030●逃げる敵を追う
ボレリアからの挑発もあり別働部隊の合流を待たず、
夜明けとともにラベリア軍は攻撃を開始した。
高い士気、優秀な百人隊長たち、そしてそれらを指揮する熟練のゴンザレス将軍。
今やヴァルター将軍に並ぶ猛将と称されている。
「なんだ、ボレリア。数が多いというのは、我らを牽制する偽情報か。確かに、僅かに兵は多いようだが、物の数ではない。圧倒するぞ! 全軍、突撃!」
雄叫びとともに、両翼の騎兵が突入する。
正面の重装歩兵も抜かりなく進軍する。
カンナ平原の戦いでは、押し込んだつもりが包囲された。
苦い記憶がラベリアを慎重にさせる。
だが、その勇猛さは変わらない。
騎兵は第一撃を与える。
ボレリア軍は後退・・・というより、背を見せて敗走する。
ゴンザレスは失笑した。
「策も何もないではないか。逃げ足だけは速いな。それしか能がない。追うぞ!捻じ伏せてやる!我らの勝利だ!」
平原はやや背の高い草が生い茂る地点に入る。
ゴンザレスは構わず追う。戦いは勢いに乗ることが肝要だ。
ボレリア兵は弓の射程のぎりぎりを走り、逃げている。
もう少しだ・・・。そのとき、ラベリア軍の左右から矢が飛んで来る。
「なんだ? 待ち伏せか? 小賢しい真似を!」
「将軍、背後からの攻撃が!」
「正面に布陣する敵兵部隊があります!」
偽装退却。
それは意図的に敗走を装い、敵を誘導して陣形を崩させる戦術である。
敵が追撃に乗じて隊列を乱した瞬間に反転攻撃を仕掛け、
混乱した敵を包囲・撃破する。
特に高い統率力を持つ部隊に効果的であり、
心理戦の要素が強く、戦局を一変させる力を持つ巧妙な戦術である。
「いつの間に、負けていたのだ? わからん。何が起きたのだ?」
ゴンザレスは武装解除された兵団の中で、
混乱した自分を落ち着かせようとしていた。
陽はまだ中天に差し掛かっていない。
空は青かった。
ラベンダー伯爵の手紙には、
詳細な戦術と、事前に行った訓練の意義についての説明があった。
手紙は次の言葉で締めくくられていた。
「カンナ平原での戦術を、もっと大規模にするだけだ。大丈夫。自信を持て」と。




