最下層
五階層、六階層と続き、最下層である七階層まできたスクナたち。
このダンジョンは最下層まではわかっている。しかし、最下層にいるモノが強すぎてクリアされていないだけだとネットには書いてあった。
本の階段を降りながら、スクナが複雑そうな顔をする。
「なんかさ、いまさらだけど本踏むのってちょっと複雑というか……」
「罪悪感がありますよね」
「そうよねぇ。本は読むものでSAN値を削るものだもの」
「本は楽しむものじゃねえんっすか? 楽しいからオールオッケーってやつっすよ」
「オールオッケーじゃないんだよ不心得ものが」
至極冷たい目のスクナに罵倒されて、照れるのがナイアだ。小さく舌打ちをして、スクナは無視の方向に切り替えた。ナイアは構えば構うほど調子に乗るから。そんな感じで階段を降りきった先。
昼間のように明るかった先ほどとはうって変わり、ぽつぽつと鉱石が発光する以外は明かりがなくなった開けた場所で。のそりと何かが動いた。
「よし、目星! ……失敗とかある?? 初めて使ったのに」
「では私も……91」
「目星どころかファンブルぎりぎりじゃん」
「わたくし、目星取っていないのよねぇ……あら、成功だわぁ」
「うちの出番は!?」
「そこになかったからないんだよ」
「『そこは草木の生えぬ、洞窟と同じ。黒い影がのそりと動く、それさえ本体には程遠い大きさしかない。虚ろな闇の中からこちらを光る瞳が覗いている。ドラゴンだ。ここに入ってしまったならば、捕食者となるか獲物となるかでしかない』だそうよぉ」
その言葉が合図だったかのように。鉱石の仄明かりしかなかったそこは、昼間の光を得てドラゴンの全貌を明らかにさせた。
そこで待ち構えていたのは、本で出来たドラゴンだった。
カラフルな表紙が鱗の代わりとなり、目の部分は落ち窪んで黒くなっている。口の中は、触れるだけで血が出そうなほど鋭い牙……もはや刃に似た歯が並んでいた。
背中にはワイバーンと同じコウモリの翼。桁違いの大きさだが、それも本で出来ている。
「わ、すごい。一体何冊の本が使われてるんだろう」
「確かに、壮観ですね」
「素敵だわぁ」
「えー、本なんて食ってもまずいだけじゃねえっすか」
「お前は少し情緒というものを考えろよ」
「本当に。……我らが父よ、あれはブラックブックドラゴンというらしいです」
「え、黒くないじゃん」
カラフルな鱗(表紙)を見ながら、不思議そうにスクナ。なにか仕掛けがあるのかとアイデア(85)でダイスを振る。そうすると、天啓のように頭の中に文字が浮かんできた。
「『すべての本には少しずつ隙間が空いている』?」
「アイデアですか?」
「うん。いやだからなんだよって話なんだけど」
「え?ブックブクドラゴンすか? どこらへん……あ、確かに下腹が出てるっすね! はみ肉が見えるっす」
「そういう意味ではないし、ブラックブックです」
「レディに向かって下……お腹が出ているなんて。失礼よぉ?」
「へ? あれメスなんすか?」
「知らないわぁ」
「知らないのかよ」
ついツッコんでしまったスクナだった。確かにレディだったら失礼千万なわけだが。相手もこっちもお互いを敵としてしか認識していない中、関係あるのだろうか。煽りとしてなら十分だが。
そもそもヨグが正しい。本当の名前はブラックブックドラゴンなのだから、ナイアの聞き違いである。
のそりのそりと緩慢な動きで、起き上がったブラックブックドラゴンは。おもむろに口を開けた。
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