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変わる世界  作者: オピオイド
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境遇

トラストの一番奥のボックス席は、沈黙に包まれていた。

相対するのは折紙彩と蒼羽天子。

あの後、灯さんは『君に話さなければならない事がある』と言って、店の奥へと消えて行った。

その間に天子が彩の『折紙』と言う珍しい苗字に反応し触発された、ポツリポツリと彼女の昔話を語りはじめた。

それからだった、彼女達の間に微妙な空気が流れはじめたのは。

カウンター席から聞いていたがとても悲しい話で、それは仕方がないとも誠一は思った。

何しろ片や『家族を亡くした遺族』で、片や『家族を喪わせた原因の一端』を担う妹なのだ。

(同作者の『カモメは遥か水平線を見る』を参照)

天子としては『責める相手ではない』と頭で理解しているのであろうが、感情としてはついていかない。

そして彩は彩で身内のした事、その結果が目の前の悲しい事実に繋がってショックを受けていた。

能力的にも本人の性格的にも敏感な彼女は、違うと叫び出したいでも言っている事が嘘でもないと知っている。

だからこそ、その胸にあるモノはとても大きく苦しいのに吐き出せないでいた。


「何て言うか、ままならないな」

「あん? 珍しいな誠一、お前が弱音を吐くなんて」

「桂二、俺だって悩む事だってあるさ。闘いや力技なら多分この拳だけで突き進める、と俺は思うよ。だがな、こんな時役に立たない自分が少し恨めしいよ」


誠一は考える。

強くなろうと、拳を何千回何万回と振るってきた。

来る日も来る日もだ。

お陰で力はついた、能力者としての力も得て世に蔓延る理不尽を打ち倒せる迄にもなった。

しかし、それに反して持たないモノもある。

人に対する人生経験と言うものだろう。

拳を振るっているだけでは得ることはないモノが誠一にはない、そう考えるにはまだ早いと彼自身は考えるが同世代から言えばそのスキルは低いと思っていた。


「正直こんな時、俺は無力だ」


そう誠一が呟くと、桂二は顔を背けて肩を震わせ笑っていた。


「何だよ」

「ククッ、いやスマンスマン。お前の弱音を吐くに笑っていた訳じゃないんだ。いつも色々な事を仏頂面で無難にこなし、学校じゃストイックの代名詞と呼ばれているお前が俺ら見たいな悩みを持っているなんてなと」

「俺だって悩みぐらいある」

「解ってるって。俺は自分自身と別の事に笑ってるのさ」


桂二は誠一に対して嫉妬があった。

大抵の事は無難にこなし、能力者という力もある。

自分が同じ力があれば、能力者であればもっと自分の欲を叶える事が出来る、と願望があった彼は誠一に嫉妬を覚えていた。

しかし、蓋を開けてみれば誠一も同じだった。

自分と同じ様に悩みながら、足掻いていた。

能力者だから力や存在の質は桁違いだが、それ以外は一緒。

彼は彼、自分は自分。

そう気付いてから、桂二の胸にあったわだかまりはストンと落ち何故だか可笑しくなったのだ。

桂二は以前、『擬神薬』に手を出しそうになった時に上司に言われた事を思い出す。


『お前はお前しか出来ない事がある。薬なんぞ積み重ねのない物に頼らず、それを見付けろ』


桂二は笑いながら思いだす、あの臍曲がりの陰険ドS上司は予想、いや確信していたのだろう。

性格悪い癖に優しくお節介だ、と考えていたら笑いが止まらなくなっていた。


「目下お前の悩みはどうする事も出来ない、今の問題は尚更。あればっかりは当人同士で話し合い、自身の心と決着をつけないとな」

「………だよな」


溜め息混じりに肩の力を抜くと、誠一は彼女達を見る。

そこには沈痛な空気が………


「私としては、ストイックならもうちょっと女性にスマートな迫り方で来て欲しいなと思う訳よ」

「あ〜解る解る。素っ気ないように見えて、眼を見たら真剣通り越して情熱的って?」

「そうそう。だけどさ、私の能力って読心じゃない? 見た目と中身が違って見えるから冷めちゃう」

「そうなんだ〜。でも、私だったらギャップにやられちゃうかも」

「あら、それってこの間の?」

「ううっ心読んだでしょ」

「読まなくても解るわ、助けられて芽生える想い。ありがちのパターンよ」

「単細胞みたいに言わないでよ」


流れていなかった。

むしろガールズトークに花咲かせている。


「………なあ桂二」

「なんだ?」

「女って強いな」

「気付くの遅いよ。能力者の女性は、頭の切り替え目茶苦茶早いんだ。覚えておけよ………あと誠一? リア充は爆発しろ!! てか、死ね!!」

「ちょっ桂二!? いきなり何だよ!!」


女性陣は花が咲く程の話、男性陣は今にも一方的な(桂二が誠一を一方的に)殴り合いに発展しそうなその時、住居スペースに続くドアが開いた。

そこからは大量の書類を持った灯が現れる。


「灯さん?」

「桂二、ちょっと手伝ってくれ。誠一は奥の部屋から細長い鉄の箱を壁沿いに立て掛けているから、それを持って来てくれ」


二人はそれを聞くと口喧嘩していたのを忘れ、お互いに頼まれた事をするべくカウンター席から立ち上がる。

誠一は初めて入る扉の奥に、変な高揚感を感じながらたち入るが一瞬にして冷めた。

白を基調とした壁紙の廊下、狭いせいかはたまた色のせいか妙な圧迫感があり身体が自然と励起法を行っていた。


「何だ………ここは」


気持ち悪くなる程の空間の違和感を感じながら、誠一は奥へと進む。

一番奥の『従業員控室』と書かれた扉の前に来たときには、精神的に疲れるほどで後で灯さんに聞こうと思いながら誠一は中へ入る。

中はシンプルな作りで鉄製のロッカーとテーブルとパイプ椅子。

テーブルの上には女性誌や漫画雑誌があり、身体に感じる圧迫感がなければありきたりの光景。

こんな所は早く用事を済ませて出ようと考え、誠一は目的の物を見付けるべく周りを見回し扉側の鉄製の箱を見付ける。


「あった」


手を伸ばしそれを取ろうとした時、誠一は違和感の正体に気付く。


「これが圧迫感の正体?」


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