遺品
「誠一!?」
「誠一君!? どうしたの!!」
「誠一、お前顔が真っ青だぞ………何があった?」
奥の部屋から帰ってきた誠一の顔色は、真っ青だった。
表情はいつもどうりだから本人の自覚は無いのだろうが、他人から見れば何があったかと思う位の色。
三人は思い思いの言葉を掛けて心配するが、天子はある事に気付く。
「神域結界!? ううん、何か違う………これってまさか、共鳴している!!」
天子は木刀の入っている布袋の口を緩めると、中から木刀を取り出す。
「………それは?」
「神器『荒覇吐』。先生から頂いたオリジナルの神器。さっきから、この剣がずっと鳴っているから妙だと思っていたら、多分これと共鳴していたと思う」
「多分?」
「この剣はとても貴重で危険だから、身体から離したことはないの。この店には何度も来ているのに………こんなの初めて」
神器はその重要度と性質上、あまり身から離す事が出来ない。
紛失や盗まれた事を考えれば、余りの危険性に大変な事になるのは火を見るより明らか。
だからこそ天子はその説明を聞いた時から、四六時中持ち歩く様になったのだ。
しかし疑問が残る、何故今反応したのだろうか?
「灯さん、誠一君が持って来たのは前からあったんですか?」
「ああ、開店当初からあるものだ。………そうだったな、君の持つ荒覇吐も神器だったな」
「それじゃあやっぱり、コレは!!」
「ああそうだ」
そう言うと灯は制服の胸ポケットから、一枚の金属の板を取り出す。
それは奇妙な紋様が描かれた、カード状の板。
彼女はその板を箱の上部にあった凹みに嵌め込むと、呪を唱える様に呟いた。
「割符に従い開け、コード9A7K8L」
するとどうだろう細長い金属の箱の中央が、手が入る位の小さな口が開いた。
「彩………だったな。手を入れて中の物を取り出してくれ」
「私?」
「そうだ。外側の封印は私が作った物だが、中にある物は………私が君の姉、奈緒美から預かった物だ」
「姉さんの………」
彩は姉の名前を聞き目を見開く。
最初から姉と彩を見間違えた時点で、見た目の歳から考えても知り合いか顔見知り程度だと思っていた。
しかし、こうやって物を預かると言うならば、もっと親しい関係なのかも知れない。
だけど、持って来た誠一の顔色を変える物をそう簡単に手を入れて良いものかと考える。
そう考えて手を中に入れるのを戸惑っていると、誠一が彩に声を掛ける。
「彩さん、多分大丈夫」
「そんなに顔色を真っ青にして、大丈夫なんて説得力ないわ」
「大丈夫だよ。顔色悪いのは多分、励起法を削られているから。この中に何が入っているか解らないけどさ、この中のモノが強力な神域結界を使って君を呼んでいるのが解るんだ」
「私を呼んでる?」
そうと頷く誠一の目を見れば、能力を使わなくても解る真っ直ぐな意志。
彩は負けるわと呟き、テーブル越しに誠一を見詰める天子に牽制をかけながら意を決して穴に手をいれた。
「っ!?!?!?」
「空間を歪めて、実体積以上の空間を作り出す儀式法具だ」
手を入れると、箱の大きさ以上に腕が入ってしまい彩は思わず驚いた。
聞いた事がある儀式に、灯の説明にどこか納得した彩は更に腕を入れる。
「あった」
「むっ」
「共鳴が治まった」
何かを掴んだのか、彩が行動した途端に誠一と天子、能力者二人が反応した。
誠一は圧迫感がなくなった事で、天子は自身が持つ神器の共鳴が治まってからだ。
同時に彩は腕を箱から引き抜く。
これが能力者と儀式法術の事て知っていなければ、見た目どこぞのマジシャンのショーだなと、桂二は今更ながら自分の入った世界の荒唐無稽さに自嘲する。
スルスルと出て来たのは一本の棒。
「これは、杖?」
それは俗に乳切木と呼ばれる、杖術に使う杖だ。
丁度中央辺りに何か銘が書かれてあった。
「事代主?」
「そうだ遥か神代に存在した『託宣』を司る神の名。そしてそれが彼女、奈緒美から………遺品として渡されたものだ」
「どういう事!!」
灯の言葉が終わるよりも早く、彩は『遺品』の一言で彼女に詰め寄る。
「何であんたが、どうしてあんたが遺品を、姉さんはいったい何処!!」
「彩さん落ち着いて、励起法はマズイって!! 手っ離して!! 灯さんが死んじゃう!!」
「それじゃ灯さん喋れないって!! 早く離しなさい!!」
我を忘れて励起法で掴み掛かる彩を、誠一と天子は励起法で無理矢理引きはがす。
正直洒落にならない、我を忘れた熊が女性につかみ掛かる様なモノだからだ。
その証拠に、灯は床に座り込み咳込んでいた。
「大丈夫ですか、灯さん」
「グッゴホッ、大丈夫、すまないな桂二………」
桂二に手を借りながらテーブルに着く灯が彩を見れば、二人に腕を掴まれ両サイドから捕まっている姿が見えた。
「話を聞いて貰えないだろうか………」
顔色を変えた沈痛な面持ちの灯。
彼女の姿に少し落ち着いたのか、彩は励起法を絞り効力を落とした。
それに気付いた誠一と天子は、ユックリと掴んでいた手を離す。
「とりあえず座ってくれ」
灯は全員に椅子を勧め、全員が椅子に座ったのを確認すると決意した様に口を開いた。
「話は10年前に遡る」




