悪魔崇拝者の末路~悪魔(デーモン)のジジャール~
~ここまでのあらすじ~
洞窟内で迷い、遭遇したミイラに血を吸われた天地一国は逆にミイラのような姿になってしまったが吸血鬼として復活。
一国を襲ったミイラは吸血鬼カルレオーノ・ホテチトップス・ウセシオジオとして復活し一国を中食奴隷人と呼び下僕として動けと命じた。
一国ミイラは血が足りなさ過ぎて喋れない、能力なし、体力なし。
カルレオーノの逆鱗に触れる度にバラバラにされ再生する。それくらいの取柄しか無い最弱吸血鬼。
だがミイラになった事で研ぎ澄まされた五感により風の流れを読む事で洞窟迷路を脱する事に成功した。
一国の記憶を読んだカルレオーノはその記憶の映像でカルレオーノを火あぶりの拷問にかけた下食奴隷のリーダーと一国が町のバーで会ったマスターの顔が酷似している事を知る。真夜中に一人で町に向かうカルレオーノはバーのマスターと対峙。やはり下食奴隷のリーダーとバーのマスターは同一人物であった。自分も人間では無いと言うマスター。過去を語りだしたのだった。
~特殊名~
亜徒類・・・純粋な吸血鬼一族
姉徒麗・・・姉
弟徒君・・・弟
下食奴隷・・・人間全般、エサ、奴隷
中食奴隷人・・・吸血鬼となった人間、下僕
極万年・・・凄い長い年月
牙毒感染・・・牙によるウィルス感染
髪々通信・・・髪と髪を合わせる事で会話が可能になる喋れない一国の為の通話方法
亜徒蘭血国・・・吸血鬼の国
血国王・・・吸血鬼の王
「外側には吸血鬼!人間側も内部崩壊!いよいよだ!いよいよ現れるぞ!スーパーヒーローが!!ここからが面白くなるのさ!!」
バーのマスターは話すのが楽しくなってきたとばかりに興奮していた。
ショットガンをカウンターに置き、グラスに酒を注いで飲み干した。ダンッ!と強くグラスをカウンターに叩き置き続きを喋り始めた。
「結局悪魔は呼び出せたのか・・・気になるだろう?続きが聞きたいだろう?」
「地下への扉が開くと立っていたのは少女だったんだ。少女は泣き腫らした顔で手首に包帯を巻いていた。若者が必要だったのは少女の血だったんだ。処女の生き血ってやつさ!少女は何があったか理由は言わず、大人たちを地下へ降りるように促したんだ。
少女は何も言わないんだ、行かざるを得ないよなぁ。
大人達は恐る恐る地下へと降りていった。
地下には開けた空間があって蝋燭で明かりが灯してあった。悪魔崇拝現場と聞いたら脳裏に浮かぶまんまの状況さ。
悪魔を題材にした絵画が所々に飾られ、祭壇には骸骨、蝋燭、骸骨、蝋燭、骸骨、ヤギの悪魔の胸像、本棚には悪魔関係の書籍。
机には開かれた本、血の付いたナイフ、拷問道具まあ色々さ。
広間の床にはデカい魔法陣が描かれ、床の所々に血がしみ込んでいた。
魔法陣の中心に何があったと思うね?
何があったと思うね?ククク。
若者の首吊り死体さ。木の枠から垂れ下がったロープで首を吊って死んでたんだ。足元には椅子が転がっている。
死体は目がくり抜かれ、腹にはナイフで文字のようなものが刻まれていた。裂かれた腹から少し内臓がはみ出ていたんだ。
血としょんべんが混ざり合った液体が滴り地面に掘られた溝の線を流れ魔法陣の模様になっていた。
大人達は少女を見て一斉に少女から離れたんだ。
『お前・・・』ガストが少女に向かってそう言った。
少女は何度も首を強く振り『私じゃない!私じゃない!彼が自分でやった!』と泣いた。
その時ガストの背中の方から声がしたんだ。
『そうだぜ・・・。勘違いしてやるなよ・・・。』
ガストが振り向くと目と口と鼻と腹から血を流している首吊り死体が喋っていたのさ。
『願いを言え。』死体がそう言った。」
マスターは余韻を残す間で目をつむった。そして目を見開くと、
「んん~!きたぁ!!スーパーヒーローの登場だぜ!!これが言いたかったのさ!!
人間のピンチに颯爽と登場するスーパーヒーロー!!痺れるよなぁ!!お前ら吸血鬼は人間を捕食するだけ!くだらん!!ロマンが無いのさ。
悪魔は人間の願いを叶えてやる!!そこには愛があるのさ!!
自ら生贄になった若者は悪魔になりたかった。自分に乗り移って欲しくて犠牲になった。そういう意味では若者の願いも叶えてやったとも言えるなぁ!」
マスターは一気にテンション高くまくし立てた。
「無料じゃあ無い。もちろんな!代価は頂くぜぇ。
話の続きをしてやろう!俺が大活躍する話をな!人間はすぐ正義だの悪だのに分けたがるよなぁ。俺は嫌いじゃあないぜ!
この場合は俺が正義!お前らが悪だ!ククク
死体に召喚された俺は『願いを言え。』目の前の男共にそう言った。
男共はお互いに顔を見合わせ、一人の男に委ねた。ガストと呼ばれる大人の中心にいた奴だ。
改まって『外の化け物共を始末して欲しい。』ガストは冷静を装いそう言った。声が震えていたが、気丈な奴だ。俺は気に入った。
『良いだろう。ならば器を提供するのだ。』俺は言った。
『器とはどんな器だ!』
『魂の器。俺の入る器を用意しろ。お前の体を所望する。』
ガストは言葉を失っていたな。言わば死刑宣告だからなぁ。こういう反応がたまらなく好きでわざと遠回しに言うのさ。腹の底から笑いを堪えるのに必死だったぜぇ!
『ちょっと待て!既に若者が命を捧げただろう!それで叶えてくれるんじゃ無いのか!』
ガストの後ろにいた男が難癖を付けて来たわけだ。
ここで俺はズバッっと言ってやった!『それは私を呼び出す為の生贄に過ぎない。』これを論破と言う!
本来悪魔は人間の寿命と引き換えに願いを叶えるわけだが、この時の願いが『外の化け物共を(俺に)始末して欲しい。』という願いだったと理解した為に俺が入る体が必要だったわけだ。
『外の化け物共を始末する力が欲しい。』と願えば俺は器を必要としなかった訳だが、もちろんそんな助言するわけが無い。
寿命どころか人間の魂全て頂けるわけだからな。
後でこの選択が俺のミスだったと発覚する訳だが・・・。ヤレヤレ・・・。
ガストは観念して体を差し出しやがった。潔い野郎だったぜ。
首吊り死体の前に来た奴の頭を両手でガシッと鷲掴みにして口から口へとガストの体内に入ったってわけだ。
おっと!キスをしたわけじゃないぜ!そこは訂正させてくれ!ハハハ!
つまり今、お前の目の前にいる俺がそのガストさ!悪魔のジジャール!それが本当の俺の名だ。」
「やれやれ!よく喋りやがる。下らん話を聞かされた。」すっかり体の再生を終えていたカルレオーノが腕を組みながら言った。
「下らん話を聞いてくれてありがとう。これからが俺の大活躍の話なのだ。聞くだろう?」
その歪んだ笑顔はカルレオーノを火あぶりにした時に見せたそれであった。
その歪んだ笑顔にカルレオーノの憎悪はまた再燃した。
「貴様が我を火あぶりにしやがったクソ野郎だと分かっただけで十分だ!姉徒麗と弟徒君の居場所だけ言え!その後で奴隷にしてバラバラに引き裂いた後で神父にでも食わせてやる!」
「それってさぁ、まんま悪のセリフだぜぇ!負ける側のセリフよ!もうちとこっちの世界のお勉強をした方が良いなぁ!」
「黙れ!姉徒麗と弟徒君の居場所はどこだ!さっさと喋れ!」
「黙れだの喋れだのどっちに従えと?前に言わなかったかい?お宅のお仲間は殺した。殺して喰ったんだよ。」
悪魔のジジャールは小指で耳をほじりながらおちょくるように言った。
「分かった。もう必要ない!」カルレオーノは再び突進する。壁を突き破りジジャールに襲い掛かる。
「ワンパターンの突進だねぇ。」ジジャールはショットガンを手に取り重力を無視するかのようにスーっと後方へ体をスライドさせてゆく。
カウンターの端、壁の手前でピタッと静止すると目の前に迫っていたカルレオーノ目掛けてショットガンを放つ。
カルレオーノは体から生えた巨大な羽で体を包んだ。羽が銃弾で弾け飛ぶ。弾けた羽の破片はコウモリに変わり飛び去って行った。
羽の隙間から腕が伸び壁をえぐる。ジジャールはまたしても重力を無視し真横にスッとスライドする事で攻撃をかわす。
「貴様の攻撃は銃頼みか!!」カルレオーノは目にも止まらぬスピードで両手を繰り出す。鋭い爪がジジャールをかする。
爪に触れたテーブルや椅子が紙くずのように破片をまき散らし宙を舞う。
ジジャールは後退しながらカルレオーノに向かって「ア”ッ!!」と叫び声を上げると、その口から何十本もの白い腕が飛び出しカルレオーノ体を掴んだ。
何十本もの真っ白な手がカルレオーノの首や腕や胴体や足に纏わりつき絡みつき完全にその動きを止めた。
一組の手の先がヌルッとジジャールの口から抜け出ると人の形となりカルレオーノにピッタリと寄り添った。人間では無く人型の白い塊、マネキンのような形容であった。
手は次々とジジャールの口から抜け出し人型に変容していった。その形は大人や子供、赤子の体系など様々であった。
カルレオーノは人型の集団に纏わりつかれ完全に動きを封じられた。
「それは人間の魂。俺が願いを叶えてやった者達の末路さ。見ろ!お宅の隣りに俺が喰った奴もいるぜぇ!」
ジジャールがヒヒとニヤケながら言うと、カルレオーノの左隣りの白い人型が色を帯び始めた。
その形容はカルレオーノの精神にダメージを与えるに申し分無かった。
白い人型は「あ、あ・・・ニ、兄徒君・・・。」と声を発しながら弟徒君と成った。
「ほらほら右側も見てやってよ!」ジジャールがニヤケながら指を振る。
「カ・・・ル・・・。」右側の人型は姉徒麗と成った。
姉徒麗と弟徒君は「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返し涙を流しながらカルレオーノの首筋に噛み付いた。
カルレオーノは力なく項垂れるしかなかった。
「どうだね?同族に噛まれた気分は?人間の痛みが分かったかな?お宅を火あぶりにした時を思い出すよ。あの時もお宅は身動き出来ずバカみたいに苦しんでいたねぇ。吸血鬼がそこまで仲間意識が強いとは思わなかった。意外だよ。」
「あの時はお宅らの国への行き方を知りたかったんだが意味が無い事が分かったんだ。お宅らを皆殺しにするには太陽が必要だからね。だからお宅を囮に仲間をおびき出したいのだが良い方法は無いかい?お宅らが穴から出て来るのを待つのはとてもうんざりなんだ。」
カルレオーノはボソボソ呟いた。
「はい?もっとハッキリ聞き取りやすく明瞭に答えてくれないか?」とジジャールはカルレオーノの髪を鷲掴みし顔を持ち上げた。
カルレオーノは「あの時と決定的に違うのは心臓に杭が刺さっていない事だ。」と言い終わるとカルレオーノの髪を鷲掴みしていたジジャールの右腕が突然切断された。
続いて左腕、両足が切断され手足は回転しながら吹き飛んだ。
周りに絡みついていた人型も姉徒麗と弟徒君もろとも一瞬で切断されバラバラに飛び散った。
その一本一本がワイヤーのような腰まで伸びている銀髪が空中に広がり蛍光灯でキラキラと幻想的な光を放っていた。
手足を失ったジジャールが床に崩れる前に髪で首を絞め上げ空中に持ち上げた。
「貴様のデタラメに耳を貸す時間はとうに終わっている。最初から貴様の記憶を読めば良かったのだ。」カルレオーノの銀髪の一本がジジャールの額を突き刺した。
何があった!あの日!下食奴隷襲撃3日目に!!