第29話
「ひいっ…!?」
目の前から迫りくる圧倒的な死の恐怖に雄二が悲鳴を上げて後ずさる。
(走るゾンビ!?このままだと死ぬ!死んじまう!!)
幸運な事に雄二の手はまだ扉に触れたままの状態だ。
「ぎいいいいっ!!」
発声した雄二自身が驚くような悲鳴を上げつつ全力で目の前の扉を閉めた。
「「「「きょわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
「っ…!!」
ドガッ!ドガッ!とドアにぶつかる音が響き木製の扉がミシミシと悲鳴を上げる。
(どうする!?どうすればいい!?)
パニックになりそうな思考をまとめつつ雄二が周囲を見回す。
(ダメだ!使えそうな物はなにもない!どうする!?)
雄二の脳内に浮かんだ選択肢は2つ。
・諦める
・逃げる
「…っ!!」
扉から手を放し全速力で雄二が外へと逃げ出す。
「はぁ…っ!はぁ…っ!はぁ…っ!!」
(建物に籠城すれば何とかなるとかそんなレベルの段階じゃない。この施設周辺に居たら確実に死ぬぞ)
(一刻も早く脱出するんだ。この地獄から…!!)
「はぁ…っ!ふうぅ…っ!」
雄二が転がるように物陰へと身を隠す。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
息を整えつつ雄二が脱出経路について思考を始める。
「…山道まで逃げるか?」
(いや、それこそ自殺行為だ。バスで数時間かけて来た道だぞ?のんきにランニングなんてしてたら確実に食い殺される)
山道に徒歩で逃げるという案。これはあの走るゾンビを見た瞬間に非現実的なプランへと変貌していた。
「走れるやつもいる。今後はそれも念頭に入れておかないとダメだ」
「……」
冷静になり始めた雄二が落ち着いて周囲の情報を確認し始める。正面には大炎上中の施設。右側は大きな広場になっていた。
(広場の方はどうだ?…ダメだ。ゾンビ共の数が多過ぎる。正面からの突破は不可能だ)
「……」
雄二の視線が左側へと向けられる。
(駐車スペース、車、正面ゲート…いけるか?)
この施設から脱出するためには乗り物が必要不可欠。その結論を出した雄二が必死に使えそうな乗り物を探す。
「あれは……」
雄二の予想通り、車。そして何台かのバイクが駐車場に停まっていた。
「鍵さえ刺さってればそのまま運転して逃げられるかもしれない…」
(よし、やるか?)
「ああ。もうそれしかない」
雄二が物陰に隠れつつじっとタイミングを待ち続ける。
「…っ!!」
そして絶好のタイミングを見計らい雄二が駐車スペースへと走り出した。
「はぁ…っ!はぁ…っ!はぁ…っ!!」
(くそ…今日一日でどれだけ走ればいいんだよ……)
雄二が内心で悪態を付く。それでも走る足を止める事はしない。足を止めれば食い殺される。そんな強迫観念に取りつかれながら雄二は必死に駐車スペースへと走り続けた。
 




