1-17. 霹靂
前話のまとめ:克樹は百合にお付き合いを申し込まれました。
突然の申し込みに、克樹は慌てた。
「え?えっ??お付き合いって、え~と、買い物に付き合ってくれとか?」
「えぇ、そう取っちゃうの?くすくす、違うわよ。恋人になって欲しいの」
百合は頬杖を突いてニッコリと笑っている。
「ええぇぇぇ~!」
「ううん、違うわね… そんなに重い話じゃないのよ」
百合はハーブティーを一口飲み、それから自分の事をポツリポツリと話し始めた。
元々町に住んでいたが、人間関係に疲れてしまった。
それで、憧れていた田舎暮らしを決意。
秘書ロボットには随分と反対されたが、引っ越しを強行。
この村にやってきた。
しかし理想と現実の落差は大きかった。
どうしても馴染めない。
詰まらないしがらみからは解放されたが、別の要因で疲れる事になってしまった。
近くの町に出かけてみたりもしたが、それでは一時的に気が紛れるだけ。
気付いたら引き篭もりのようになってしまった。
町に戻った方が良いのだろうと思う。
しかし反対を押し切って来た手前もあって、切っ掛けが無いと動き辛い。
そこで思い出したのが妊婦の保護だ。
女性は妊娠したら、町の産科病院の近くに引っ越す事が推奨されている。
しかし今の所、結婚を考えるような相手は居ない。
「まぁ、シングルマザーでも構わないかと思って。あたし、子供好きだし」
「それならこの村にも良い男が居るんじゃないですか?ほら、武術をやってる人達も居るみたいだし、どうですか?」
「う~ん、彼はねぇ、違うのよ。他の男の子もねぇ、趣味が合わないと言ったらいいのかしら。田舎臭い人はちょっとね。百目木君は、懐かしい都会の匂いがすると思って」
そう言われても、克樹には何が違うのか分からない。
「うふ、百目木君は分からなくても良いのよ。あたしの我儘だから。生々しい話になるけど、要するにあたしは妊娠して町に戻りたいの。それだけ。それ以上の事は求めないわ。子供が出来たらきっぱり身を引くつもり。都合の良い女で構わないから、それまでの間、お付き合いをお願いできないかしら」
「う~んと…」
克樹は腕を組んで唸った。正直、困ってしまった。女性からこんな風にアプローチされた事は無い。
一作に相談したくなった。リアルでこんな経験は無いだろうが、ギャルゲの知識だけは豊富な一作だ。こんな時にどう反応すべきか、参考意見くらいは聞けたかも知れない。
そんな妙な事を考える程、克樹は混乱していた。
「お返事は後日でも良いですか?」
やっと、それだけの言葉を絞り出した。
「えぇ、良いわよ。別に焦ってる訳じゃ無いし。でも1年も2年も宙ぶらりんにしないでね。あたしもちょっと疲れちゃってね…」
そう言って百合は溜息を吐いた。
その日の夕食は、一人では寂しいと百合に言われて、御馳走になった。ピザとビールだった。克樹はサイダーを貰った。
「ああ、やっぱり誰かと食べる食事は美味しいわ」
「ピザは久し振りです。美味しいですね」
「うふ、ありがとう。もう1枚イケる?亨、あたしの分と彼の分、もう1枚ずつ焼いてちょうだい」
百合の秘書ロボットは亨と言うらしい。亨に声を掛けて10分ほどで、奥から家事ロボットが焼き立てのピザを持ってきた。
食べ終わった所で、克樹がそろそろ帰りますと言うと、百合は寂しそうに笑った。
「ねぇ、また来てね。百目木君なら連絡無しで突然来ても良いわよ」
「これからは僕も村の住人です。今はまだ村の外ですが、その内タリ山に引っ越します。いつでも会えますよ」
「そうか、それもそうね」
帰り道、百合の言葉をずっと思い返していた。一度は一作に相談したいと思った克樹だったが、混乱が収まってみると誰にも相談できない。その夜、克樹は目が冴えて眠れなかった。




