日本ダンジョン研究所
早乙女霧生は、ダンジョン研究者だ。今もダンジョンのドロップアイテム、その実験の合間。休憩時間に、NDR……日本ダンジョン研究所の入口に飾られたアイナスの石板を見あげていた。片手に持ったマグカップには湯気が立つコーヒーが入っている。休憩も兼ねているので。
そんな霧生に気づいたのか、大荷物を抱え通りがかった後輩が呆れたように声を掛ける。
「早乙女先輩、また石板見に来たんですか?」
「もちろん。異常があったら困るしね」
「異常って言ったらこの石板自体が異常なんですけど……」
「……僕はこの石板が神の持ち物ではないかと疑ってるんだ、神の見えざる目によって見張られ手によって常に更新されているんじゃないかと。じゃないと面白くないからね」
「面白いって、また悠長な。こんな呪われた石板を持ってるなんてどんな神様なんだか」
「あはは、高次元のものの所有物に触れたから、ましてや暴こうなんてしたから、あんな事が起こった、と僕は思っている。ようは神罰みたいなものかな、なんてね」
六大ダンジョンを抱える各国には、ラヴクラフトの石板……日本では別名アイナスの石板がある。
それはその国ごとに違い、国の全てのダンジョンが系譜ごとに分かれて樹形図のように色水晶の下に名前が描かれているものだ。これは作ったものではなく、ダンジョンに一番最初に潜った軍や自衛隊の者が持ち帰った。
しかし持ち帰ったもののリストの中にこの石板はなく、一体いつ、どこで手に入れたのかわからない代物だ。
だが、不思議なものでこの石板は常に更新されているようだ、と最初に気づいたのは水の大規模ダンジョンを抱える日本のダンジョン研究者だった。
その事に気づいたとき、何者が石板を更新しているのか、どうやって更新しているのか、そもそも何で出来ているのかを調べるべきだという声が上がった。当然のことだろう。しかし、それは調べるに至らなかった。
なぜなら、石板について研究を始めて三日で、研究者が失踪したからだ。
他にも三日、という区切りで精神に異常をきたし狂ったり、自分の指を食べ始めたり、同じ研究者を殺そうとしたり。
これは調べてはいけないものだ、という認識が根付くのに長い時間はかからなかった。それからは、ただこの石板の恩寵を受けている。
この石板、ダンジョンと名前が書いてあるだけでなく、そのダンジョンが踏破されれば水晶が割れる仕組みになっているらしい。そう気づいたのは、光の大規模ダンジョンを国に持つスイスだった。軍隊が踏破を確認した小規模ダンジョンの水晶が割れていたらしい。
「まだ大規模ダンジョン、攻略できてないの日本だけなんですよね……。他の小規模ダンジョンも二つしか割れてないし」
「なあに、焦ることはないよ。そのうちなんとかなるさ」
「でも他の国のマウントが激しいんですよ。あっちは軍人がいるけど、こっちは民間人ですよ? 差がでるのも仕方な、って先輩聞いて「静かに」」
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