ダンジョン都市
ダンジョン。それは理由は分からないが突然何もない場所に現れる謎の広大な空間を指す。中には魔力が満ちており強力な魔物が蔓延り訪れる者を容赦なく襲っていく。
ダンジョンが生まれる理由は魔力が溜まった生まれるだとか、ダンジョンを生み出す古代魔法を誰かが使っただとか様々な説があるが今のところ何も分かっていない。
しかしダンジョン内には多くの宝があり、それを求めて腕に覚えがある者は魔物を蹴散らして探索して行く。つまり人間にとってダンジョンがある理由などどうでもよく、宝が出てくる不思議な空間程度の認識なのだ。
ダンジョン都市、ラビーン。
この都市はダンジョンの周りを囲む様にできた街である。
冒険者の為の宿に武器防具屋、持ち帰った宝を鑑定する換金所。全てはダンジョンに訪れる冒険者中心でこの街は回っていた。街の住人もダンジョンができた理由なんてものは興味が無く、ただ儲かるからダンジョンを理由しているだけなのである。
そんな都市にアテム一行は最後の仲間を求めてやってきた。
流石はダンジョン都市。街は活気に満ちており腕自慢の冒険者が路上で喧嘩をして、それを周りが囃し立てる。
店先の店員もいつもの事なのか元気に営業を続けて、喧嘩の観戦の為に酒を勧めている。
「なんか……下品と言うか……危ない街ね」
デイジーは少し歩いただけでこの街の本質を見抜いていた。
そう、この街は力ある者が正義の非常に偏った理念で動いている危うい街なのだ。勿論この街もどこかの国に属しているし、この街を治める者も存在するが流れ者の冒険者にとっては関係ない話である。
「ねえ、本当にこの街に最後の一人がいるの?いたとしてそいつは大丈夫なの?やばい奴なんじゃ」
デイジーはこの街にいると断言したアッシュに恐る恐る聞いてみた。
「多分な。ここ最近この街で名前も告げずに怪我人を治して何処かに消える女がいるって噂されてる。通称、沈黙の聖女」
「リリーちゃんだね」
「リリーだな」
「リリーさんで間違いないですね」
アッシュの言葉にムラマサ、アテム、ミネルバは納得した。
皆がそう思うならならそうであろうとデイジーは納得したが色々疑問が浮かんだ。
「まず聖女って事は女の人なんでしょ?この街治安が悪いけど大丈夫なの?」
「それなら大丈夫。リリーちゃんは女の子だし神官だけど僕達と一緒にB級の依頼をこなしてきたから実力は十分」
デイジーの心配はアテムが解決してくれた。そして次なる疑問は「沈黙」という言葉であった。
パーティーメンバーは全員呪われている。それならリリーにも何か重大な呪いがあるはずである。
「もしかして……リリーって人は呪いで喋れなくなったの?」
デイジーの推理にアテムは困ったような表情を浮かべた。
「うーん、ちょっと違うかな?いや、喋れないのはそうなんだけど……」
「なんだか歯切れが悪いわね」
これまでと違いパーティー全員がなんとも言いづらそうである。
「まあ、リリーが今一番呪いで苦しんでいるだろうな」とアッシュが言うと。
「それは同意だな」とムラマサが賛同した。
デイジーはますます分からなくなった。喋れなくなる事がここにいる誰よりも重大な事なのか。
「まあ、それも含めて会えば分かるから!とりあえず居そうな所に行ってみよー」
アテムが空気を変えるように元気な声を出した。だけど他にも問題はある。
「それでどこにいるの?」
リリーの居場所は誰にも分からない。リリーはギルドにも顔を出さないらしいので地道に探すのでないかとデイジーは恐れていた。しかし、
「うーんスラムかな?」
「あー、いそう」
「私もそこだと思います」
「あいつ暇さえあればスラムに行ってたから」
アテム、ムラマサ、ミネルバ、アッシュの全員がリリーはスラムにいると確信していた。
「スラムって……本当に大丈夫なの?」
デイジーはとにかく不安であった。
この街のスラムは他の街と比べるものにならないほど大きい。
ここには一攫千金を夢見て破れた者やダンジョンで大怪我を負い働く事も出来なくなった者、そしてそんな環境で生まれた子供達。そんな人間がスラムに大勢いた。
デイジーはスラムに着いた瞬間からアテムの肩に乗り一時も離れなかった。それほどここの雰囲気が淀み刺々しく、そして悪意を持った目が容赦なくこちらを睨んできた。
この時ばかりはアテムの底抜けの明るさがデイジーを救っていた。
アテム達はスラムの住人に聞き込みをしていった。
「ああ、その人ならよくここら辺に来るぜ」
「あの人は俺の怪我を治してくれてたんだ」
「聖女様の知り合いかい?会ったらお礼を言ってくれ」
「あの人はお礼も受け取らず、名前も言わないんだ」
リリーと関わった人は老若男女問わず全員が彼女に感謝をしていた。あれほど敵意を内に秘めた眼差しをしていた者達が沈黙の聖女の話をする時だけ柔らかな顔に変わっていた。
そして聞き込みの結果、噂は本当でありやはりリリーはこの街にいた。
聞き込みを終えた一行はスラムから出た。
先程まであれほど殺伐とした場所にいたからであろう。デイジーは大通りの喧騒が何故だが心落ち着いた。
アッシュたっての希望で一行は安くて大盛りな店に入って食事をとることにした。
「本当に聖女なのね」
デイジーはリリーの聖女っぷりに感心した。
「リリーちゃんはそんな子なんだよ。困った人がいた助けずにはいられない」
アテムも仲間が褒められたのか嬉しそうに話している。
「だけど何も言わないから何処にいるかも分かんねーな」とアッシュが食事をモリモリ食べながら話し。
「まあ、いるのは分かったからそのうち見つかるだろ」それをムラマサもモリモリ食べながら答えた。
ミネルバは食事が口に合わないのか飲み物だけ飲んでいる。
一行がしばらく食事をしていると表がなにやら騒がしくなった。それも尋常じゃない事態のようである。
遠くから大声を上げて走ってくる者がいる。
「ダンジョンで魔物の大量発生だ!冒険者は至急ダンジョンの入り口に集まれ!繰り返す!ダンジョンで……」
それを聞いた人達は席を立ち上がりバタバタと店を出て行く。店員も急いで会計を済ませてどんどん客を送り出していく。
「え?なに?どうしたの?」
デイジーだけが混乱する中、アテム達も食事を切り上げて立ち上がった。
「ダンジョンでたまに起きるんだよ。中の魔物が大量発生して外に溢れ出すの。そうなるとどこの店も閉めて避難して、冒険者は討伐に駆り出されるのさ」
「大変じゃない!」
デイジーはとんでもない事が起きたと慌てているがアッシュは何だか嬉しそうである。
「ただ、悪い事ばかりじゃない。討伐に貢献すればそれだけ金も貰えるしその日は飲み食い自由の英雄気取りだ」
どうやらアッシュは金と食べ物目当てらしい。それに加えてアテムも嬉しそうにしている。
「それに今回ばかりはいいタイミングだ」
「どうして?」
「非常事態だ。リリーちゃんは必ずダンジョンに来る」
一行は会計を早々に済ませてダンジョンに向かって走り出した。




