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7 解放

前回までのあらすじ


己が記録した力から、ミライ達を分身として再現し、アデル達にぶつけるゼノア。アデル達は辛くも分身軍団を撃破し、ゼノアの鎧を破壊する。だがゼノアの鎧は、彼の真の力を封じるためのものでしかなかった。

「!!」


 地下研究室にいたネリーは、巨大な力の出現を感じて振り返った。


「理事長先生」


「ゲイル達が危ないんだね? 行ってもいいよ。君のおかげで、手順が大幅に短縮できた」


 訓練生達の治療はとっくに終わっている。ネリーを引き止めていたのは、協力してもらうためだ。そして、それはたった今終わった。


「パパとママを助けに行かなくちゃ」


「私も彼らを助ける手伝いをしよう」


「ありがとう、理事長先生」


「お礼を言うのはこっちの方だよ。さ、行っておいで」


 その言葉を聞いたネリーは、瞬間移動で両親の元へ向かった。


「さて、それではこちらも、始めようか」


 エドガーは壁のレバーを引く。すると、奇妙な音が聞こえてきた。

 彼がこの学園を創立した最大の理由は、ゼノアとの戦いに備えるためだ。そしてこの八年間、さらなる準備を重ねてきた。第三次大戦で力を使い果たし、眠りについた旧神達を復活させる。そのためには、莫大なエネルギーが必要だ。この研究室にはさらに地下室があり、そこには小型のエネルギー炉が設置してあって、研究室と学園全体の道立源にしてある。一基で都市八つ分の電力を賄えるエネルギー炉を、十基。この八年でさらに十基、増設した。そして研究室の床には、巨大な魔法陣が描かれている。ネリーに作ってもらった、エネルギーを魔力に変換して旧神達に届ける術式だ。今引いたのは全部のエネルギー炉を最大稼働させ、電力をこの部屋に流し込むスイッチだ。あとは魔法陣が勝手にやってくれる。


「さぁ蘇れ旧神達よ!! この世界を救うために!!!」


 ゲイル達を救うため、エドガーはひたすら魔法陣に電力を送り続けた。











「こんなものではなかろう?」


 ゼノアは尋ねた。鎧を脱ぎ捨て、真の力を解放したゼノアは圧倒的だった。鎧がなくなって防御力が下がるどころか、防御力を含めた全ステータスが上昇するなど、ふざけるなと言いたくなる。あれだけの攻撃を叩き込んだ結果がこれなのだから、本当に、何かの冗談だと思いたくなる。だが、これは全て現実なのだ。そして、この悪夢が具現化したとしか思えない男を倒さなければ、世界は滅んでしまう。


「やらせねぇ。絶対にやらせねぇぞ……!!」


 立ち上がるレイジン。とはいえ、ゼノアの力は桁外れだ。このままでは、勝てない。


(使うしかねぇ!! 超究極聖神帝を!!)


 ゼノアの期待に応えるのは納得いかないが、ゼノアを倒すにはゼノアを超える力を使うしかない。究極聖神帝の力が通じないなら、それ以上、超究極聖神帝の力。それなら、相手がどれだけ強大な存在だろうと、確実に通じるはずだ。例えそれを使った結果人間でなくなったとしても、今ここでゼノアを倒さなければ、何より美由紀が殺されてしまう。


「ああ、その通りだ!!」


『まだ、こんなものじゃない!!』


 アデルも起き上がる。ゲイルとアンジェは叫ぶ。


「『ネリー!!』」


 その瞬間、ネリーが二人の背後に現れる。


「パパ!! ママ!!」


「ネリー!! セイヴァーモードを使うぞ!!」


 アインソフオウルモードを超える力、セイヴァーモード。こうなったら、それを使うしかない。


「いいんだね? パパ、ママ」


 ネリーは確認を取る。セイヴァーモードを使えば、ゲイルとアンジェは人間でなくなってしまう。しかし使わなければ、大切な人達が生きるこの世界が滅ぼされてしまうのだ。


「ああ」


『覚悟はできてるよ。それに私達は、ネリーと同じになるだけだから』


 構わない。ただ、少し存在が変わるだけだ。怖くない。だから大丈夫だと、二人は言った。


「廻藤輪路!!」


「何だ!?」


「あんた、まだ奥の手はあるか!?」


「あ、ああ……」


 アデルは一目見た時から、レイジンがセイヴァーモードに匹敵する強大な力を持っていると見抜いていた。そして、ゼノアの真の力と競った時、それが強力な浄化の力だとわかった。前にネリーから聞いたことがある。世界を修正する力である、強力な浄化の力があれば、セイヴァーモードへの変身の余波を抑えることができると。


「俺達は今から、奴を倒せるだけの姿に変身する。だが、その時の余波でこの世界を消し飛ばしかねない」


『だから、一緒に変身して欲しいの!』


 ナイア達が処理を施してくれているが、それでも不安が残る。しかし、レイジンの協力があれば、不安は完全に取り除かれるのだ。


「よし、わかった!」


 レイジンは了承した。


「「『エルピスシステム起動!! モード・セイヴァー!!!』」」


「神帝、超越聖装!!!」


 ネリーがアデルの中に吸い込まれ、アデルの翼が四枚に増えて、全身が黄金に輝く。レイジンが白銀の繭に包まれ、繭を斬り裂いて外に出る。かつて世界を救ったアデル セイヴァーモードと、超究極聖神帝レイジンだ。溢れ出るセイヴァーモードの力による周囲への影響を、超究極聖神帝の浄化の力が抑える。作戦成功だ。


「『『はぁっ!!』』」


「喰らえっ!!」


 アデルとレイジンが、武器を振るって光の刃を飛ばし、ゼノアがそれに呑み込まれた。


「そうだ」


 しかし、ゼノアは両腕を振って、自身を包む斬撃を吹き飛ばし、


「それでいい!」


 アデルを殴り付け、


「それと戦いたかった!!」


 レイジンを蹴り飛ばした。


「私の攻撃を受けてもさしたるダメージを負わず、戦闘続行は充分に可能。素晴らしい!! これで私も、ようやく本気が出せるというわけだ!!」


 二人の最強形態を目にして、ゼノアは怯んだ様子も見せず、逆に気分を高揚させ、二人に襲い掛かった。


「ギャラクティカショット!!!」


 ゼノアが拳を繰り出すと、拳から散弾銃のようにエネルギー弾が飛び散る。一つ一つはそれこそ銃弾並みに小さいが、全てが宇宙破壊の億倍以上の威力を持っているとんでもない攻撃だ。二人はそれを防ぎながら距離を取り、


「お返しだ!! ライオネルバスター!!!」


 レイジンがライオネルバスターで反撃した。


「ぬっ……!」


 それを片手で防ぐゼノア。今まで回避も防御もロクにしなかったゼノアが、明確に危険な攻撃と判断して防御した。先ほどまでとは大違いだ。


「ルルイエセメタリー!!!」


『シャイニングフェザーストーム!!!』


 アデルも素早く弾幕を張る。ゼノアはそれをバリアで防ぎ、次の技を繰り出した。


「ブリューナクレギオン!!!」


 ゼノアの目の前に、穂先が五つに別れた槍が、無数に出現し、光の千京倍の速度で一斉に飛んできた。ただ飛ぶだけでなく、穂先からエネルギー弾や光線、雷などを撃ちながら飛んでくる。アデルは武器をチャウグナルファングに切り替え、手を離す。二本の剣はネリーの魔術によって空中に浮かび、アデルはプライドソウルと剣モードのアークスを構えて、四刀流で突撃しながら、攻撃を弾く。


「レイジンッ……!!!」


「!!」


「インフィニティースラッシュ!!!」


「ぐああああっ!!!」


 アデルの撃破に夢中になっている隙に、レイジンが背後からレイジンインフィニティースラッシュを喰らわせる。あの巨体からあれだけ素早い斬撃が放てるというのは信じ難いが、とにかくレイジンは全ての技を問題なく使える。


「『『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』』」


「がはぁぁぁっ!!!」


 その間に全ての弾幕を叩き落としたアデルが、ゼノアを斬りつけた。


「……く、くくくく……」


 だが、


「はははははっ!!!」


 ゼノアは倒れない。受けたダメージを一瞬で回復させ、狂笑しながら二人に再び襲い掛かる。強い。この二人は、自分が思っていた以上に強い。様子を見るために二年待ったが、その間にアデルとレイジンは、さらに強くなっていた。


(私の二年は、無駄にはならなかった!!!)


 嬉しくて仕方がない。この強大極まる力が、自分のものになるのだから。


「ツインラグナロク!!!」


 ゼノアの両腕から、光と闇の二本のブレードが飛び出す。急拵えでありながら、プライドソウルやシルバーレオにも匹敵する、大業物だ。ゼノアが両腕を振るって繰り出す斬撃を、二人は受け止める。


「こんなものでは終わらんよなァ!? まだまだ楽しませてくれるよナァ!!?」


 力の記録と進化を重ねたゼノアの力は、こんなものではない。まだまだ、もっともっと強くなっていく。しかし、


「お前を楽しませるつもりはない。だが……!!」


「見せてやるよ!! てめぇを倒してやる!!!」


 二人にも無限強化能力があるのだ。今以上に強くなる。ゼノアを超えるまで。


「そうかそうか。まだ上があるか。ならば引き出してやる!! そしてその力を……!!」


 力の衝突が限界を迎え、両者は弾かれる。


「私に差し出せぇぇぇぇぇぇ!!! カオスラグナロク!!!」


 二本のブレードにさらなるエネルギーを込め、斬り掛かるゼノア。


「『『エンドオブソウル!!!』』」


「スーパーアルティメットレイジンスラァァァァァァァッシュ!!!」


 二人はそれを迎え討った。











 本来なら、この世界そのものがとっくの昔に消滅しているはずの戦い。いや、本当ならこの世界の外まで届き、数多の世界を消し去っているはず。それほどまでに激しい闘争。しかし、アデルとレイジンが、因果律の操作と、破壊の浄化を行っているおかげで、ゼノアの存在による歪みからも、戦いの余波からも、全ての世界は守られている。


「あやつら、なんという戦いをしているのだ……」


「これが、セイヴァーモードの力……」


 皇魔とレスティーは、唖然としてこの戦いを見ていた。いざという時に備えて鍛練を繰り返してきたが、今彼らはさらなる力の極致を目の当たりにしている。


「とんでもねぇとは聞いていたが、まさかここまでだったとは……」


「前にゲイル達が使った時は、あたし達消滅してたからわからなかったけど……」


「……すげぇな」


 狩谷と空子、ベルセルクは、以前アデルがセイヴァーモードを使った時、アデルのすぐ近くにいた。だがミライの最大の技、クロノクライシスによって消滅していたため、しかも狩谷と空子に至ってはゴーザとマヴァルとの戦いで疲弊し、気絶していたので、これを見ていない。


「全く、何度見ても私が思うことは一つだけですよ。私はこの力に、永遠に届かないと」


 唯一セイヴァーモードを間近で見ていたのは、ナイアのおかげで消滅を免れたビャクオウだけだ。


「あれが、超究極聖神帝……」


「究極聖神帝の、さらに先の力……!!」


 ウルファンとドラグネスは驚いている。ヒエンから話だけは聞いていた。レイジンが究極聖神帝をも凌駕する、超究極聖神帝に至ったと。


「あれが、黒城殺徒を倒した力!!」


「強い!! なんて強いの!?」


「ゼノア相手に、全然ひけを取ってない!!」


「まさしく、この世で最も清らかな戦士の体現者って感じだね」


「究極聖神帝については前々から聞いてたけど、まだ上があったなんて思わなかったよ」


 学生組は、もう勝利を確信しているようだ。


「まさか、またあの力を見ることになるとはな……」


「相変わらず凄まじい浄化の力じゃ」


「あんなに激しく戦ってるのに、私達に全然影響が出ない」


「輪路兄様は、やっぱりすごい……」


 超究極聖神帝の力を間近で見たことがあるのは、ヒエン、麗奈、瑠璃、命斗の四人だけだ。あの時と同じ、いや、あの時以上の力で、レイジンは戦っている。


「……あまり楽観視できる状況でもありませんよ」


 カイゼルは、危ういものを感じていた。優れた討魔術士である、ソルフィもだ。


「ゼノアの力が、だんだん二人を上回り始めています!」


 超高速無限強化能力を持つアデルとレイジン。しかし、現在進行形で強化され続けていることで拮抗している二人を、ゼノアの力が上回り始めたのだ。


「……さっきゼノアは本気を出すって言ってましたけど、私には、まだまだゼノアに余裕があるように見えます」


 ゼノアは恐らく、その気になればいつでも二人を倒すことができる。だが、まだそうしないよう、全力を出さないようにしている。美由紀には、そう見えた。


「助けなきゃ!」


「落ち着け!! お前があの中に飛び込んだら、一瞬で無に還されるぞ!!」


「私達じゃ、あの戦いに割り込めないよ!!」


 アデルとレイジンを助けに飛び込もうとする光輝を、アプリシィとさだめが片手を掴んで止めた。


「だが、このままでは……」


「ゲイル達が!!」


「俺達には何もできないのか……!!」


 ダークス、メイリン、室岡は悔しげに見ている。教師でありながら、卒業生とはいえ、生徒達を助けることができない。


「輪路お兄ちゃん……」


「ちっ、どうすりゃいい!」


 七瀬は困惑し、三郎は舌打ちした。ビャクオウやヒエンでさえ、あの戦いには割り込めない。そんなことをすれば、一秒と経たずに消し飛ばされるのは目に見えている。




「この野郎……まだ手を抜いて戦ってやがるな!?」


 レイジンはまだ、ゼノアが力を隠し持っているのを感じていた。攻撃すれば確かにダメージを負うし、危険だと判断して防御や回避を選択してもいるのだが、どうにもあしらわれている気がしてならないのだ。


「本気だが、全力ではないよ。私が全力を出せば、すぐお前達を消し飛ばしてしまうからな。せっかくここまで強くなったお前達を、そんな簡単に殺すのはあまりにもったいない。だからもっと追い詰めて、お前達がさらなる力を引き出すのを待っているのだ」


 真の姿となったゼノアを相手に、ここまで立ち回れる者はそうそういない。だからこそ思ってしまうのだ。それだけか? まだ上があるのではないか? と。何度も言うが、ゼノアの目的は強大な力を記録することだ。だから追い詰める。追い詰められて追い詰められて、死ぬ寸前まで追い詰められた者は、やられる前に相手に一矢報いる。それこそがその者の強さの限界を越えた部分であり、ゼノアはそれを記録したいのだ。


「私はお前達より強い。だが、お前達が限界を越えれば、私を倒すことができるかもしれんぞ? さぁ、今すぐ越えてみろ。私はその力こそを欲しているのだから」


「調子に乗るな!!」


 アデルが斬り掛かり、ゼノアがそれをかわす。


(確かに奴は俺達より強い。だが、それなら!!)


 まだ手はある。アデルには、ゼノアの力を奪う技が。


「マドネスドレイン!!!」


 アデルは瞬間移動で接近し、ゼノアの腕を掴んでダメージを与えながらエネルギーを吸収する。


「お前に私の力は奪いきれん。無限強化能力なら、もう百以上は記録した力だからな」


「な、何!?」


「それら全てを使えば、お前以上に強くなることは充分に可能なのだ!!」


「ぐあっ!!」


 ゼノアはアデルを蹴り飛ばし、アデルは手を放してしまう。


「ハァッ!!」


 ゼノアはそのまま、右手で光のエネルギー波を放ってきた。


「アブゾーブコスモ!!!」


 アデルはそれを、己の宇宙へと吸い込む。


「……ぬん!!」


 ゼノアが少し力を加えた瞬間、エネルギー波の威力と量が一気に跳ね上がった。


「うあああっ!!!」


 先ほどゼノアから吸い取ったエネルギーで拡張した宇宙を、内側から容易く粉砕し、アデルを吹き飛ばす。


「てめぇ!!」


 インビジブルスラッシュを繰り出すレイジン。だが、ゼノアは左の闇のブレードを一度振り下ろすだけで、全てのインビジブルスラッシュを破壊する。


「どうかね?」


 そう言いながら、ゼノアは左手を開いて、闇のエネルギー波を飛ばす。


「レイジンダブルスパイラル!!!」


 待ってましたとばかりに、レイジンはダブルスパイラルでそれを返す。


「カァッ!!!」


 だがゼノアが出力を上げると、霊力の渦は内側から吹き飛ばされ、レイジンは闇の波動に呑み込まれた。


「理解できたかな? 宿敵を打ち倒した君達の全力も、私にとってはこの程度のものでしかない。発現させただけでは不充分なのだ。ゆえに、君達が全力を出しても決して打倒できない存在である私が自ら鍛え上げ、さらなる力へと昇華してやっているのだよ」


 力は衰え、いつか消える。そうならないよう、最も強く、そして輝いている状態で記録するため、ゼノアは二人と戦っている。


「お前達は家畜だ! 私はお前達を丸々と太らせ、最高の調理を施してから食らう! 家畜は家畜らしく、私の言うことを聞いていればいいのだ!!」


 最初から同格だと見てはいない。全ての存在は、自分によって生かされている。その力を奪われるために。ゼノアはそう断言した。


『……あなたは可哀想な人』


「……何?」


 アデルの中からアンジェが発した言葉に、ゼノアは顔をしかめた。


『あなたは力しか見ていない! 力が実を結ぶまで、どれだけの痛みと苦しみを、悲しみと喜びを重ねたのか、あなたは見ていない! 見ているかもしれないけど、何もわかっていない!』


『私達は大切な人達に支えてもらって、そのおかげでここまで強くなれた! でもあなたの周りには、誰もいない! 力を記録するために、家族も恋人も仲間も、何もかも捨ててきたんでしょう!? 何でそこまでするの!?』


 アデルと融合したことで、ネリーも状況を理解している。ネリーは問う。なぜ誰もいないのか。どうして、そこまで力を求めるのか。


「全て捨てたさ。不要だからだ。どれもこれも、私が心から欲するものではない。あると邪魔になる。力こそ、私が欲する全てだ。それさえあれば何もいらん」


 力を求めることに理由などない。欲しいと思ったから集めている。ゼノアは誰もが抱くその感情が、力という一つの存在に対して病的なまでに強いのだ。


「哀れだな。お前は力を欲しているくせに、その力の本質を何も理解していない」


「俺達の力は俺達だけのものじゃねぇんだ。支えてくれた奴がいるからこそ、今の俺達がある。そいつらを守るために、俺達の力はある。てめぇにくれてやるためにあるわけじゃねぇ!!」


 アデルとレイジンは、自分達の力の本質を説いた。大切な人達を、この世界を守るために、自分達の力はある。

 だからこそ、


「「『『俺達(私達)は勝つ!!!』』」」


 そう宣言してみせた。


「……下らん戯れ言だ」


 しかし、勇者達の決意は、耳障りな雑音としてしかゼノアに伝わっていない。


「しかしずいぶんと余裕だな? まだ追い詰め足りんか……」


 言いながら、ゼノアは美由紀達を見る。


「それとも奴らの力から先に記録した方がいいか? そうだな、そうしよう。これで完全に余裕もなくなるだろうし、怒りと悲しみと苦痛と絶望で、お前達の力をさらに高めてやることもできる」


 何とゼノアは、突然ターゲットを美由紀達に切り替えた。


「何!?」


「やめろゼノア!!」


「断る」


 止めようとするアデルとレイジンを、ゼノアは一瞬で斬りつけ弾き飛ばした。


「これはお前達のためにやることだ。それに、先程の物言いは実に不愉快だった」


 ゼノアは二人を行動不能にしてから、左手を美由紀達に向ける。


「私を怒らせるとどうなるか、その結果を見てもらわねばなるまい」


 人差し指の先に、闇の力が集まっていく。


「ゼノアァァァァァァァァ!!!」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 二人がゼノアから受けたダメージから回復するには時間が掛かる。ゼノアは世界を消してしまわないよう、最小限まで威力を絞る。それでも破壊力は宇宙破壊以上だ。美由紀達は確実に死んでしまう。


「死ね」


 ゼノアは冷酷にも、小さな闇を放った。その闇には、ブラックホールをも凌駕する質量が圧縮されている。反撃、防御、回避。あらゆる手段を考えたが、それらは全て無意味であると直感した。セイヴァーモードと超究極聖神帝の二人がかりでも敵わない相手の攻撃など、自分達がどうにかできるわけがない。間近に迫る、黒い絶対の死。



 その死が、突如現れた女性の爪によって引き裂かれ、消え去った。



「!?」


 ゼノアは現れた人物の姿を見て、目を疑う。


「貴様……赤石ミライ!!」


 そう。ミライだ。かつてゲイル達との戦いに敗れ、死亡したはずの、赤石ミライだ。


「間に合ったようですね」


「「ミライさん!!」」


 狩谷と空子は、彼女の名を呼ぶ。ミライは振り向いて微笑んだ。


「なぜ貴様がここに……!!」


 ゼノアはさらに三つの闇を放つ。だが、それらは全て、次に現れた者達によって防がれてしまった。


「貴様の甘言に乗せられた私も愚かだったが、貴様はそれ以上に愚かだな」


「「闘弍!!」」


「もう貴様に惑わされたりはせん」


「兄様!!」


 闘弍とブランドン。もちろん、まだいる。


「僕達の息子に手を出されては困るな」


「光輝に手は出させないわ」


 ブラッディースパーダとデッドカリバーに似た討魔剣を持つ男女。


「父さん!! 母さん!!」


 光輝がこの二人を見間違えるはずがなかった。隼人と優子。自分の両親が、亡くなった時と全く変わらない姿でそこにいた。


「私の能力については知っていますね? あなたが世界を歪めたことで、私達がかりそめの肉体を得られるよう、世界が変質したのです」


 もっとも、それも長くは続かない。ゼノアが滅ぶまで。タイムリミット付きで、ミライ達は仮の復活を果たしたのだ。


「無論、蘇ったのはミライ様だけではない」


 そう言って現れたのは、ネイゼン、ゴーザ、マヴァルの三将軍と、トップソルジャーのフィス。


「元気してたかアプリシィ? 俺の言い付けは、ちゃんと守ってたみたいだな」


「兄さん!!」


 デザイアの幹部三人と、副首領イズマも現れる。


「輪路。お前があまりにも不甲斐ないから助けに来たぞ」


「正影!!」


「俺達もついでに連れてきてもらったぜ」


「光弘さん!! 由姫さん!!」


 正影、光弘、由姫の三人も復活した。


「最初は何事かと思ったぞ」


「隼人様と優子様が、地獄にいた私達を連れ出しに来られたんですもの。ねぇカルロス?」


「うるせぇな! 隼人様の命令じゃ仕方ねぇだろうが!」


 デュオール、シャロン、カルロスの死怨衆もいる。さすがのカルロスも、存在がトラウマである隼人に命令されては、従うしかなかったようだ。

 さらに、ビャクオウにも変化が現れる。ビャクオウの胸の中心から光が飛び出し、それが人の形に変わったのだ。


「やれやれ。こううるさいと、おちおち寝てもいられないよ。それに、旦那の危機だしさ」


「ナイア!!」


「おはようエリック」


 このタイミングで、ビャクオウの中で眠りについていたナイアが、復活したのだ。


「あれが、ナイアさんの本体……」


 賢太郎の中には、あのナイアの肉体と精神の切れ端がある。ずっと気になっていたナイアの本来の力を、ようやく目にすることができた。


「起きたのはボクだけじゃないみたいだ」


 ナイアが見上げると、空から旧神クタニド、副王ヨグ=ソトース、女神シュブ=ニグラスが現れた。


「エドガー殿が我々を蘇らせて下さったのだ!!」


「総帥!! 助けに来ましたわ!!」


「やれやれ、この時間に立ち会うことになったか……」


 クタニドとシュブ=ニグラスはやる気のようだが、ヨグ=ソトースはいまいち乗り気ではない。

 というのも、彼が持つ次元の門にして鍵という性質上、この時が来ることを知っていたからだ。本当ならいろいろ手を打てたのだが、彼は同時に門番であり、預言者でもある。未来がわかっていようと、最低限のヒントだけを他者に与え、自分自身はその時が来るまで決して干渉しないのが、預言者の務め。今回は彼が干渉したかった未来の中でも間違いなく一番厄介なのだが、第三次大戦以降力を失っていたため、結局今まで何もできなかった。せいぜいナイアに頼まれて、空亡を動かした程度だ。


「だがこうなった以上は仕方ない。全力で総帥をお助けするのみ」


 ヨグ=ソトースは割り切る。間もなくして、エドガーの手で蘇った他の旧神達も集まってきた。皆、この世界を救うために来てくれたのだ。


「みんな……」


「こいつは、すげぇ眺めだな……」


 アデルもレイジンも、自分達だけではないということを実感する。


「下らん」


 だが、ゼノアはその一言で一蹴した。


「何をしようと、結局全ては私のものになる。どんな力を手に入れようが、最後は必ず私が勝つ。なぜなら、私はその力こそを欲しているからだ」


 ゼノアの光と闇が、胸の中心で混ざる。


「どうやらそれがお前達の全てらしい。がっかりだよ。最後に頼ったものが、力ではなく絆だったとは」


 見限ったのだ。これが、アデル達が出せる限界だと。力以外のものを頼った時点で、ゼノアにとってはそれが相手の限界なのだ。


「では、お前達の力が色褪せる前に、この世界ごと記録することにしよう。私の全力を受けるがいい。それがお前達に贈る、私からの最大の敬意だ」


 混ざった力が増大していく。ゼノアが、全力を使う。

 そして次の瞬間、


「フォースリベレイション!!!!」



 ゼノアは己の力を解き放った。




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