謎のご令嬢、登場!
「何故貴方のような田舎者の庶民が、婚約者候補なのかしら。」
その瞳は、私に対する侮蔑と嫉妬に満ちていた。
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王妃様のお茶会の後、私はそのまままっすぐ魔研に戻る気持ちになれず、ふと視界に入った庭園の四阿に足を伸ばした。
道案内をしてくれた従者の人には帰って貰った。
ここでお待ちしてますって言われたけれど、いくら離れていても、やっぱり私の都合で時間を取らせるのは気が引けてしまう。
なるべくすぐ戻ります、道もわかってますからとなんとか説得してお帰り頂けた。
ただ、お気をつけてとものすっごく念を押されたけれど…。
そんなに心配されなくても、私、方向音痴じゃないんだけどなぁ。
それにルイ達がすぐ側にいるのはわかってるから、いざというとき万が一にも危険なんて起こる筈がない。
でも、そんなこと知らないんだもんね。やっぱり危なっかしく見えたのかもしれない。
私はふぅと1つ溜め息を吐き出し、四阿の椅子にもたれ掛かった。
『おい、大丈夫か』
妖精の姿でルイが私の目の前に顕現してきた。
そう言えば、こっちの姿を見るのは久しぶりかもしれない。
いつもは気配だけそこにいたり、人の形に顕現してることが多くて、ちびっ子姿のルイなんて貴重だ。
…それだけ、心配掛けちゃったのかな。
いつもごめんね、ルイ。
「…心配してくれて、ありがとう。
なんか、色々と考えさせられちゃってね。」
へへっと笑って誤魔化したけど、やっぱりルイにはバレバレで。
『無理して笑うな。
オレ達に気を使う必要はないだろ。
…あいつのことが気になるのか。』
私はそのぶっきらぼうで直球なルイの言い方に思わず苦笑してしまった。
「そりゃ、ルイにはバレバレですよね~。
…うん…なんか私が思ってたより、大事になってたなぁなんて思っちゃって。
当たり前のことだけど、私とディーだけの問題じゃないんだなって改めて実感したんだよね。」
出会ったのがシュヴァルトの森で、再会したのも私の地元サッシュの街中で。
聞いてはいたけど、ここに来るまでディーが王太子だということに実感が湧かなかった。
…というより、無意識に考えないようにしていたのもあるかもしれない。
けれど、魔研のことや、レイニー様や王妃様などディーの周囲の人からの話を聞いて、ディーの人となりを知るたびに、【ディースレイド殿下】という人物が遠い存在に感じてしまった。
私は、ディーにとって確かに今のディーになるきっかけを与えた存在なのかもしれない。
でも私がいなくても、ディーのような才能溢れる優秀な人は、いずれ今のディーのような才覚に目覚め、素晴らしい王太子になったと思う。
私がしたことなんて、ディーを魔の森から連れ出して、精霊についてアドバイスしたくらいだ。
……うん、こうやって考えるとほんと大したことしてないわ、私。
この世界に転生して、可愛い容姿にキャッキャして、魔法に感動して、のほほんと森の中で生きてきた。
自身の生い立ちに関わる両親からの爆弾発言なんてイレギュラーはあったけれど、王族の重責なんてものからは無縁の世界だった。
そんなド庶民街道まっしぐらな私が、ディーの婚約者?未来の王妃?
無理に決まってる。アリアに貴族社会のルールは叩き込まれたけれど、社交界に出たこともない私に務まるわけがない。
勤勉日本人の血が流れてる(正確には流れていないけど)私としては、万が一そんなことになったら努力はするけれど、どう考えてもお飾りの妻になるしか想像できない。
そんなの、私が許せない。
だったら、今まで通り、私の"第二の家族"と一緒に庶民の立場から街を、この国を支えるお手伝いをするほうがまだましだ。
それに………1番の問題はやっぱり血筋のこと。
私は、ディーの相手として、最も敵さない。
両親の事例もある。
折角ディーが作り上げたこの活気に満ちた国を、私が再び混沌に導くような真似、出来る筈がない。
頭ではわかってる。
ディーに嫌われるように仕向け、さっさとここから去るべきだと。
なのに、それが出来ないでいる。
この感情がなんなのか。はっきりとはわからない。わからないけど、知りたくない。【知ってはいけない】のだとどこかで警鐘が鳴り響いている。
だから、こんなところでモヤモヤと考えても仕方ないことに頭を悩ませているわけだ。
どうすることが正解なのかわからないまま、私は机に突っ伏してまたも大きな溜め息を吐き出した。
「あら、神聖なる王妃様の庭園にはしたないご令嬢がいると思ったら貴女でしたか。
やはり、庶民の娘は礼儀がなっていませんわね。」
ぴくり。
私は緊張感を走らせ、ゆっくりと顔を上げた。
「どなたですか。」
「あらあら、普通相手に名前を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀でしてよ。
まぁ、庶民の方は知らないのかもしれませんから仕方ありませんわね。」
わざとらしいくらいの溜め息を吐き、こちらを憐れみの目で見つめる知らないご令嬢。
「……私はマリエリアと申します。」
私はぴくぴくとこめかみが動いたけれど、なるべく笑みを崩さずに裾を持ち上げ令嬢の挨拶をする。
私の右隣で今にも怒り爆発しそうなアリアを制しながらの挨拶は意外と大変である。
左隣のルイは臨戦態勢だ。こちらも勝手に動き出さないかハラハラドキドキだ。
「わたくしは、ユーティア・ハーベイ。
ハーベイ侯爵の娘ですわ。」
こうしゃく…公爵…侯爵?
どちらにせよ、身分はかなり上らしい。
だからと言って、本来なら【私を知っている】はずがない相手だ。
「…わからないわね。確かに容姿は整っているかもしれないけれど。
何故貴方のような田舎者の庶民が、婚約者候補なのかしら。」
なのに、このご令嬢から出てくるのは、一部の限られた人しか知らない情報ばかり。
警戒するなという方が無理だ。
「…そうですわね。
私も不思議ですわ。」
「そう思うのなら、貴方の方から辞退なさればいいのよ!!」
まさかの逆ギレだ。
眉を吊り上げてこちらを睨むその姿は、綺麗な容姿だけれど、怖さしか感じない。
綺麗な赤いドレスに高価な宝石が散りばめられたネックレス。
あ、あの手元は魔石使用のブレスレットじゃない?…ほんとに、貴族で流行ってたんだぁ。
「……っっちょっと!!!
貴女聞いていらっしゃるの!?
…これだから庶民は…っ」
怒りやすいご令嬢だなぁ。
それに、庶民庶民て言い過ぎでしょ。
私は別にいいけど、お貴族様がそんな考えじゃ、真に国を導くなんて厳しいと思うんだけどな。
国ってのは、その庶民が大半を占めてるんだからさ。選民思考なんて、国を乱す要因にしかならないと思うよ?
「失礼致しました。
辞退について考えたことも御座いますが、殿下ならびに、王妃様より直々にお引き留めされまして、もうしばらくお世話になることに致しました。」
「……っっ!!!」
こういう権力主義の人には、より身分の上の者からの発言がものを言う。
案の定押し黙ってしまった。
ぷるぷると身体を震わせながら、彼女は気丈にも再び睨み付けてきた。
「あんたなんか…あんたなんか、ルルージェ様の足元にも及ばないんだから!!!!」
「…え?」
どこかで聞いたことがある名前に私は思わず反応してしまった。
「お止めなさい。
彼女はディースレイド殿下の賓客です。
無礼を働いて良い相手ではありませんわ。」
「…っ!!
ルルージェ様!
いつこちらに…!?」
ご令嬢の背後からやって来たのは、美しい瑠璃色のドレスを身に纏った、ルルージェ加工店の店主であり、製作者のルルージェさんだった。
ど、どういうこと!?
さて、お久しぶりです。
また間が空いてしまい申し訳ありません!!
今回、ライバル出現か!?というありがちな展開(笑)を入れてみました。
新たな登場人物を前に、マリーにどんな変化が訪れるのか、見届けて頂ければと思います。




