない。
なぜならそれは、神の領域に干渉するために造られた艦だったからだ。
プランク共鳴砲‘オルフェウス’、起動
艦内に響く、重低音のような共鳴。
‘オルフェウス‘が、時空の織り目に干渉する波動を発し始める。
ーマイロード、共鳴波、臨界到達。特異点の量子構造、解析完了しました。
彼は、静かに命じた。撃て、と。
崩壊の前奏曲が始まる。放たれたのは、
光でも粒子でもない、時空そのものを震わせる波だった。
それは、ブラックホールの中心にある特異点の固有振動数に完全に一致していた。
一瞬、宇宙が凍りついた。
次の瞬間・・・
ブラックホールの事象地平面が内側から爆ぜた。
重力波が逆流し、周囲の空間が光の奔流に包まれる。
特異点は、量子的な崩壊連鎖を起こし、自己を支える構造を失った。
それは、まるで永遠の命を持つ聖樹が、轟音とともに倒れるかのようであった。
ブラックホールは、完全に消滅した。
残されたのは、真空の静寂と、’ジュピター’の艦影だけ。
これから、彼と’ジュピター’は、神をも穿つ力を、何のために振るうのだろうか。




