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日本人は働く必要が無くなりました。  作者: Katz
第1章 田舎暮らしに憧れて
10/32

1-7. 訪問

前話のまとめ:世界中の金持ちが居住地として日本に注目するようになりました。

 約束の日。電車に2時間揺られた克樹は指定の駅で降りた。秘書ロボットのもりの自動決済で改札口を出ると、がらんとした駅前に車が1台だけ停まっていた。守が近付くと、ドアが自動的に開いて声が聞こえた。


どう克樹様でいらっしゃいますね?」


 守が頷き、克樹と2人で乗り込む。ドアが自動で閉まると、車内に音声が流れる。


「本日はようこそいらっしゃいました。私はこの車のAIでかけると申します。御用の際にはお申し付け下さい。これからあし家に御案内します。御時間は30分ほどです。何も無い田舎ではございますが、窓からの景色をお楽しみ下さい」


 車からの眺めは、とにかく田圃たんぼ。この一言に尽きる。


 進行方向には地平線の先まで田圃が続き、後ろを振り返ってもひたすら田圃。しかし変化が無いのかと言えばそうでもなく、右を見れば田圃の向こうで湖が陽光に輝いていて、左を向けば遠くに山が連なっている。


 以前来た時にも見た光景だったが、都市とは違う広大な視界に心が躍る。


 広い家の庭に入って車が止まった。都市の家とは全く違う広さに圧倒されつつ、克樹と守は車を降りた。車が車庫に入ると同時に玄関が開いて、矍鑠かくしゃくとしたお爺さんが出てきた。


「初めまして、百目木克樹と申します。宜しくお願いします」

「やあ、儂が日足(たつ)なりだ。今日はよく来てくれた。入りなさい」


 応接間に案内されると、お婆さんがお茶を出してくれて、達成の隣に座った。


「今日は、妻のまさです」

「初めまして、百目木克樹と申します。宜しくお願いします」

「克樹君ね、遠い所をようこそ。冷めない内にお茶をどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」


 日足夫妻はニコニコしているが、こういう事が初めての克樹はガチガチに緊張している。言われるがまま、出されたお茶に口を付けた。ちょっとぬるめのお茶が美味い。


「あれ… 味が…」

「わかったかしら。桑の葉茶なの。私が作ったのよ」

「そうだったんですか。美味しいです」

「こちらもどうぞ」


 勧められた芋ケンピにも手を付け、3本食べてから慌てて言った。


「あ、パクパク食べてしまってすみません」

「良いのよぅ。沢山食べてくれる方が、作り甲斐があるわぁ」


 そうやって一息入れて、緊張感も緩んだ所で、達成が口を開いた。


「わざわざ足を運んでもらって申し訳無い。今時はなぁ、仮想現実システムって言うのか?交渉でも何でもアレで済んでしまうんだが、儂ら年寄はアレがどうも苦手でな。大事な用件の時には、やっぱり直接顔を合わせたくてなぁ」

「わかります。僕もちょっと苦手ですので」

「それで、山を買いたいとの事だが」

「はい。あそこの山を気に入りまして、是非買わせていだだげだだ」


 …噛んだ。盛大に噛んだ。やってしまった。幾ら緊張しているとは言え、交渉の大事な最初をしくじってしまった。克樹は頭が真っ白になる。


 そんな克樹を見て、達成は豪快に笑った。


「はっはっはっは!そんなに緊張せんでもいいぞ。別に取って食おうってんじゃない」


 雅美も声を出して笑っている。


「うふふふ。お茶でも飲んで一息入れて頂戴。いえねぇ、あの山を買ってどうするつもりなのかと思ってねぇ。お話を聞かせて欲しいのよ」


 そう言われて、克樹はまずお茶を一口飲んで、そして深呼吸した。


 再起動した所で、自分の夢を語り始めた。最初は掻い摘んで訥々と言葉を紡いでいたのだが、蝶の話を始めると段々熱が篭ってくる。そんな様子を日足夫妻は微笑みながら見つめていた。

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